本記事は、澤口俊之氏の著書『仕事力が劇的に上がる「脳の習慣」』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています

知能が高ければ仕事と人生に成功

知能
(画像=9dreamstudio/stock.adobe.com)

知能が高いほど仕事を継続し年収も多い

知能(一般知能を含む人間性知能HQ)は適応力ですから、社会的には教育によって知能を向上させるようにしていますし、社会人になるまでに限っても個々人は学校教育以外の様々な営為(部活や遊び、バイト、旅行など)によって無意識に知能を伸ばそうとします。

ただし、知能の指標の一つである学力に個人差があるように、知能には個人差が当然ながらあります。社会人になった時点でもそうで、学力的には同じ位であっても知能には(学力以外の複数の能力・認知機能を含みますから)個人差があります。

そこで、知能(人間性知能HQ)の個人差に着目して、ある企業で新入社員の知能を入社時に測定しておいて、1年間で退社してしまう新入社員とそうではない社員の知能を比較調査したことがあります。

調査した企業はブラックでも何でもない一流企業なのですが、仕事内容が高度なせいもあって1年以内に挫折して退社してしまう新入社員が30〜40%いたんです(調査当時)。

調査結果は予測通りで、知能が低い新入社員の一群(約40%)が1年以内に退社してしまい、高知能の新入社員は1年後も残っていました。当該企業・仕事にうまく適応できた社員が残ったわけで、まさに知能=適応力です。ちなみに、いわゆる「適性検査」の評価と早期退社は無関係でした。

この調査では新入社員以外の社員の知能も調べたのですが、より高度な職種ほど知能が高いことが分かりました。具体的には、一般社員よりも係長クラス、係長クラスよりも部長クラス、といった順で知能が高く、一般社員と係長クラスでの知能差は特に大きかったです。つまり、知能が高い社員ほど出世するわけです。

こうしたことは年齢とは無関係で、ほぼ同年齢でも一般社員と係長クラスの間で知能差はかなりありました。定年近い一般社員の方々も、比較的若い係長クラスの社員よりも知能が大幅に低かったです――調査した側としてはそこはかとなく悲しい感じがしたものです。

今述べた調査とほぼ同時期に、「弊社には、会社にかなり貢献する社員とあまり貢献しない社員がいる。脳機能に違いがあるかどうか調べてほしい」と頼まれたことがあります。

その企業は他の多くの企業と同様に実力主義を採用していて、社員の社内評価はそれなりに厳しく、給与も実力に応じたものでした。

この種の差異も当然ながら知能の個人差(社員差)に因よるものだと予測できるので、各社員の知能(人間性知能HQ)を調べ、人事担当の方から各社員の評価と実力に応じた年収をお聞きして解析したところ、予測通りキレイな相関が見つかりました。つまり、知能が高い社員ほど社内評価が高く、実力に応じた年収も(当然ながら)多い、という調査結果でした(この企業でも、適性検査と実際の社内評価・年収は、やはり、無関係でした)。

このデータも知能=適応力ということを端的に示していて、ビジネスパーソンに最重要なのは知能(人間性知能HQ)ということの根拠にもなっていますが、先ほどの「職種(係長・部長など)と知能との関係」と同様に、企業環境への適応というのは、受動的なものではなく、生産性や価値の創出という能動的なものであること(創造力やイノベーション力などを含むこと)を示しています。

また、企業の生産性には協調性が相当に重要であることは各種調査で以前から分かっていますが(2022年にも米国系企業に関する論文あり)、知能には協調性が含まれていることも留意すべきで、この点からも当該調査結果は理に適っています。

知能が高いほど社会経済的地位が高い

上記の調査研究では調査した企業も社員も限られていてデータ数的に多少問題がありますが、日本企業でのこの種の調査研究は少ないのであえて述べた次第です。

知能学の先進国である欧米ではもっと大規模な調査研究が以前からあって、知能が高いほど社会的地位が高く年収や資産が多い、というデータが(当然ながら)一貫して出されています。この関係はとても明確(線形的)で、知能が高いほど年収や資産は右肩上がりで多くなります。

