本記事は、澤口俊之氏の著書『仕事力が劇的に上がる「脳の習慣」』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています

緑効果が屈指:脳によいことだらけで生産性も向上

緑
(画像=Prostock-studio/stock.adobe.com)

脳は生まれながらに緑を求め発達する

述べてきた諸方法は、知能・認知機能(@前頭前野系)を向上させる上で相当に効果があって、進化的な原理に基づいた「メンドーでもできるはずの方法」ですが、ここでは念のためもっと手軽な方法を(やはり進化的原理にそれなりに則して)いくつか挙げておきます。

ちなみに、「自然修正旅行(3日効果)」も進化的原理に則しています。

この方法は、現代テクノロジー(電子機器やSNSなどを含む)で疲弊した脳(特に前頭前野)を大幅に修正することを目的としています。心理学的には「注意力回復理論」がベースとして多少あって、現代テクノロジー社会で大きく衰弱するとされる注意力(やはり前頭前野がその脳内センター)を自然体験によって回復する、という意味合いもあります。

ただ、当該研究者たちが心理学系ということもあって「バイオフィリア仮説(biophiliahypothesis)」に言及していません。

この説は「人間は自然との結びつきを生まれながらに求める性質をもつ」という進化生物学的な仮説で、1980年代に提唱されました。自然環境には緑環境がつきものですから、「人間は生まれながらに緑環境を求める」と言ってもいいです。そして、緑環境による色々な効果を「緑効果」と言います。

この観点から見れば、自然修正旅行(3日効果)はまさに進化的原理としての緑効果の典型的な例になっています。現代テクノロジー社会で働くことによって疲弊した脳が緑環境で修正・回復される、という効果ですね。そして、こうした効果が生じる本質的な理由は、現生人類(の脳)と緑環境との進化的結びつきです。

この進化的結びつきは相当に根強く、現生人類に至る霊長類進化に限っても6,000万年以上の歴史があります。進化的に根強い有酸素運動(歩く・走る)が脳に非常によいことは、前章で強調した通りです。緑環境との結びつきはもっと長いですから、脳に悪いわけがありません。

緑効果で分かり易いのは、子どもでの効果です。

乳幼児が自発的に二足歩行をし、ついで、二足走行をするのは、歩く・走るが進化的な営為だからですが、同様に、子どもたちは緑環境を自発的に求め、緑環境によって脳が発達することは十分に予測できることです。そして、このことは多数の研究で実証されています。

そうした研究を列挙するのは流石に避けますが、「歩く・走る」と同様の効果が示されています。例えば、緑環境で過ごす時間が長い子どもほど知能(一般知能を含むHQ)が高いことが分かっています。このことは就学前の幼児でも見られることで、また、他の多くの要因(自由時間や母親と過ごす程度など)とは無関係なことです。

知能は子どもでも当然ながら脳構造、特に前頭前野の構造と関係しますから、緑環境で過ごすことによる脳構造への影響を調べた研究もあります。その結果も予想通りで、緑環境でより多く過ごす子どもほど前頭前野が大きいことが判明しました。前頭前野は知能の脳内中枢で注意力とも関係するので、緑環境でより多く過ごす子どもほど注意力が高いことも示されています。

子どもたちが知能を使うのは、もちろん、緑環境だけではありません。だとすれば他の環境でも同じようなことが起こってもしかるべきですが、緑環境と匹敵するような環境はほとんど見つかっていません。

自然環境と真逆にあるようなIT環境(スマホやタブレットなどの電子機器使用)に至っては、そこで知育的なことをいくらしても知能・脳機能は向上するどころかむしろ低下する始末です。電子機器の使い過ぎで前頭前野にダメージが生じるという証拠さえあります。

子どもたちが緑環境に行けばそれなりの行為(例えば虫捕りとか生物探し・観察など)を自発的にするので、そうした行為が脳の発達を促すという側面があります。ただ、特別な行為をあえてしなくても緑環境にいるだけでも脳によいという研究もかなりあります。

例えば、歩く・走るという有酸素運動は子どもにも相当によいのですが、緑環境での歩行・走行の方が(街中などに比べて)はるかに効果的で、やはり脳の発達を促します。

緑環境の中で過ごさなくても緑環境(緑の景観)を無意識に見ているだけで脳機能によいというデータもあります。

有名なのはマサチューセッツ州の多数の小学校を対象とした研究で、同州内の様々な地域の小学校で「教室の窓から入る緑の光の量」と学業成績との関係を調べたところ、窓から入る緑の光の量が多い小学校ほど学業成績が高いという結果でした。

