本記事は、遠越段氏の著書『2500年も読み継がれている戦略の教科書 図解大人のための孫子の兵法』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています

主君と将軍の関係は距離を保つことが肝要

距離感,上司,部下
(画像=jessie/PIXTA)

夫れ将たる者は国の輔なり。輔周なれば国必ず強く、輔隙なれば則ち国必ず弱し。故に君の軍に患うる所以の者に三あり。軍の進むべからざるを知らずして、これに進めと謂い、軍の退くべからざるを知らずして、これに退けと謂う。是れを軍を縻すと謂う、三軍の事を知らずして、三軍の政を同じうすれば、則ち軍士惑う。三軍の権を知らずして、三軍の任を同じうすれば、則ち軍士疑う。三軍既に惑い且つ疑うときは、則ち諸侯の難至る。是れ軍を乱して勝を引くと謂う。

【大意】

そもそも将軍とは国の補佐役である。補佐役が主君と密接であればその国は必ず強くなり、補佐役と主君の間にすき間があれば国は必ず弱くなる。そこで主君が軍に関して起こしてしまう問題は3つある。第一は、軍が進撃してはいけないことを主君が知らないで進撃せよと命令し、軍が退却してはならないことを知らないで主君が退却せよと命令する。このように主君の勝手な振る舞いによって軍は不自由な状態になるのである。

第二は、軍隊の事情を知らないのに将軍とともに軍隊の管理を行えば兵たちは迷ってしまう。第三に、軍における臨機応変の処置もわからないのに軍の指揮を将軍と同じように行うと兵は疑いを持ってしまう。軍が迷ったり、疑ったりすれば、隣国の諸侯たちが兵を挙げて攻めてくることになる。このように主君と将軍の間に距離があると、軍が乱れ、自ら勝利を取り去ってしまうことになるのである。

【解説】

軍を企業に置き換えれば、主君とは、企業であれば社長である。将軍とは、部門のトップ責任者といってよいであろう。

孫子は、権限の所在は主君にあって、その信任を得た将軍との関係が密で、信頼関係が厚い組織は必ず強くなるという。逆に関係が密でなく、あるいは、主君が将軍を信用しなければ必ず組織は弱くなるといえる。主君や企業の社長が、部門の責任者を無視して直接あれこれ現場に口を出すことは現場の混乱を招き、組織を弱くする恐れがある。

もし社長が部門のトップを信頼できないのであれば、直接現場を指揮するのではなく、部門のトップを交代させればよい。有能で信頼できるトップを置かない限り組織は弱くなる。

また、主君や社長などの最高権力者が陥りやすいのは、将軍や部門のトップ人事を能力や器量でなく、口のうまいお調子者を選んでしまうことである。信頼の前提は、戦いや競争に勝てる将としての能力を有していることなのである。

企業のトップとNo. 2の理想的な関係と言えば、思いつくのはいろいろとある。ホンダの本田宗一郎と藤沢武夫、パナソニックの松下幸之助と高橋荒太郎──。ここではソニーの井深大と盛田昭夫の関係を紹介しよう。

一時代をつくったソニーのウォークマンは、井深のリクエストで試作品がつくられた。当初、経営陣は録音機能のないカセット機器の販売を危ぶんだが、盛田が関係各位へ働きかけて製品化となった。そして世界的な大ヒットとなったのである。

後年、井深が文化勲章を受章したとき、会見で井深をサポートしたのは盛田だった。トップとNo. 2が信頼で結ばれているからこそ、組織が効果的に機能したのである。

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(画像=『2500年も読み継がれている戦略の教科書 図解大人のための孫子の兵法』より)
2500年も読み継がれている戦略の教科書 図解大人のための孫子の兵法
遠越段(とおごし・だん)
東京生まれ。早稲田大学法学部卒業後、大手電器メーカー海外事業部に勤務。1万冊を超える読書によって培われた膨大な知識をもとに、独自の研究を重ね、難解とされる古典を現代漫画をもとに読み解いていく手法を確立。著書に『『ワンピースの言葉』『ゾロの言葉』『ウソップの言葉』『桜木花道に学ぶ“超”非常識な成功のルール48』『人を動かす! 安西先生の言葉』『20代のうちに知っておきたい読書のルール23』『世界の名言100』『心に火をつける名言』(すべて総合法令出版)などがある。

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