本記事は、亀山陽平氏の著書『金持ち社長 貧乏社長』(セルバ出版)の中から一部を抜粋・編集しています
銀行に預けたまま、何も手を打っていない
社長も資産運用を考えなければいけない時代に突入
銀行預金に置いておくだけでは利息もほぼ付かず、お金が増えないことは社長も実感していると思います。現在の普通預金の金利は0.001%です。100万円を預けても、1年間でわずか10円しか利息がつきません。
昔は郵便局に預けておくと、金利が3〜7%という時代もありました。下掲の資料は平成3年7月29日現在の郵便貯金の利率です。定額貯金は預入期間が3年以上になると、年利率が6%になることがわかります。現在では考えられない利率ですね。
金融の世界で「72の法則」と言われるものがあります。これは72を金利で割った数字が資産が2倍になる年数になります。
例えば、金利が7.2%の場合は、10年間置いておくだけで資産が2倍になることを意味します。昔の郵貯の利率は6%ですので、72の法則に当てはめると、72÷6=12となり、何もしなくても12年預けておくだけで資産が2倍になったのです。低金利時代の今から考えると、まさに夢のような時代です。
金利が高かった時代は、年配の方が「とにかく貯金をしなさい」と言っていたのは理にかなっていたのです。預けておくだけで10年ちょっとで資産が2倍になったのですから。
しかし、現在の金利は0.001%。2倍にするためには、72÷0.001=72,000となり、7万2,000年置いておかないといけません。非現実的すぎますね。
預金に置いておくことが一番のリスクとなる
とはいえ、「預金は増えもしないけれど、減りもしないから、リスクがないから安心」このように考える社長も多いです。この考えは果たして正解でしょうか?
これまでは預金に置いておくことがある意味正解でした。なぜならば、これまでの日本は長らくデフレが続いてきたからです。デフレとは物価が下がることを意味します。デフレ時にはモノの価値よりもお金の価値のほうが相対的に上昇します。だからこそ、預金として置いておいても価値が下がることはなかったのです。
今後はインフレになることを予想している専門家が多いです。インフレとはデフレとは逆に物価が上昇することです。インフレ時には、お金の価値よりモノの価値のほうが相対的に上昇します。アメリカでは、新型コロナウイルス感染症による物流の制限も重なり、前年比で7%を超えるインフレ率になっています。私たちが住む日本のインフレ率はここまで高くなっていませんが、国としては2%のインフレ目標を掲げています。
2%のインフレとなると、物価が2%上昇することを意味します。そうなると、会社や社長の預金の価値が2%下落することになります。これが毎年続いていくと、10年で20%も預金の価値が下がってしまうのです。100万円の資産が10年後には何もしなくても80万円になってしまうのです。
つまり、インフレ時代においては、会社、社長個人ともに資産のすべてを現預金で持つのではなく、資産運用に回して、インフレ率以上に増やしていくことを意識することが大事です。
将来のシミュレーションもインフレを加味して考える
保険会社の営業マンとライフプランのシミュレーションをしたことがある社長もいるかと思います。将来どのタイミングでお金がいくらくらい必要になるかを事前に算定しておくことで、資金計画が立てられます。まだやったことがない社長は一度やってみることをおすすめします。
すでにやったことがある社長は、シミュレーションでインフレがしっかりと加味されているかをチェックしてみてください。将来のことをしっかりと考えてくれているアドバイザーの場合は、インフレも加味されたシミュレーションを作成してくれています。
もしインフレが加味されていない場合は、支出の総額がシミュレーションよりはるかに大きくなり、資金ショートを起こす可能性があります。もう一度インフレを加味したシミュレーション作成をおすすめします。
証券会社や保険会社のいきなりの提案に飛びつく
金融機関のおすすめ商品は社長にとってのおすすめではない
証券会社や保険会社の営業マンのおすすめ提案にいきなり飛びつくのは絶対NGです。提案前に社長の会社の経営状況、財務状況、今後の計画、社長の想いについて十分なヒアリングがなされていれば、営業マンがすすめる商品は検討に値するかもしれません。
しかしながら、十分なヒアリングがないまま商品提案された場合は要注意です。その商品は、社長の会社にとってのおすすめ商品ではなく、営業マンにとっておいしい(儲けが大きい)商品である可能性が高いのです。
現在は金融機関の経営環境も以前より厳しくなり、営業マンに課されるノルマもかなり細分化されています。売上目標を○○万円だけでなく、A商品の売上を○○万円、B商品の売上を○○万円、C商品の売上を○○万円……と細かくノルマが設定されています。
金融機関が販売に注力する商品はズバリ、金融機関にとって儲けが大きい商品です。もちろん金融機関にとって儲けが大きくて、社長の会社のニーズにも合致する商品であれば問題はありません。しかし、必ずしもそうはなっていないのが現実です。
大切なお金を失わないために、提案を受けてもいきなり飛びつかず、信頼できる人の意見を聞くなど冷静に判断をしてください。
ファイナンシャルプランナーは本当にお金のプロ?