社会的地位に関しても同様で、知能が高いほど企業的に高度な地位に就く、という関係もかなり明確(線形的)です。

CEOの知能は高い、ということもまさに常識の範疇ですし、経営者たちのIQの平均値は115以上(上位16%内)という具体的な数値も米国では出されています(こうしたデータも、また、適応力としての知能が受動的なものではなく、企業経営という高度で能動的な能力であることを端的に示しています)。

知能の脳内中枢は前頭前野ですから、経営者やリーダーたちの前頭前野が独特な特徴を持っていることも推測されますが、このこともやはり実証されています。

この辺の研究はやや専門的になるので簡単に述べれば、経営者やリーダーたちは前頭前野を中心とした神経ネットワークが複雑、ということです。特に成功したリーダーがそうで、前頭前野の神経ネットワークは複雑で、かつ、状況に応じて柔軟に対処できることが示されています。

変化する状況にうまく(能動的に)適応して適切な判断を行なうことは、優れたリーダーたる経営者・CEOにとって重要な能力です。この能力は知能の重要な要素で、かつ、前頭前野の主要な認知機能でもあるので、こうしたデータはまさに予測通りです。

あえて補足すると、社会的地位が高く年収の多い親の子どもでは前頭前野の認知機能が高いという調査研究が比較的最近でもわざわざ公表されています。

成人での知能と社会的地位や年収・資産との結びつきが「常識」なので、ではそうした成人の子どもたちの知能はどうか? という疑問をもって、かつ、前頭前野の認知機能に注目して調べたところ、仮説通りだった、ということですね。

同様の研究データ(親の社会的地位や年収と、子どもの知能・学力や前頭前野発達との相関)は以前からかなりあります。社会的地位が高くて年収が多い親の子どもは生まれながらに有利、ということで、社会的地位や年収は世代を超えて受け継がれるということを示しているわけです。

高い知能は、こうした「世代超え」を踏まえても、人生に重要であることは明らかです。

知能が高いほど健康で長寿

知能は(くどいですが)適応力なので、知能が高ければ社会環境にうまく適応して社会的地位が高くなり、年収や資産が多くなること、つまりは、社会経済的地位(socioeconomicstatus、SES)が高くなることは当然のことです。

同じ理由(知能=適応力)で、知能が高ければ自然環境+社会環境にうまく適応して、健康長寿になることは予測できることですが、このことも20世紀後半から多数の調査研究で実証されています。知能が高ければ健康で長生きする、ということですね。

また、知能が高いと交通事故に遭う確率が低く、IQ100未満の人たちと比べて100以上の人たちでは交通事故死の確率は2分の1〜3分の1、というデータもあります。

まさに「知能=適応力」で、知能が高いと疾病回避+危険回避の能力が高いんです。なので、知能と死亡率の間にはキレイな相関があって、知能が高いほど線形的に(右肩下がりで)死亡率が低く、右肩上がりで寿命が長くなります。

日本では肥満の人は比較的少ないですが、「万病の元」とされる肥満(脳科学や医科学ではBMI30以上を指すことが多いです)の人たちでは脳が小さいことはこれまた以前から(欧米では)分かっています(BMI〈Body Mass Index〉=肥満度指数ないし体格指数=体重〈㎏〉を身長〈m〉の2乗で割った値:体重70㎏、身長171㎝なら、70÷1.712で、約24――身長〈m〉の2乗に30を掛けた体重以上の場合、BMIは30以上)。

そこで、知能とBMIとの相関を調べると、やはり、キレイな線形的な関係があって、知能が高いほどBMIが小さく、適正範囲に入ります。子どもの頃の知能を参照しても同様で、BMIとの間にはやはりキレイな(線形的な)関係があります。

健康やBMIにはSES(社会経済的地位)が相当に関与するので、こうした関係を媒介するのはSESではないか、という疑問は以前からあります。つまり、知能が高ければSESが高くなり、その結果、生活水準や医療水準も高くなり、健康になり易く、肥満になり難い、という関係ですね。

