この記事は2022年7月22日(金)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『本当の基礎からわかる資金循環統計』」を一部編集し、転載したものです。
要旨
これまでの日本では、将来の経済成長が期待できず、企業にとっては投資よりもリストラなどのコスト削減が重要であった。企業が家計と同じようにリストラで支出を抑えて貯蓄に励み、デレバレッジとして借金を返済し続け、貯蓄率は異常なプラスになってしまっている。異常なプラスの部分は支出が減った結果としての過剰貯蓄であり、総需要を破壊する力となり、物価下落の圧力になってしまっている。その結果、1990年前後のバブル崩壊後、日本経済は国内の総需要の弱さとデフレに苦しんできた。企業貯蓄率とコア消費者物価指数には強い相関関係があることが確認できる。
企業の投資を活性化し、企業貯蓄率を正常なマイナスに戻し、総需要を破壊する力を消滅させる必要がある。企業の新たな商品・サービスの投入が消費を刺激する好循環が、グリーンやデジタル、先端科学技術などのニューフロンティアを拡大する政府の成長投資を含む経済対策の効果と合わせて、景気回復を経済活動の停滞感が残るU字型から強いV字型に変えていく必要がある。企業貯蓄率がプラスの間は、内需の拡大がけん引する持続的な物価上昇とはならない。景気回復を促進するため、2013年の政府・日銀の共同声明に基づく連携は継続していくことになるだろう。
新自由主義型アベノミクスでは、緊縮財政と金融緩和の組み合わせとなり、日銀ばかりに物価目標達成の負担がかかった。成長投資を中心とする積極財政とアベノミクスの融合である新しい資本主義型アベノミクス(キシダノミクス)では、政府・日銀の連携によるポリシーミックスで物価目標達成を目指すことになる。政府・日銀の連携で企業の投資活動を強くし、企業貯蓄率をマイナスに戻し、正常化することがキシダノミクスの目標となる。その目標が達成されることで、日銀は利上げに踏み切ることができるようになる。
2022年6月のコア消費者物価指数
2022年6月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+2.2%と、2022年5月の同+2.1%に続き、3カ月連続で、日銀の物価安定目標である2%を上回った。
物価上昇をけん引しているのは引き続きエネルギー価格の上昇である。2022年3月の同+20.8%をピークにやや低下してきたが、2022年6月には同+16.5%と上昇幅はまだ高水準である。
新年度からの企業の価格戦略として、供給制約を意識することで、シェアではなく収益を最大化するため、値上げと販売数量の減少のバランスをみる価格弾力性をより重要視するようになっているとみられる。
供給制約への理解などにより、消費者の需要の価格弾力性が低下していると認識され、コストの増加分の価格転嫁が進んでいる。
生鮮食品を除く食料は2022年6月に同+3.2%(2022年5月同+2.7%)、家庭用耐久財は同+7.5%(同+7.5%)、教養娯楽耐久財は同+3.4%(同+3.3%)上昇している。旅行割の影響で、2022年6月の宿泊料は同+3.6%と、2022年5月の同+5.2%から上昇幅が縮小した。
2022年6月のコアコア消費者物価指数
2022年6月のコアコア消費者物価指数(除く生鮮食品とエネルギー)は同+1.0%(2022年5月同+0.8%)と、上昇幅はまだ日銀の目標である+2%の半分で強くない。
エネルギー価格の大きな上昇は、消費者の購買力を弱くするため、内需からは見えないデフレ圧力となる。金融政策の引き締めなどで海外経済の成長率が大きく減速し、供給制約も緩めば、エネルギー価格が下落に転じたところで、日本の物価上昇率が再びマイナスとなるリスクはまだ大きい。
コア消費者物価指数の前年同月比がテクニカルに2%を超えたが、内需の拡大がけん引する持続的な物価上昇が鮮明となるまで、日銀が金融政策の正常化に踏み切ることはないだろう。
重要な問題は、どうなれば内需の拡大がけん引する物価上昇によりデフレ構造不況を脱却でき、日銀が金融政策の正常化に踏み切ることができるかだ。
貯蓄率は異常なプラス
これまでの日本では、将来の経済成長が期待できず、企業にとっては投資よりもリストラなどのコスト削減が重要であった。賃金が減少し、家計も苦しくなった。
普通の経済では、企業は事業を展開するために資金を調達する。企業が資金を借り入れることは、貯蓄率ではマイナス(資金需要があること)だ。
しかし、企業が家計と同じようにリストラで支出を抑えて貯蓄に励み、デレバレッジとして借金を返済し続け、貯蓄率は異常なプラス(資金需要がないこと)になってしまっている。異常なプラスの部分は支出が減った結果としての過剰貯蓄であり、総需要を破壊する力となり、物価下落の圧力になってしまっている。
その結果、1990年前後のバブル崩壊後、日本経済は国内の総需要の弱さとデフレに苦しんできた。企業貯蓄率とコア消費者物価指数には強い相関関係があることが確認できる。企業貯蓄率がプラスの間は、内需の拡大がけん引する持続的な物価上昇とはならない。
2013年の政府・日銀の共同声明に基づく連携は継続
企業の投資を活性化し、企業貯蓄率を正常なマイナスに戻し、総需要を破壊する力を消滅させる必要がある。
第四次産業革命を背景としたAI・IoT・ロボティクスを含む技術革新、デジタル・トランスフォーメーションという新しいビジネスモデル、遅れていた中小企業のIT投資、脱炭素への取り組み、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、無形資産の拡大に向けた研究開発、そしてウィルス問題後の新常態への適応などの投資テーマには広がりがある。
企業の新たな商品・サービスの投入が消費を刺激する好循環が、グリーンやデジタル、先端科学技術などのニューフロンティアを拡大する政府の成長投資を含む経済対策の効果と合わせて、景気回復を経済活動の停滞感が残るU字型から強いV字型に変えていく必要がある。
企業貯蓄率がプラスの間は、内需の拡大がけん引する持続的な物価上昇とはならない。景気回復を促進するため、2013年の政府・日銀の共同声明に基づく連携は継続していくことになるだろう。
キシダノミクスの目標
共同声明では、「政府は、我が国経済の再生のため、機動的なマクロ経済政策運営に努めるとともに、日本経済再生本部の下、革新的研究開発への集中投入、イノベーション基盤の強化、大胆な規制・制度改革、税制の活用など思い切った政策を総動員し、経済構造の変革を図るなど、日本経済の競争力と成長力の強化に向けた取組を具体化し、これを強力に推進する。また、政府は、日本銀行との連携強化にあたり、財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する。」とされている。
新自由主義型アベノミクスでは、政府のスタンスは後者が重視され、緊縮財政と金融緩和の組み合わせとなり、日銀ばかりに物価目標達成の負担がかかった。
成長投資を中心とする積極財政とアベノミクスの融合である新しい資本主義型アベノミクス(キシダノミクス)では、政府のスタンスは前者が重視され、政府・日銀の連携によるポリシーミックスで物価目標達成を目指すことになる。
政府・日銀の連携で企業の投資活動を強くし、企業貯蓄率をマイナスに戻し、正常化することがキシダノミクスの目標となる。その目標が達成されることで、日銀は利上げに踏み切ることができるようになる。
▽コア消費者物価指数(除く生鮮食品・消費税)と企業貯蓄率
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