この記事は2022年3月15日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「データで見るコロナ禍の行動変容(4) ―― 移動手段の変容~公共交通機関からパーソナル手段へのシフト」を一部編集し、転載したものです。
要旨
コロナ禍で電車やバスなどの公共交通機関の利用が控えられ、自家用車や自転車などの利用が増え、公共交通機関からパーソナルな移動手段の利用へとシフトしている。パーソナル手段としてカーシェアやシェアサイクルもあるが、日本シェアリングエコノミー協会によれば、旅行による利用は減る一方、公共交通機関の代替や食事の宅配等の利用が増えることで、コロナ禍前と比べて市場は拡大している。
性年代別に見ると、感染不安の強い女性や感染による重篤化リスクの高い高年齢層ほど公共交通機関の利用控え傾向が強い。ただし、高年齢層ではパーソナル手段の利用が他年代と比べて増えているわけではないため、外出そのものを控えているようだ。職業別にはパーソナル手段に違いがあり、専業主婦・主夫は自家用車、公務員は自家用車やカーシェア、学生は徒歩が多いという特徴がある。
総務省「家計調査」によると、コロナ禍で公共交通機関の交通費は軒並み大幅に減少しており、減少幅は航空運賃、鉄道運賃、バス代、タクシー代の順に大きく、移動距離が長いほど減少幅が大きな傾向がある。ただし、コロナ禍2年目の2020年ではいずれも回復傾向を示している。なお、需要の増す自動車の販売台数はコロナ禍前を上回る時期もあったが、足元では半導体不足の影響等から供給不足の状況にある。
今後、季節性のインフルエンザ並みに新型コロナウイルスを制御可能となった際は、非接触志向が緩和されることで、公共交通機関の利用は自ずと回復基調に向かうだろう。しかし、テレワークの浸透による通勤や出張による利用減少は避けられない。現在、鉄道会社では業態転換も含めた、新たな需要の取り込みを模索する姿が見られるが、今後とも新領域の開拓を視野に入れた事業展開が求められる。
コロナ禍で自動車需要が増す状況は「モノからコトへ」という消費行動の変化と逆行するようだが、消費者が求めているのはパーソナルな移動空間である。郊外居住などが増え、クルマ離れの若い世代の需要が一部で増す期待もあるが、中長期的にはCASEの進展による移動サービス(コト)としての見方が強いだろう。企業はモノから移動サービスとしての価値という発想へ、いかに切り替え、広げていけるかが肝要だ。