この記事は2022年5月18日(水)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『GDPでも円安は日本経済にポジティブ』」を一部編集し、転載したものです。
2022年1-3月期の実質GDP
2022年1-3月期の実質GDPは前期比-0.2%(年率-1%)と、コンセンサス(年率-1.8%程度)を若干、上回る結果だった。
2021年10-12月期の同年率+3.8%(+4.6%から下方修正)の高成長から、マイナス成長に転じた。2020年10-12月期から実質GDP前期比はプラスとマイナスを交互に繰り返している。
新型コロナウィルスの感染の波によって、経済活動に振れが生まれてしまっている。ストップ&ゴーを繰り返すことで、企業と家計の体力は徐々に削り取られているとみられる。
政府はエネルギー価格の上昇などに対する企業と家計の支援を含む小幅な経済対策(追加歳出2.7兆円)の実施を決定した。コロナの感染抑制もあり、2022年4-6月期の実質GDPは前期比プラスに戻ることができると考える。
しかし、日本経済をしっかりとした回復トレンドに乗せるには、2022年7月の参議選挙後に大規模な経済対策を行い、企業と家計の体力を増強するとともに、政府の成長投資の拡大で経済全体に成長モメンタムを与える必要があるだろう。
実質消費
2022年1-3月期の実質消費は前期比0%と、コロナの感染拡大によって、サービスを中心に大きな下押しを受けた。
2021年10-12月期の同+2.5%からの回復は続かなかった。感染抑制による経済活動の再開で、2022年4-6月期には前期比プラスに戻るとみられる。しかし、まだ弱い雇用・所得環境の下で、エネルギー価格の更なる上昇が家計の購買力を弱くしてしまっているため、V字回復とはならないだろう。
実質設備投資
2022年1-3月期の実質設備投資は同+0.5%と、2021年1-3月期の同+0.4%に続いて、プラスとなった。グリーンやデジタルを背景として、設備投資モメンタムは堅調である。供給制約への意識も追い風だ。
一方、輸送機械を中心に部品不足などにより生産が抑制され、設備投資が先送りされているようだ。追加経済対策による政府の成長投資が民間の設備投資の起爆剤となり、リベンジ消費からリベンジ設備投資に景気回復モメンタムが移行していくことが期待される。
実質政府消費
2022年1-3月期の実質政府消費は同+0.6%と堅調だ。2021年10-12月期はワクチン接種の動きが一服して同-0.3%と弱かったが、2022年1-3月期に接種が再び進んだことが下支えとなっている。
2022年1-3月期の実質公共投資は同-3.6%と、5四半期連続のマイナスとなり弱い。コロナの感染拡大や供給制約で公共投資の執行が遅れていることもある。
しかし、グリーンやデジタルへの投資、経済安全保障、国土強靭化などを推し進める必要があることを考えれば、公共投資の予算は不足している。追加経済対策で大きく積み増され、来年以降の実質GDP成長率を押し上げる要素となるだろう。
供給制約による在庫の取り崩しと、消費活動の弱さによる在庫の積み上がりのバランスは、後者が強かった。実質GDP前期比に対する民間在庫の寄与度は+0.2%となった。
実質輸出・実質輸入
2022年1-3月期の実質輸出は同+1.1%と、2021年10-12月期の同+0.9%に続き、2四半期連続のプラスとなった。グローバルな供給制約が、日本企業が得意とする資本財の輸出の拡大につながったとみられる。
一方、輸送機械を中心とする部品不足で生産が抑制されたことが、大きな下押し圧力となった。2022年4-6月期以降は、自動車の供給制約の解消が追い風となるが、ウクライナ情勢の影響を受けたグローバルな貿易の滞りの下押し圧力も受けてしまうことになるだろう。
2022年1-3月期の実質輸入は同+3.4%と、2021年10-12月期の同+0.3%からリバウンドが加速した。消費活動は弱かったが、ワクチンの輸入が押し上げたとみられる。実質GDP前期比に対する外需の寄与度は-0.4%となった。内需の寄与度も+0.2%と堅調だった。
GDPデフレーター
2022年1-3月期は原油などのエネルギー価格が大きく上昇し、輸入価格が大きく上昇した。一方で、輸出競争力を維持してる日本の企業は、コストをしっかり価格に転嫁し、輸出価格も大きく上昇した。
交易条件の悪化幅を縮小する力となったみられる。さらに、国内でもコストを価格に転嫁する物価上昇がみられ始めた。
2022年1-3月期のGDPデフレーターの前期比は+0.4%と、2021年10-12月期の同-0.6%からリバウンドした。前年同期比は-0.4%と、2021年10-12月期の同-1.3%から下落幅が縮小した。
円安はまだ日本経済にポジティブなもの
交易条件が悪化する中で、GDPデフレータと名目GDPが前期比プラス(+0.4%と+0.1%)となったことは、円安が重荷になっていないことを表す。
GDPデフレータの前年同期比はまだマイナスで、国内の物価上昇圧力はまだ弱く、日銀が金融緩和政策を縮小する可能性はほとんどない。2022年1-3月期の実質輸出のGDP比は+19.5%と、現行の基準で最高となっている。
生産拠点が海外に移り、インバウンド消費もなく、円安の日本経済に対する追い風の力が過去と比較し圧倒的に弱いというのは現実的な認識ではい。
円安はまだ日本経済にポジティブなものであると考える。エネルギー価格の上昇と円安で下押し受ける家計と企業には、更なる政府の経済対策で支援する必要がある。
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