これほど大規模な調査研究でなくても、窓から緑が見える教室と建物などしか見えない教室では学業成績は13%も異なるといった研究もあります。

子どもでの緑環境に関する研究はまだたくさんありますが、緑環境が前頭前野や知能、あるいは学力などに良好な影響を及ぼすことはほぼ一貫して実証されています。「脳と緑環境の進化的結びつき」という原理による緑効果は、やはり、正しいようです。

緑効果は成人でも:前頭前野の発達と認知機能向上

成人になると(特にビジネスパーソンは)都会で仕事をし、緑環境から縁遠くなる傾向がありますが、それでも無意識にも緑環境を求める性質は強いです。部屋に観葉植物があったり、庭に草木が植えてあったり、公園などの緑の環境で歩いたり走ったりする、といったことですね。

だとすれば、成人でも子どもと同様の緑効果があってしかるべきです。「自然修正旅行(3日効果)」はその例であることは先述した通りですが、その他にもいくつかの緑効果が成人でも示されています。

分かり易い例は、都市生活者が緑環境に頻繁に行くことで前頭前野が発達する、という効果です。

研究的には「屋外」という言い方をしていますが、緑環境とほぼ同義です。この研究では、やはり子どもでの研究と同じように、「介入」をせずに、被験者たち(中年成人)が屋外で過ごした時間と前頭前野の大きさとの関係を調べたのですが、屋外で過ごす時間が長いほど、前頭前野がより大きいことが分かりました。

屋外では身体運動の時間や日を浴びる時間が長くなる可能性があるので、この研究ではそうした時間を統計的に補正していますが、屋外時間が長いほど前頭前野が大きい、という関係は明確に残りました。「緑環境に頻繁に行く子どもほど前頭前野は大きい」という子どもでの緑効果と同様ですね。

この研究であえて身体運動の影響を補正したのは、歩く・走るにおける緑効果が知られているせいです。歩くだけでも前頭前野を含めた脳に相当によいことは何度か述べてきた通りですが、緑環境を探索しつつ軽く歩くだけでも認知機能が向上するんです。

コンクリートが多い都市内と緑豊富な公園内で歩くことの比較でも、都市内で短期間歩いても認知機能は向上するどころかかえって低下する傾向があります。一方、緑のある公園内では短時間歩くだけで不安感や焦燥感が軽減しつつ前頭前野の認知機能が向上します。また、あえて歩かなくても、身近な緑環境(庭など)で過ごすだけで記憶力を一時的にも20%も向上させることができます。

子どもでは窓から緑が見えるだけで学業成績が向上しますが、成人でも同様な緑効果があって、窓が無い部屋、窓があっても緑が見えない部屋、そして窓から緑が見える部屋で認知機能テストをすると、予測通り、窓から緑が見える部屋では前頭前野の認知機能(注意力など)が向上しストレスが減るという結果でした。

窓から緑が見えるだけで抑うつや不安が軽減され、精神健康にいい、というデータもあるので(そして、ストレスや抑うつ、不安は前頭前野系の認知機能低下と結びついていますから)、緑を見るだけで前頭前野系によい影響を与えるという、まさに手軽な緑効果もあるんです。

ちなみに、緑の景観がより見える病室の患者ほど手術後の経過が良好で退院も早いことが初期の研究での緑効果として有名で(この研究データはその後も再現されています)、また、緑環境が前頭前野は免疫系などを介して身体の健康にも深く関係するので、前頭前野への緑効果はやはり相当に根強いと言えます。

仕事場やデスクに観葉植物を

知能の脳内中枢は前頭前野で、知能や前頭前野系の認知機能・精神健康は仕事をする上では最重要ですから、前頭前野への緑効果によって仕事や生産性が向上することは十分に予測できることです。具体的には、オフィス・仕事場に観葉植物を多数置くという緑環境による生産性向上、という仮説です。

「いや、そんなことはない。無駄を省いたオフィス、つまりリーンオフィス(lean office)こそが生産性を高める。観葉植物みたいな無駄なものを多数置くなんてとんでもない」という反論・コメントが返ってくると思いますし、今述べた仮説による初期の研究でも、その辺のことを念頭に置いて、あえてフィールド実験をしました。実験室でいくら緑効果が証明されてきていても、実際の仕事場・オフィスではそんな効果はなく、むしろ逆効果である可能性もありますから。

