この記事は2022年9月8日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「景気ウォッチャー調査(22年8月)~現状判断DIは3か月ぶりに改善も、懸念は価格上昇」を一部編集し、転載したものです。

景気ウォッチャー調査
(画像=k_river/stock.adobe.com)

目次

  1. 現状判断DI、先行き判断DIともに上昇に転換
  2. 景気の現状判断DI:飲食が大きく改善
  3. 景気の先行き判断DI:観光などのサービスや飲食が大きく改善

現状判断DI、先行き判断DIともに上昇に転換

9月8日に内閣府が公表した2022年8月の景気ウォッチャー調査(調査期間:8月25日から月末)によると、3か月前との比較による景気の現状判断DIは45.5と前月から1.7ポイント上昇した(3か月ぶりの改善、2か月連続の50割れ)。また、2~3か月先の景気の先行き判断DIは49.4と前月から6.6ポイント上昇した(3か月ぶりの改善、3か月連続の50割れ)。

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7月調査では、新型コロナの新規感染者数の急増に伴い、現状判断DIが50を割り込んだ。他方、今月(8月)調査では、経済活動の制限は実施されず、3年ぶりに行動制限のない夏休みシーズンとなったことや、新規感染者数はピークアウトしたことから、現状判断DIは先月から改善し、先行き判断DIも先月から大きく上昇した。

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とはいえ、現状判断DIは50を依然として割り込んでおり、悪化のテンポが緩和された段階である点には留意する必要がある。景気の水準自体に対する判断を示す現状水準判断DIは42.9であり、小幅な改善(前月差0.4ポイント)にとどまっている。

また、先行き判断DIも50を依然下回っており、新規感染者数が高水準で推移していることや、従前からの資源価格高騰や円安によるコスト増や価格上昇の影響への懸念が下押し要因となっているとみられる。これらの要因は、今後とも景況感の改善の足を引っ張るかもしれない。

景気の現状判断DI:飲食が大きく改善

現状判断DIの内訳をみると、家計動向関連は43.8(前月差1.2ポイント上昇、3か月ぶりの改善、2か月連続の50割れ)、企業動向関連は47.5(同3.2ポイント上昇、3か月ぶりの改善、3か月連続の50割れ)、雇用関連は52.5(同1.8ポイント上昇、3か月ぶりの改善、7か月連続の50超え)と、全てで前月からDIが上昇した。

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家計動向関連の上昇は、飲食関連が前月から大きく上昇したによるものだ(前月差6.3ポイント上昇の37.1、3か月ぶりの改善、2か月連続の50割れ)。前月には新規感染者数が急増し、飲食関連の景況感は急速に悪化したが、経済活動の制限が実施されず、重症者数の増加の程度も、新規感染者数の増加度合いに比べると大きくならなかったことなどから、客足への影響がこれまでの感染拡大期ほど大きくならなかったことで、景況感の悪化の程度が緩和された。

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<回答者のコメント>

  • 新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に飲食を控える傾向があったが、最悪の状況は防げているように感じる。皆それそれが新型コロナウイルス感染症に対する意識を持ち、予防や防護をしており、飲食の際にも注意して食事をしている様子が見受けられる(南関東・その他飲食)
  • 新型コロナウイルス感染症が拡大したが、国からの行動制限がないため客の行動は活発である(北陸・一般レストラン)

他方、家計動向関連の内訳では、住宅関連は前月から更に下落した(前月差▲1.5ポイントの39.4、3か月連続の悪化、23か月連続の50割れ)。建築資材の高騰などにより、景況感の悪化が継続している。

<回答者のコメント>

  • 建築資材の高騰による住宅価格の上昇だけでなく、食品や生活用品を含めた物価上昇の影響で客は様子見の状況であり、消費者の購入意欲の減少を感じる」北陸・住宅販売会社)
  • 建築に関しては、材料や製品の価格高騰や入手困難が続いているため、建築価格の上昇が続いている。その反面、所得は増えておらず、生活必需品の値上げもあり、自由に使える資金が減っている(九州・設計事務所)

その他の家計動向関連の内訳である小売関連は、前月差1.4ポイント上昇の44.7(3か月ぶりの改善、3か月連続の50割れ)、サービス関連は、前月差0.3ポイント上昇の44.6(2か月ぶりの改善、2か月連続の50割れ)であった。

企業動向関連では、製造業、非製造業ともに上昇した。製造業は、前月差2.9ポイント上昇の47.0(3か月ぶりの上昇、8か月連続の50割れ)であった。前月からDIは上昇したものの、半導体部品等の供給制約や原材料価格高騰の影響を受けて、景況感の悪化は続いている。非製造業は、前月差3.2ポイント上昇の48.0(3か月ぶりの上昇、3か月連続の50割れ)であった。

