この記事は2022年5月10日(火)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『リフレの力の質を高めるのが成長投資』」を一部編集し、転載したものです。
成長と分配の好循環を目指す新しい資本主義
岸田内閣の成長と分配の好循環を目指す新しい資本主義は、効率重視の成長を目指す自由主義から明確に転換します。鍵は、緊縮財政から積極財政への転換で、積極財政抜きには、新しい資本主義は稼働できないことです。
これは当然で、企業と政府の合わせた支出をする力であるネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)を、緊縮財政で消滅させて失敗したのが新自由主義で、逆に新しい資本主義は、積極財政でネットの資金需要を回復させ、家計に所得を回すことが定義となるからです。
さらに、ネットの資金需要が生み出すリフレサイクル(膨らむ力)の質(クオリティ)を高められるかを左右するのが成長戦略となります。岸田内閣の財政政策としては、まだ所得分配や緊急対応の財政支出に偏っています。
▽リフレ・サイクルを示すネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)
成長投資
注目は、もう1つの財政支出の柱である成長投資です。成長戦略がどれほど強く打ち出されるのか、そして成長投資にどれだけ予算をつけることができるのか、成長投資の財政支出を種としてネットの資金需要が生み出す膨らむ力を拡大し、質を高めることができるのかが問題となります。
自民党の衆議院選挙の公約の中には、グリーン、デジタル、経済安全保障を中心に、具体的にどこに成長投資をしていくのかというメニューが載っています。このメニューにしっかりとした予算を付けられれば、岸田内閣の目線がようやく分配から成長のほうに向いてきたのではないかと、マーケットの考え方は変わっていくでしょう。
成長戦略
成長戦略は、リストラではなく、投資によるイノベーションで生産性を向上させることが目的です。図2の赤が潜在成長率の動きで、日本の実力の成長率を示します。潜在成長率は、資本投入量、労働投入量、そして生産性の合計になります。
日本の潜在成長率が落ち込んでしまった大きな原因は、企業の投資が鈍り、緑の資本投入量が弱くなってしまったことです。これまでの効率を重視する新自由主義では、コスト削減などで生産性の直接的な向上を目指してきました。
青が生産性の動きです。バブル崩壊後、日本経済の生産性が上昇した局面は、確かに2回ありました。1998年からと2008年からです。これは、日本の金融危機とリーマンショックの後、企業が大胆なリストラをして、コストを削減した結果です。
しかし、リストラなどの、効率化のみの生産性の向上は長く続きません。リストラなどによって、総需要が破壊され、デフレ圧力がかかり、経済に、縮小の力がかかってしまうからです。
▽潜在成長率
成長促進の可能性
新しい資本主義では、積極財政によるネットの資金需要の回復で家計に所得を回し、総需要を回復させ、利益を出しやすくする環境を作り、企業の投資の期待リターンを引き上げることが重要になります。
そして、グリーンやデジタル、先端科学技術、経済安全保障などを中心に、政府が成長投資を拡大して、民間投資の呼び水となる必要があります。
投資の拡大による資本投入量の増加とともに、総需要の拡大をともない、イノベーションで生産性が上昇することが重要です。
図2では、緑が上がるとともに、青も上がるようになれば、日本経済はデフレ構造不況から脱却することができたことになります。規制や制度の改革は、単純なコスト削減ではなく、投資がイノベーションを生み、新たな需要の創出につながる環境を整えるものであるべきです。
成長戦略の推進による投資の拡大が、デフレ構造不況脱却への力となります。そのためには、成長投資のメニューに大胆に予算を付けることが重要です。そこにしっかり予算が付けば、マーケットは、新しい資本主義による成長促進の可能性をしっかり感じるようになると考えます。
成長投資のメニュー
6月に2023年度の政府予算編成に向けた骨太の方針がまとめられます。積極財政の妨げとなってきたプライマリーバランスの黒字化目標が棚上げされ、積極財政にしっかり転じ、新しい資本主義を稼働できるのかに注目です。
積極財政への転身で、新たな財源を積極的に使うことができ、同時に、ネットの資金需要の拡大で家計に所得を回す、マクロの構図、そして、総需要と総供給の相乗効果による、成長を取り戻すことにもなります。
予算のつかない成長戦略は動かず、新自由主義の失敗となりました。新しい資本主義の成長戦略は、予算をしっかりつけて、動かす必要があります。
7月の参議院選挙に向けて、自民党の政権公約の成長投資のメニューは拡大し、アップデートされることになります。選挙後に成長投資の大規模な経済対策が実施されるでしょう。
このメニューの周りには、官民一体となったマネーが集まりますので、株式市場のテーマになっていくとみられます。
▽自民党の衆議院選挙の公約の中の成長投資
成長投資とは、日本に強みある技術分野を更に強化し、新分野も含めて研究成果の有効活用と国際競争力の強化に向けた戦略的支援を行うこと。
小型衛星コンステレーション等の衛星・ロケット新技術の開発や、政府調達を通じたベンチャー支援等により、宇宙産業の倍増を目指します。
宇宙・海洋資源、G空間、バイオ、コンテンツなど、新たな産業フロンティアを官民挙げて切り拓きます。
日本に強みがあるロボット、マテリアル、半導体、量子(基礎理論・基盤技術)、電磁波、電子顕微鏡、核磁気共鳴装置、アニメ・ゲームなど多様な分野につき、技術成果の有効活用、人材育成、国際競争力強化に向けた戦略的支援を行います。
産学官におけるAIの活用による生産性の向上や高付加価値な財・サービスの創出、5Gの全国展開、6Gの研究開発と社会実装を推進します。
国産量子コンピュータの開発に取り組むとともに、量子暗号通信、量子計測・センシング、量子マテリアル、量子シミュレーションなどの技術領域を支援します。
2030年度温室効果ガス46%削減、2050年カーボンニュートラル実現に向け、企業や国民が挑戦しやすい環境をつくるため、2兆円基金、投資促進税制、規制改革など、あらゆる政策を総動員します。
カーボンニュートラルによる環境と経済の好循環実現のため、エネルギー効率の向上、安全が確認された原子力発電所の再稼働や自動車の電動化の推進、蓄電池、水素、SMR(小型モジュール炉)の地下立地、合成燃料等のカーボンリサイクル技術など、クリーン・エネルギーへの投資を積極的に後押しします。
究極のクリーン・エネルギーである核融合(ウランとプルトニウムが不要で、高レベル放射性廃棄物が出ない高効率発電)開発を国を挙げて推進し、次世代の安定供給電源の柱として実用化を目指します。
日本に世界・アジアの国際金融ハブとしての国際金融都市を確立するべく、海外金融機関や専門人材の受け入れ環境整備を加速させ、コーポレート・ガバナンス改革、取引所の市場構造改革、金融分野のデジタル化の推進などを通じて、資本市場の魅力向上を図ります。公平・公正・透明な金融市場への適正化を図り、金融商品に対する信頼確保に努めます。
未来の成長を生み出す民間投資を喚起するため、現下のゼロ金利環境を最大限に活かし、財政投融資を積極的に活用します。
オープンイノベーションへの税制優遇、研究開発への投資、政府調達など、スタートアップへの徹底的な支援を行います。
インフラの老朽化対策、地域の移動を支える地域交通や都市を結ぶ高速交通のネットワークの維持・活性化、地域での連携・協働の支援に取り組みます。
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