この記事は2022年6月17日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「賃金の伸び悩みを背景に依然低位な日本のインフレ率」を一部編集し、転載したものです。


賃金の伸び悩みを背景に依然低位な日本のインフレ率
(画像=Norman01/stock.adobe.com)

(厚生労働省「毎月勤労統計」ほか)

これまで解説してきたとおり、資源高・円安を受けて日本のインフレ率は急上昇している。しかし、米国の消費者物価(総合、2022年4月で前年比8.3%上昇)と比較すると、日本の消費者物価(同2.5%上昇)は相対的に低い伸びにとどまっている(図表1)。

米国では資源高に加えて、需要の強さを背景とした労働コストの高まりが物価を押し上げている。それに対して、日本はコロナ禍からの需要の回復が鈍く、サービス業を中心に賃金の伸びが低迷しているという違いが背景にある(図表2)。

労働コストが伸びないことは、供給面でインフレ率が高まらない要因となる。また、需要面でも賃金の伸び悩みは家計の購買力の低迷に直結し、前回(2022年6月14日号)解説したようにB to Cでの価格転嫁の動きを鈍らせる。

実際、2022年4月の日本の消費者物価の加重中央値(価格上昇率の高い順にウェイトを累積して50%近傍にある値)は過去最高値を更新したものの、それでも前年比0.3%の上昇にとどまっている。仕入れ価格の高騰に比して、日本の消費者物価の基調は依然として伸び悩みが続いている状況だ。

賃金の伸びを高めることは、家計の購買力の増大を通じて、物価高による個人消費への影響を抑えることにつながる。家計の購買力が高まれば企業も価格転嫁を行いやすくなり、交易条件悪化に伴う企業収益への影響を軽減できるため、結果として賃上げ余力を維持することにもなる。

物価高に対し、日本経済の耐性を高めるためには、賃上げの促進によりこうした好循環を実現させることが急務であり、岸田文雄政権が掲げる「人への投資」は極めて重要だ。

持続的な賃上げを実現するためには、能力開発支援の拡充により非正規雇用者を含めて人々がスキルを習得する機会を得られるようにし、労働者の高成長分野への移動を促すことが求められる。民間企業では非正規雇用者等に対して能力開発支援を行うインセンティブが小さく、「人への投資」が過小になる傾向があるため、公的な支援を拡大する意義は大きい。

デジタル化・グリーン化の潮流に対応したスキルなどを習得するための公的な支援を、大胆に拡充することは検討に値する。

賃金の伸び悩みを背景に依然低位な日本のインフレ率
(画像=きんざいOnline)
賃金の伸び悩みを背景に依然低位な日本のインフレ率
(画像=きんざいOnline)

みずほリサーチ&テクノロジーズ 上席主任エコノミスト/酒井 才介
週刊金融財政事情 2022年6月21日号