ネガティブな効果・結果があるかもしれない介入実験に被験者が参加してくれることは滅多にないことで、しかもこの場合は「被験者」ではなく「被験オフィス」ですから、なおさら珍しいですが、緑効果の研究は多くてポジティブな結果ばかりだったせいか、実験に協力してくれたようです。

結果は仮説通りで、長期試験(数週間〜数か月)によって緑豊かなオフィスでは生産性が15%も向上することが実証されました。この生産性向上には職場で緑が豊富だと協調性や集中力が高まることが相当に寄与しているようです。実際、豊富な緑によって職場満足度や集中力が大幅に高くなったと社員たちは自己報告していました。

緑環境には「緑の景観」の他に「植物によって浄化される空気」という要素もあります。特に、オフィスなどでの密閉された部屋では、いわゆる「シックハウス症候群」に代表されるような空気の質の悪さがありますが、緑環境は空気の質を改善します。この改善も相当に重要で、今述べた実験でも社員たちは「空気の質がよくなった」と感じていました。

オフィスを植物で満たすというのは実際問題として難しい、というか、躊躇されそうですから、「植物で満たした空気環境と同等な空気環境」にしたらどうか、というフィールド実験も行なわれています(「緑香り」ではなく、オフィスの一般的な材料から放出される揮発性有機化合物量や二酸化炭素量などを緑環境と同等にした空気環境です)。

この実験は相当に面白いんですが、実験手順などはかなり複雑なので、ざっくり述べると、「緑環境的な空気環境」によって仕事に必要な認知機能が大幅に向上した、というのが実験結果です。

調べた認知機能も面白く(9種類あり)、心理学系というよりもまさに仕事系で、例えば、目標志向的決断力や攻略力、危機対応力、情報活用力などでしたが、これらは全て前頭前野系の認知機能、あるいは、知能の要素です。しかもこれらの向上率はどれも相当に高かったです(最低でも2倍〜3倍、条件によっては4倍ほど)。

「もっと手軽に」というわりには、かなり大がかりな方法を挙げましたが、緑効果は現代のビジネス環境・オフィス環境でも大きく働くということを強調したかったんです。

で、もっと手軽になら、デスク上に小型の植物1個でOKです。

仕事用のPCモニターの横に、高さ15から20㎝程度(幅は7〜10㎝ほど)のヒノキやクロマツの盆栽、テーブルヤシ、幸福の木の苔玉などを一つ置き(6種類から選択)、仕事で疲れたら3分間その植物を見たり世話をしたりするというフィールド実験があります。その結果、植物の種類や年齢層とは無関係に、不安感などのストレスがかなり軽減しました。

ストレスは前頭前野の認知機能を低下させますから、この実験は何気に重要で、前頭前野への緑効果を実際の仕事場面・オフィス環境で手軽に得ることができる方法を示しています。しかも、この方法なら、オフィスのみならず家でのデスクワークでも簡単に使えて、まさに手軽です(私自身も、多少の変更を脳科学的に加えて以前から使っています)。

POINT
○緑豊かなオフィスでは生産性が15%も向上
○デスクのそばに植物を置くとストレスが大きく軽減する

仕事力が劇的に上がる「脳の習慣」
澤口俊之(さわぐち・としゆき)
1959年東京都葛飾区生まれ。1982年北海道大学理学部生物学科卒業。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。1988年米国エール大学医学部神経生物学科にリサーチフェローとして赴任。京都大学霊長類研究所助手、北海道大学文学部心理システム科学講座助教授を経て、1999年北海道大学大学院医学研究科教授。2006年人間性脳科学研究所・所長。2011年武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部教授兼任。2012年同大学院教授兼任。専門は神経科学、認知神経科学、社会心理学、進化生態学。理学博士。近年は乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層の脳の育成を目指す新学問分野「脳育成学」を創設・発展させている。フジテレビ「ホンマでっか!? TV」、NHK「所さん! 大変ですよ」等、TV番組にも出演。著書は『脳を鍛えれば仕事はうまくいく』『夢をかなえる脳』『幸せになる成功知能HQ』など多数ある。

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