確かに、「SESを介した結果」という要素はありますが、SESを統計的に補正しても、知能と健康・BMIとの強い結びつきが残ることが示されています。逆に、知能を補正すると、SESと健康・BMIとの結びつきはとても小さくなります。

交通事故や怪我はSESとさほど関係しませんし、知能が適応力ということから見ても、高知能な人ほど環境にうまく適応して病気に罹かかりにくく事故や怪我も少ない、とみなすのが妥当です。

ちなみに、近年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)でも前頭前野の認知機能(=知能の要素)が高い人ほど社会的距離などをうまくとって感染を抑えていた、という研究があります ―― このデータも、知能が適応力として疾病を抑えたり回避したりする、という観点から見たら予測通りです。

知能は結婚や幸福とも関係

知能は結婚とも深く関係します。

適応の生物学的指標は「適応度」で、適応度のざっくりした生物学的定義は「ある個体がつくった、繁殖可能になるまでの子どもの数」なので、家族を特徴とする人類の結婚に知能(=適応力)が関係しないわけがありません。

比較的最近(2021年)のスウェーデンでの研究でも、IQが高い男性ほど結婚率が高く子ども数が多いことが実証されています。

知能が高ければSES(社会経済的地位)も高いですから、こうしたことはSESを介した結果である可能性があります。しかし、SESを統計的に補正しても、IQと結婚率・子ども数との間にはキレイな相関関係が見つかりました。知能が高ければSESとは無関係に良好な結婚をする(適応度も高い)ということですね。

女性でも、もちろん同様で、知能が高いほど結婚できる可能性が高く、結婚生活も良好です。知能が高いと身体的に魅力性が高いことも分かっていて、男性は無意識にも知能が高い女性との結婚を(身体的に魅力的なので)望むようです。

結婚と健康との関係もかなり調べられてきていて、既婚者は男女共に身体的のみならず精神的にも健康です。

例えば、疾病に深く関係する各種ストレスホルモン群は既婚者では未婚者に比べて大幅に低く、各種疾患に罹る確率も当然ながら低いです。また、代表的な精神疾患である(そして、前頭前野の機能低下が深く関わる)うつ病や抑うつ症に罹る確率も既婚者では未婚者の2分の1以下です。

結婚の話をあえて(簡単にですが)述べたのは、結婚・家族が幸福感の大きな源だからです。

現生人類には「家族を形成・維持すると幸福になる」という進化的仕掛けがあって、現代でも、家族と幸福感との結びつきは多くの研究で繰り返し示され、再現され続けています。収入も幸福感と関係することは確かですが、収入を統計的に補正しても、家族と幸福感との強い結びつきは残ります。

知能と結婚・家族は深く関係し、知能がある程度高くないと良好な家族を維持・継続できませんから(例えば、SESとは無関係に知能が高い夫婦ほど結婚が長続きするというデータもありますし)、家族と幸福感との結びつきを踏まえても、知能が幸福感に大きく関与することは間違いありません。

というか、知能が高いほど幸福であることはこれまた以前から繰り返し示されていますが、知能と幸福の関係を媒介する大きな要素の一つが「良好な結婚・家族」ということですね。

POINT
○知能が高いと疾病回避+危険回避の能力が高い
○知能が高いと身体的に魅力性が高い

仕事力が劇的に上がる「脳の習慣」
澤口俊之(さわぐち・としゆき)
1959年東京都葛飾区生まれ。1982年北海道大学理学部生物学科卒業。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。1988年米国エール大学医学部神経生物学科にリサーチフェローとして赴任。京都大学霊長類研究所助手、北海道大学文学部心理システム科学講座助教授を経て、1999年北海道大学大学院医学研究科教授。2006年人間性脳科学研究所・所長。2011年武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部教授兼任。2012年同大学院教授兼任。専門は神経科学、認知神経科学、社会心理学、進化生態学。理学博士。近年は乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層の脳の育成を目指す新学問分野「脳育成学」を創設・発展させている。フジテレビ「ホンマでっか!? TV」、NHK「所さん! 大変ですよ」等、TV番組にも出演。著書は『脳を鍛えれば仕事はうまくいく』『夢をかなえる脳』『幸せになる成功知能HQ』など多数ある。

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