世の中にはお金の専門家と言われている人が多くいます。ファイナンシャルプランナー、銀行、証券、保険の営業マンなどです。彼らの多くがサラリーマンのため転勤があります。そのため、商品を販売するときは熱心にサポートをしてくれますが、アフターフォローを依頼すると、転勤していて、フォローが十分になされないことがあります。
フルコミッションの保険営業マンの離職率は3年で90%と言われています。つまり、3年で10人中1人しか残らない世界です。肝心なフォローをお願いしても既に担当者が辞めていて、連絡が取れないなんてこともざらにあります。
ご縁をいただいてお会いする社長から、このようなことをよく言われます。
「うちに来る保険の営業マンは、契約をする前は『一生サポートします』『私にすべてお任せください』と調子いいこと言って。しばらく連絡がないなと思ってこっちから連絡すると、退職しましたって言うんだよ。ホントいい加減な奴が多くてイヤになるよ」と。
大切なお金を扱う立場の人間として、誠実に人と向き合うことが何より重要だと私は考えます。ファイナンシャルプランナーという資格があるだけで営業マンを信用するのではなく、人として誠実な人間であるかもよく確認をすることが大切です。
節税保険に入りすぎている
節税保険は本当に節税効果があるのか?
会社で利益が出たから、節税のために保険に加入している社長も多いのではないでしょうか?
税理士から節税対策として、保険の提案をされる社長も多いでしょう。保険営業マンから「社長この保険は掛け金が全額損金になって、節税対策にはもってこいですよ」こんな営業を受けて、かなりの金額の掛け金を支払っているケースを見受けます。
果たして、節税保険は本当に節税効果があるのでしょうか?ここで考えてみましょう。
数年前まで人気だった全額損金で返戻金があるタイプの保険についてです。掛け金の全額が損金となり、5年後に掛け金の80%程の返戻率となります。
当時の保険の設計書には「実質返戻率」という、よくわからない言葉が記載されていました。保険の営業マンは実質返戻率を「節税効果を加味した返戻率」と社長によく説明をしていました。実質返戻率を見ると110%(法人税の実効税率を30%と仮定)と記載があります。
ここまで見ると、節税になって、5年後に110%も返ってくるなんて何て素晴らしい保険なのだろう、と社長も感じるかもしれません。
節税保険は節税ではなく「税の繰り延べ」
ここに落とし穴があります。具体的な数字で確認をしてみましょう。
仮に年間の保険料が1,000万円だとします。5年間でのトータルの保険料は5,000万円です。5年後に戻ってくるお金は80%ですから4,000万円です。保険営業マンは、5,000万円が全額損金になるので、法人税の実効税率30%と仮定すると、1,500万円の節税効果がありますと説明をします。そうすると、4,000万円+1,500万円で5,500万円のリターンがあるから、トータル保険料5,000万円に対して110%の実質返戻率となる、というロジックです。
はたしてこれは正しいのでしょうか?
考えなければいけないのは、解約返戻金の税金です。解約返戻金にも税金がかかります。全額損金の保険の場合は、解約返戻金全額が雑収入として課税されます。つまり、全額損金の保険は入り口部分の掛け金は損金になりますが、出口でしっかりと課税をされるのです。
そういった意味で、節税保険は正しくは節税ではなく、単なる「税の繰り延べ」でしかないのです。出口部分も含めて計画をしておかないと、まったく意味がないのです。
赤字になっているのに、全額損金や半額損金の保険に加入している会社も見かけます。特にコロナ後は業績悪化により、赤字に陥ってしまう企業が増えました。有事の時こそ、保険は加入しっ放しにせずに、見直しをしてキャッシュフローの改善をしましょう。
さらに言うと、返戻率は80%しかないので。20%分の掛け金は損をしてしまっています。この部分をしっかりと理解しないで、全額損金で節税になるからと保険に入りすぎている社長は、一度整理をしてみることをおすすめします。
お金の手残りを増やすことが最優先事項
大切なことは、いくら掛け金を支払って、いくら返ってくるかのキャッシュの増減です。節税という魅力的な言葉に騙されずに、本質を捉えるように心がけてください。お金の手残りをいかに増やすかが大事です。入口部分だけではなく、出口対策も最初に考えておくことが手残りを増やすポイントです。
最近は、税制改正により全額損金で返戻率が高いタイプの保険はなくなっています。保険の内容はよく説明を受けてから加入をするようにしましょう。
なお、税金に関する部分は税制改正も多いため、顧問税理士によく確認をするようにしてください。
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