故郷のスコットランドから南アフリカにやってきたジェミー・マクレガー。ダイヤモンドラッシュに沸くこの地で一獲千金を夢見る彼は、16歳だった――。

シドニィ・シェルダンの小説『ゲームの達人(原題:The master of the game)』のストーリーの一部である。子どもの頃、筆者がロンドンの図書館で初めてこの分厚い本を手にとったときは「ビデオゲームの話かな?」と思ったものである。読み進めると、タイトルの「ゲーム」がビジネスを指していることを知るのだが、正直もっと違うタイトルにしたほうが良いのでは? と子ども心に思った記憶がある。子どもの頃はつまらなく感じていたのに、年齢を重ねてから読み返すと、登場人物の心情の深さや、セリフに味わいを感じ、評価がぐんと上がる小説がある。筆者にとって『ゲームの達人』はそんな一冊だ。

ところで、21世紀の現在は本当に「ゲーム」でお金を稼ぐことが可能となった。ゲーム(Game)とDeFi(分散型金融)(*)が融合した「GameFi(ゲームファイ)」がそれだ。2022年1月16日にブルームバーグが配信した記事(英語版)では、GameFiについて「プレイして稼ぐ」をコンセプトとする、「経済的インセンティブを備えた分散型アプリ(Dapps)」と定義付けている。この分野は、世界的に大ヒットした『アサシン クリードシリーズ』を開発・販売したユービーアイソフトや、『ファイナルファンタジーシリーズ』でお馴染みのスクウェア・エニックスも関心を示すなど急成長の可能性を秘めているといえそうだ。

今回は「GameFi」についてレポートする。


DeFiとは? 利益を稼ぐ仕組みとメリット、デメリット(ZUU online)


ゲーム内のアイテムやキャラクターを売却、収益化を目指す

GameFi,とは
(画像=ryanking999 / pixta, ZUU online)

お金を預ける、借りる、投資をする、保険に加入する……このような金融サービスを利用する場合、これまでは銀行や証券会社、取引所、生命保険会社などの「中央管理者」が仲介するのが常識とされてきた。これをCeFi(中央集権型金融)と呼ぶ。

その一方で、近年は「中央管理者」を必要としない金融仲介アプリケーションも登場している。それがDeFiだ。

DeFiのすべての取引はブロックチェーン上に記録される。取引記録が正しいかどうかを精査し、承認するのはあくまでユーザーである。オープンソースのプロトコルを使って取引に関する情報をユーザーが検証することで、低コストでボーダレス、かつ透明性の高い金融サービスを実現している。先のCeFiが日本語で「中央集権型金融」と呼ばれるのに対して、ユーザー同士がお互いに管理し合うDeFiは「分散型金融」と呼ばれている。

このDeFiの仕組みをゲームに取り入れたのが「GameFi」である。GameFiの最大の特徴は、ゲーム内のアイテムやキャラクターなどの多くが「NFT(非代替性トークン)」ということだ。NFTは、文字通り代替が不可能な「唯一無二」のデータである。つまり、ゲームによっては世界に1つしかないオリジナルのレアアイテムやキャラクターを獲得したり、作ることもできる。さらに、それらレアアイテムやキャラクターを、NFTマーケットで仮想通貨に交換することも可能なのだ。このような仕組みからGameFiは「NFTゲーム」「ブロックチェーンゲーム」と呼ばれることもある。

たとえば、トレーディングカードゲームの『Crypto Spells(クリプト・スペルズ)』は、ゲーム内で入手したカードをNFTマーケットで販売することが可能だ。また、ゲーム内で「カード発行権」を入手すると、オリジナルのカードを発行することもできる。

モンスターを集めて対戦するゲーム『Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)』は、プレイすることで仮想通貨のSLPを入手できるほか、アリーナ(対人戦)に勝利して上位ランクになるとゲーム内の独自通貨として発行されるAXSを獲得することもできる。また、公式サイト内にあるNFTマーケットにおいて、モンスターやアイテムをイーサリアム建で売却することも可能だ。

一方、『The Sandbox(ザ・サンドボックス)』はオープンワールドで建物を作ったり、オリジナルのゲームを作ることもできる。ゲーム内の土地の売買に加え、「ボクセルアート」という作品を作り、それを販売することで収益化を目指すことが可能だ。

日本でも着実に浸透するGameFi、一方で価格変動リスクも

前述の通り、2021年10月には『アサシン クリードシリーズ』を開発・販売したユービーアイソフトが、香港を拠点とするブロックチェーンゲーム開発スタートアップのアニモカブランズ(Animoca Brands)への投資を明らかにしたほか、『ファイナルファンタジーシリーズ』でお馴染みのスクウェア・エニックスの松田洋祐社長も2022年の年頭所感で独自のNFTの発行を見据えていることも明らかになっている。

ちなみに、通販サイトのアマゾンで「GameFi」と検索をかけると、119件のKindle本などがヒットする(2022年1月24日現在)。検索の上位には「GameFiで稼ぐ方法」といった趣旨のタイトルが多く並んでおり、日本でも着実に浸透しはじめているようにも見受けられる。

だが、ここで注意しなければならない点もある。