国際NGO「Oxfam」によると、新型コロナウイルス・パンデミックで世界の富豪10人の資産は倍増し、他方で99%は収入が減少したとの由である(参考)。特にジェフ・ベゾス、イーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグらは、2020年に今次パンデミックが始まって以来、富を2倍にしているという。我が国でも、コロナ禍による「二極化」が“喧伝”されているが、果たしてその実態とは如何なるものなのか。

今次パンデミック下において、富裕層は主に以下のような消費動向を示している。

●パンデミックにより「寿命は短くなり得る(life can be short)」ことを認識した富裕層は、高級品への投資を増加させており、特に、ロールス・ロイスは昨年(2021年)、117年の歴史の中で過去最高の販売台数を記録した。

●高級車の他、スーパー・ヨットやプライベート・ジェット、宇宙旅行、NFT(非代替性トークン)作品も人気となっている。

●ロンドン、パリ、ニューヨークなどでは、高級不動産市場が活況を呈している。

コロナ禍における「富の二極化」の真相~パンデミックを乗り切る「生き方」とは~
コロナ禍で過去最高の販売台数を記録したロールス・ロイス|出典:dailymail

とくに、不動産市場に関しては、世界における地政学リスクの高まりを背景に、より安定した安全な逃避先“セイフ・ヘイヴン(safe haven)”が求められる中、ロンドンでは、ロシア、中国からの資本逃避(キャピタル・フライト)が加速し、高級不動産市場が2倍に成長しているという(参考)。ロシアにおいては、ウクライナ情勢による米国からの経済制裁を懸念したキャピタル・フライトが今後も加速することが考えられる。

もっとも、直近のロンドン高級不動産市場では、取引コストの上昇、すなわち、ポンド高の影響と、印紙税が2%上乗せされるという事情を背景に、急速に外資勢の買い手が減少しているとの指摘もある。他方で、「次なる“セイフ・ヘイヴン(safe haven)”」として注目され得るのは、あるいは我が国ではないだろうか。厳格な都市封鎖(ロックダウン)で経済活動が停滞している欧米よりも、我が国の方が比較においてマネー・フローが向かいやすいという背景もあり、大型不動産には引き続き、多くの外資勢が流れ込んでいる。

コロナ禍における「富の二極化」の真相~パンデミックを乗り切る「生き方」とは~
日本で1兆円の投資に踏み切る米系不動産ファンド「ベントール・グリーンオーク」のソニー・カルシCEO|出典:CHRIS RISING

他方で、「Oxfam」は「99%の人たちは収入が減り、1億6000万人が貧困に陥った」と指摘しており、格差の拡大を懸念している。とくに、アフリカやラテン・アメリカ、カリブ海諸国に住む10億人の婦女子の合計を上回る資産を、252人の富豪男性が所有しているとの試算も出されている(参考)。

しかし、先進国・途上国間の格差(南北問題)、途上国間での格差(南南問題)は「コロナ禍」以前からの課題であり、むしろ、先進国に限ってみれば、中間層は貯蓄を拡大させ(参考)、以下のような、「プチ贅沢(a little luxury)」の需要すら高まっている(参考)。

●家電、寝具等で高級化シフト
●サブスクリプション・サービスの増加
●贅沢なお取り寄せ
●(閑散期でもほぼ満席になる)クラスJ(参考

たとえば、富裕層が所有するペントハウスやリゾート地の別荘などは、中間層が住む都心のマンションや郊外の一軒家と比べると、確かに快適であろう。また、豪華なプライベート・ジェットとエコノミー・クラスでは、金額面でも雲泥の差がでてくる。しかし、少なくとも、先進国において、富裕層の物質面での優位は非常に小さくなっており、前記の例をみても、実質的な体感レベルでは、中間層が「大変」快適な生活を送っているのに比べて、富裕層は「物凄く」快適な生活を送っている、という程度ではないか(参考)。ジークムント・フロイトの言うところの「小さな差異のナルシシズム」を刺激するようなビジネスこそが、あるいは「アフター・コロナ」の需要を牽引することの表れとも言えよう。

コロナ禍における「富の二極化」の真相~パンデミックを乗り切る「生き方」とは~
カタール航空のプライベート・スイート「Qsuite」|出典:CNN

では、最後に貧困層についてはどうであろうか。米国においては、「コロナ禍」を受けた政府支援策により社会的弱者はむしろ恩恵を受け、可処分所得を改善させている部分もある、との分析もある(参考)。ジニ係数にみる格差も2020年は拡大したものの、その後は横ばいとなっており、さらに「eコマース」拡大による輸送・倉庫業務の拡大を背景に、低スキル労働者であっても短期的には雇用見通しは「コロナ禍」前よりも明るいというのだ(中長期的には、これらの業務はロボットによる代替が加速する中で、排除され得る)。

では、こうした分析は、貧困層の実態を反映した適切なものなのであろうか。また、我が国にも当てはまるのであろうか。

ここで着目すべきは、インフレの動向である。米労働統計局が去る(2022年)1月12日に発表した昨年(2020年)12月の消費者物価指数(CPI)は前年比で7%上昇しており、これは約39年ぶりの高水準とされている。今後、ガソリンや食料品全般の価格も値上がりしていく中で、数字の上で可処分所得は改善しても、実質賃金は目減りし、家計への影響は深刻にならざるを得ないのではないか。また、「デフレ・スタート」とも言える我が国においても、その影響はある程度縮減されマイルドになるとしても、今後、給付金などの支援が余程拡充されない限りは、家計への影響は徐々に忍び寄ってくるであろう。

「コロナ禍」というトンネルを抜けた先に明るい未来が待っているので、それに向けて「今は備える」という認識で、個人も企業も現状をあるいは認識しているかもしれないが、実際、トンネルを抜けた先には「コロナ禍」前の明るい未来など待ち受けてはおらず、むしろ現時点でどれだけ「次のフェーズ」への移行を図れたかどうか、という点こそが「アフター・コロナ」の生き方として求められるのではないか。


[寄稿]原田 大靖
株式会社 原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA) グローバル・インテリジェンス・ユニット シニア・アナリスト。東京理科大学大学院総合科学技術経営研究科(知的財産戦略専攻)修了。(公財)日本国際フォーラムにて専任研究員として勤務。(学法)川村学園川村中学校・高等学校にて教鞭もとる。2021年4月より現職。