<回答者のコメント>

  • 半導体不足による生産調整やエネルギーコストの高騰が収益を圧迫している(中国・非鉄金属製造業)
  • 電子部品の需給問題により、機器生産が計画どおりとなるか不安な状況が続いている。また、原材料の価格高騰により利益が圧迫され、前年比で減益は避けられない(東海・電気機械器具製造業)

雇用関連は上述のとおりだが、継続的な人手不足による求人増が好調の背景である。

<回答者のコメント>

  • 採用数の増加を目指す企業や目標とする採用数に至っていない企業が採用を強化しようとする動きがある(中国・求人情報誌)
  • 技術者不足に拍車が掛かっており、今後もしばらくは続きそうである(近畿・人材派遣会社)

景気の先行き判断DI:観光などのサービスや飲食が大きく改善

先行き判断DIの内訳について、家計動向関連は49.6(前月差8.0ポイント上昇、3か月ぶりの改善、3か月連続の50割れ)、企業動向関連は47.3(同3.5ポイント上昇、2か月連続の改善、3か月連続の50割れ)雇用関連は52.2(同3.9ポイント上昇、3か月ぶりの改善、2か月ぶりの50超え)となり、全ての内訳で増加した。

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家計動向関連では、前月に大きく落ち込んだサービス関連や飲食関連、小売関連が大きく上昇した。サービス関連は、前月差11.0ポイント上昇の52.2(3か月ぶりの改善、2か月ぶりの50超え)となり、飲食関連は、前月差7.0ポイント上昇の51.5(3か月ぶりの改善、2か月ぶりの50超え)となった。新規感染者数の増加がピークアウトし、感染者数が更に減少に向かうことへの期待や、政府の新型コロナ対策の緩和や全国旅行支援などの政策的な支援への期待を背景に、先行きへの楽観的な見方が広がった。

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<回答者のコメント>

  • ウィズコロナの浸透、新型コロナウイルス感染者の待機期間縮小などの緩和措置の拡大、全国旅行支援の開始などによって景気が良くなることを期待している(北海道・旅行代理店)
  • 新型コロナウイルスの感染拡大第7波が、秋になり落ち着いてくれば、会食の機会も増えてくる(甲信越・高級レストラン)

小売関連は、前月から6.8ポイント上昇の48.8となり、2か月ぶりに改善したが、8か月連続で50を割り込んでいる。新規感染者数が減少に向かうことにより、来客数が増えることへの期待がある一方で、価格上昇への懸念が景況感を下押ししている。

<回答者のコメント>

  • 新型コロナウイルスの新規感染者数の低減とともに、来客数増加に直結すると考えられる(北関東・百貨店)
  • 可処分所得が伸びないなか、秋冬にかけて更なる値上げが予定されている。消費者は節約志向、倹約志向にならざるを得ない状況である(東北・スーパー)
  • 衣料品は海外から入ってくる物が多く、円安で仕入単価が上がっているため、買い控えが起きる(近畿・衣料品専門店)

その他の家計動向関連である住宅関連は、前月から5.6ポイント改善し、43.0となった。3か月ぶりに改善したが、10か月連続で50を割り込んでいる。住宅関連の現状判断DIと同様に、建築資材価格の高騰がその背景にあるとみられる。

また、企業動向関連では、製造業は、2か月連続に改善したものの(前月差3.3ポイント)、DIは47.7と3か月連続で50を下回っている。部品等の供給制約の解消への期待があるものの更なる長期化への懸念や、原材料価格高騰、それに伴うコスト増の価格転嫁への懸念が景況感を下押ししている。非製造業は、3か月ぶりに前月から3.4ポイント上昇したが、DIは47.0と3か月連続で50を下回った。

<回答者のコメント>

  • 半導体の動きが良くなっており、それに対する対策が採られているため、業界全体の動きが良くなっている。客からもそれなりの受注量を受けている(九州・一般機械器具製造業)
  • 一部電機部品の入手難のため、装置や車等の生産が滞っているが、なかなか回復の兆しがみえず生産調整を余儀なくされている。しばらくは受注量の低下が予想される(東海・窯業・土石製品製造業)
  • 原材料価格の高止まりや価格交渉の遅れにより、収益状況は悪化しており、回復のめどが立っていない。また、電気料金の燃料調整費の上限撤廃により、更に収益環境は悪化する見込みである(四国・鉄鋼業)

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山下 大輔(やました だいすけ)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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