本記事は、澤口俊之氏の著書『仕事力が劇的に上がる「脳の習慣」』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています

「手軽にサプリメント」よりも緑茶を

緑茶
(画像=BRAD/stock.adobe.com)

脳機能向上系のサプリメントはほぼ無効果

「手軽に、と言うなら、サプリメントがあるじゃないか……。いや、そう言えば、脳関係のサプリメントは最近あまり聞かなくなったかも」

ここでは「手軽さ」を重視しているので、サプリメント関係の話をするかどうか少し迷ったんですが、今の仮想コメントを補足する形でごく簡単に述べることにしますね。

確かに一時期、脳機能(記憶力など)を向上するとしたサプリメントが日本のみならず欧米でも「流行」しました。有名なのは多価不飽和脂肪酸ですね。その中でも、長い炭素鎖の末端(オメガ末端)から3番目の炭素結合が初めて二重結合になっているオメガ3脂肪酸、具体的にはDHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)が科学的にもかなり注目されました。

脳には特にDHAが豊富に含まれていて、DHAは脳の構造と働きに必須です。EPAは心血管系によい効果をもたらし、そのせいで脳にも有益になります。

だとすれば、オメガ3脂肪酸(DHA・EPA)の補助的な補給、つまりオメガ3脂肪酸サプリメントの日常的摂取は脳によい、という仮説が出てきます。そして、この仮説は比較的初期の諸研究ではある程度実証されました。例えば、オメガ3脂肪酸サプリメントを毎日摂取し続けると認知機能が向上するとか、加齢による認知機能低下が抑えられるとか、うつ病が改善するとか……。

ところが、一般の方々は知らないかもしれませんが、こうした研究結果には初期の頃から反証や疑義があって、かなりゴタゴタしていたんです。

そうしたゴタゴタがあっても、サプリメント関係の話は(他の似たような話も)脳科学者はあまりしない、という態度をあえてとることが多いです(私もですが)。「偽薬効果(プラシーボ効果)」が働くことが普通だからです。つまり、「思い込み効果」の一種ですね。

思い込み効果は相当に根強く、例えば「自分の脳は若くなる」とか、逆に「今後、脳は老化する一方だ」と思い込むだけで、実際に脳は若くなったり、逆に老けたりするんです。

サプリメントではプラスの思い込みが働くことが普通で、オメガ3脂肪酸サプリメントもそうです。「脳によい」と思い込んでいれば、実際に脳機能・認知機能が高まる可能性があります。

うつ病治療薬や鎮痛薬の一部ですら、その効果が偽薬効果と大差がないことが往々にしてあるくらいですから、サプリメント関係でも「科学的には効果が無いけれど、それでも別にいいだろう」と、特に脳科学者は(思い込み効果の重要性を知っているので)あえて批判・否定しないことにしているわけですね。

ちなみに、最近では、薬効が無い「薬(偽薬)」をあえて使って、治療できる疾病は治療しようという試みも米国ではあるくらいです ―― そうした「薬」には副作用が全くなく薬価もゼロに近くできる、という利点があるので。

こうした言い方で既にお分かりのように、「オメガ3脂肪酸サプリメントは脳機能にはほぼ効果が無い」というのが、諸研究を総合した現在の科学的コンセンサスです(「ほぼ」を付けたのは、絶対に無い、とは科学の本質上言えないからです)。

他の脳関係のサプリメントに関しても同様です。

例えば、「記憶力を高める」と近年それなりに注目されているクルクミンに関しても、初期の研究結果は最近では疑問視されていて、「ほぼ効果が無く、今後の研究が必要」というメタ解析論文も出ています。

その他にも「脳の健康によい」とされるサプリメントはかなりあるものの、直轄的に「買ってはいけない(Don’t buy into brain health supplements)」と、ハーバード大学医学部が一般向けに(2019年)忠告しています(buy intoは「取り込む」という意味もあるので、気の利いた言い方ですね)。

さらに、「訴訟大国」とされるアメリカでは、脳関係サプリメントに関する訴訟もあって、有名なのは「記憶力を改善させることが臨床的に示されている」と宣伝して売ってきたオメガ3脂肪酸系サプリメントに関する訴訟です。そのサプリメントの販売元(大手薬局)が購入者たちから訴えられて、購入者たちへの返金とそうした宣伝の一定期間の禁止といった訴訟解決が2019年にありました。

要するに、「手軽に認知機能が向上するサプリメント」は、少なくとも科学的には現時点では存在しないわけです(絶対に、とは言えませんけど)。

それでも、思い込み効果を重視すれば「効果が無い」などと言う必要はないかもしれませんが、あえて述べたのはサプリメントの過剰摂取や「組み合わせ」によっては有害なことがあるからです。米国ではある種のサプリメント(複数あり)の過剰摂取で年間2万人以上が救急搬送されているという報告があるほどです。また、単独では無害でも別のサプリメントと組み合わさると有害になり得るサプリメントも何種類か知られています(ここでは、具体名は述べませんけど)。

オメガ3脂肪酸に関しても同様で、常識的な量でのオメガ3脂肪酸サプリメント摂取での有害性はほとんど報告されていないものの、過剰摂取による有害性に関する報告は最近でもいくつかあるので、多少なりとも注意した方がいいかもしれません。

言い忘れていましたが、オメガ3脂肪酸が注目された背景には「魚のよさ」があって(というか、魚は脳のスーパー食材的で)、進化的にも魚食が知能の発達に相当に関与してきました。

オメガ3脂肪酸が魚に豊富なことは確かですが、そうした一部の成分だけではなく、多数の成分を含んだ「丸ごとの魚」がいいんです。端的に、魚をよく食べる人ほど前頭前野が大きく認知機能が高いことが分かっていて、魚はまさにスーパー食材です。わざわざ調理法を調べた研究もあって、煮魚や焼き魚がいい、と結論されています。

ちなみに、米食が前頭前野を発達させるらしいという報告があり、かつ、次項で述べるように緑茶は脳に相当によいので、「鮭茶漬け」などはまさに「手軽に前頭前野機能向上」の食だと言えます。

緑茶は「スーパーサプリメント」

サプリメント的に、日常的かつ手軽に(仕事中でも)飲める飲料として屈指、というか、ダントツなのは緑茶です。アルコール系では赤ワインやビールがいいとか、非アルコール系ではコーヒーがいいといったデータもありますが、緑茶には到底敵いません。

そのよさを詳細に書くと一冊の本になるくらいで、実際にそういう洋書があるので、ここではごく簡単に述べることにすると、緑茶に豊富なカテキン類が身体にも脳にも非常に有益なんです(没食子酸エピガロカテキン、epigallocatechin gallate、略称EGCGが特に有効ですが、他のカテキン類もそれなりに有益です)。

人類進化的に見ても、短くとも4千万年以上の長きにわたってポリフェノール類(果実や野菜に豊富)を多量に摂取してきたので、ポリフェノール類の仲間であるカテキン類が身体や脳によいことは十分に推測できることですが、実際にそうであることが多数の研究で明らかになってきたわけです。

緑茶関係の研究では当初から疾病に関するものが多く、そうした研究で緑茶による効果・リスク低下が示された病気などは次の通りです:高血糖、糖尿病、肥満、内臓脂肪、脂肪肝疾患、アレルギー性疾患、自己免疫疾患、心血管疾患、心臓発作、動脈硬化、脳卒中、虫歯、歯垢、口腔内健康、緑内障、骨の健康、美肌効果……、等々(多い!)。

カテキン類(特にEGCG)は強力な抗酸化活性をもつので、緑茶の抗がん作用もかなり注目されてきていて、「リスクを下げる」とされたがんの種類も多いです:乳がん、卵巣がん、前立腺がん、消化器系がん、白血病、口腔がん、膵臓がん、肺がん……、等々(やっぱり多い)。

日本ではがんの中でも肺がんによる死亡率は依然として上位を占めていますが、1日1杯以上の緑茶で肺がんリスクは80%も低下するとか、喫煙していても緑茶をその程度飲めば肺がんリスクは非喫煙者と同じ位になる、というデータもあるくらいです。

がんを含めた疾病に比べて、脳に関する研究は未だ少ないですが、脳への緑茶の有益性は一貫して実証されていて、反証はほぼありません。

比較的初期の研究で有名なのは、緑茶による前頭前野の活性化です。知的作業をすれば前頭前野は当然ながら活動しますが、緑茶エキスを服用するとその活動レベルが上がり、服用した緑茶エキスの量が多いほど活動向上の程度は高くなりました。

その後の諸研究で、緑茶エキスが前頭前野の主要な認知機能を高めることや、前頭前野系の神経ネットワークを強めたり、脳の効率を高めたりする効果をもつことも分かりました。

緑茶は、前頭前野機能を向上させつつ、若返らせる効果をもつわけです(当然ながら、認知症予防効果ももちます)。まさに、有酸素運動(歩く・走る)並みの効果ですね。

ちなみに、緑茶と同じように日常的に(仕事の合間でも)飲めるコーヒーや紅茶、あるいはウーロン茶は、緑茶と同様の(秀逸とも言うべき)脳への効果はほとんどありません。

緑茶は身体的のみならず脳的にも「スーパーサプリメント」と言える所以です。

POINT
○魚をよく食べる人ほど前頭前野が大きく認知機能が高い
○緑茶は前頭前野機能を向上させ、若返らせる効果をもつ

仕事力が劇的に上がる「脳の習慣」
澤口俊之(さわぐち・としゆき)
1959年東京都葛飾区生まれ。1982年北海道大学理学部生物学科卒業。京都大学大学院理学研究科博士課程修了。1988年米国エール大学医学部神経生物学科にリサーチフェローとして赴任。京都大学霊長類研究所助手、北海道大学文学部心理システム科学講座助教授を経て、1999年北海道大学大学院医学研究科教授。2006年人間性脳科学研究所・所長。2011年武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部教授兼任。2012年同大学院教授兼任。専門は神経科学、認知神経科学、社会心理学、進化生態学。理学博士。近年は乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層の脳の育成を目指す新学問分野「脳育成学」を創設・発展させている。フジテレビ「ホンマでっか!? TV」、NHK「所さん! 大変ですよ」等、TV番組にも出演。著書は『脳を鍛えれば仕事はうまくいく』『夢をかなえる脳』『幸せになる成功知能HQ』など多数ある。

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