本記事は、和田秀樹氏の著書『科学的に脳の力を120%引き出す方法 頭がいい人の勉強法』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

ほとんどの人が「勉強のやり方」を間違えている

勉強,ステーショナリー
(画像=yasuyasu99/stock.adobe.com)

うまくいかないのは「やり方」を間違えているから

勉強しても成果が上がらないと、たいていの人は「自分の頭が悪いからだ」と考えます。

しかし、頭がいいとか悪いということは、多分に「思い込み」だと私は思っています。

極論を言えば、どんな人でもサルよりは賢いのです。脳の器質的な障害などがない限りにおいては、学歴の高い人であれ低い人であれ、言葉が使えて計算もできる時点で、知能の差などほとんどないと言っていいでしょう。

それでは、なぜ勉強しても成果が上がらないということが起こるのでしょうか。

一番の原因は、勉強の「やり方」を間違えていることにあります。

多くの人が、勉強の「やり方」を習わず、我流で行っています。ノートの取り方や時間の使い方といった基本的なことすら習っていないのです。

たとえば、勉強以前の日本語の習得にしても、幼児期に親から日本語の学び方を教えられ、それを実践して理解できるようになったわけではなく、いわば独学で身につけています。

同じ日本語を使っていても、人によって言葉の受け止め方、理解のしかたに差異があるのはそのためです。

自分が話したことを、相手が自分の思う通りに理解してくれないとき、相手がバカに見える、ということがあります。「話が通じない」のは、自分と相手では言葉の受け止め方が違うからです。私たちが独自に言語を習得してきている以上、そのような理解の限界が生じるのは仕方のないことでもあります。

勉強についても、やり方を習わず我流で行っていることで、理解が限定的になっていたり、そのこと自体に気づいていなかったりする可能性も考えられるのです。

どんな天才も「やり方」の習得が必要

「やり方」について、スポーツを例に考えてみましょう。

ゴルフの初心者がクラブを勝手に振り回し続けても、ボールが前に飛ぶようにはなりません。前に飛ぶような振り方をコーチに習ってから、それを繰り返すことで飛ばせるようになるのです。

イチローのような「天才」と呼ばれるバッターですら、最初は打ち方を習って練習します。

漫画『あしたのジョー』の主人公・矢吹丈も、元プロボクサーの丹下段平から伝授される通りに、左ジャブからひとつずつ順番に打ち方を練習することで、不良少年から一流のボクサーへと成長していきました。いくら彼が天才とはいえ、丹下段平は彼にいきなり好き勝手にサンドバッグを打たせたわけではないのです。

「考える」ためには「材料」が必要

多くの教育者が、「勉強するときには自力で考えることが大切」と主張します。

ところが私は「数学のわからない問題は、いつまでも考え続けるのではなく、答えを見て解法を覚えたほうがいい」と多くの受験生に指導してきました。

ここで大切なことは、「自力で考える」には、そのための材料が必要ということです。

将棋の藤井聡太竜王の思考力には誰もが驚嘆しますが、彼は14歳でプロになるまでに膨大な棋譜、つまり「将棋の指し方」のパターンを覚えてきたのです。

インプットした棋譜の中から、局面に応じて近いパターンを抽出し、当てはめてみる。それを高速で何千通りも行い、最善手を見つけ出す。それが彼にとっての「考える」ということです。無から有を生むようなひらめきで駒を打っているわけではありません。

数学の答えを見て覚えることもまた、「問題の解き方」のパターンを仕入れ、それを使って「考える」ことが可能になるのです。

つまり、解法や棋譜のような材料があってはじめて、「考える」ことができるのです。

スポーツであれ将棋であれ、「やり方」があって、それを習うことで勝者になるのに、勉強はノートの取り方ひとつとっても、やり方を習っていない人がほとんどです。

やり方を知らずに「できない」人が「できる」ようになることはまずあり得ません。

「できないこと」は「やり方」で攻略する

私は子どもの頃からスポーツが嫌いで、いまも一切やりません。そうなったきっかけは、小学校1年生のときに、鉄棒の逆上がりがどうしてもできなかったことです。

最近になって、子ども向けのスポーツ教室を展開している会社の社長にその話をしました。するとその社長は、「うちの会社なら、逆上がりができない子に、できるように教えられなかった指導者はクビですね」と言っていました。

つまり、どんな子でも逆上がりができる「やり方」はある。少なくとも彼らにはそういう信念があって、できるかできないかは、子どもの運動能力ではなく、そのやり方を自力で見出すか、あるいは人に教わる機会があるかどうかの問題だというのです。

人が「できない」と思っていることの9割ぐらいは、コツややり方を教わればできるようになるものだと思います。

ましてや大人の場合、子どもの勉強と違って、何もかもできるようになる必要はありません。あるやり方を試して、できるようになったことがひとつでもあれば、それを武器にすればいい。

「やり方」を知れば、それだけ「勝ち組」に近づけるのです。

「やり方」と合わせて「能力特性」も知る

能力
(画像=dizanna/PIXTA)

子どもの成長と能力特性

で触れましたが、人にはそれぞれ「能力特性」というものがあります。

たとえば記憶力はいいけれど考える力に乏しい、あるいはその逆といったことです。

実は、幼い子どものうちは誰もが記憶優位の特性を持っています。記憶力が抜群で、周りの大人が話している言葉を聞き、それを文法などの理屈抜きに丸ごと覚えることで、言葉を習得していきます。語学習得で一番理想的なのは、そのように文章を丸ごと覚えることなのですが、大人になってからそれをするのはかなり難しく、いくら聞き流す語学教材などを使っても簡単には話せるようになりません。しかし子どものうちは、それができてしまいます。

その一方で、考える力が子どもの時代には十分に備わっていません。それがうまく備わるのはだいたい9歳ごろ。この時期を過ぎると抽象思考が可能になり、文章の読解や算数の文章問題など、比較的難度の高い問題ができるようになります。

これが「9歳の壁」と呼ばれるものです。

能力特性に合わせた勉強

しかし、この「9歳の壁」を越える時期には個人差があります。まだこの壁を越えていないうちに中学受験の塾に行かせたりすると、勉強にまったくついていけないという悲劇が起こりがちです。その結果、「自分はバカだ」と思い込んでしまう子どもが大量に出るのがこの時期なのです。これは大きな問題です。

「9歳の壁」を越える前の子どもは、前述のとおり単純記憶力がきわめて高い状態にあります。たとえばこの時期に、漢字や歴史の年号などを大量に覚えさせれば、相当な量を覚えることができます。それによって、その子は自信を失わずに済むかもしれません。その後、ほかの子より遅れて「9歳の壁」を越え、そのあとに思考力が必要な勉強を始めたとしても、すでに暗記している知識が多ければ、それを武器に中学受験でほかの受験生に勝てる可能性も高くなります。

このように、子ども個人に合わせた勉強をさせるべきなのに、塾の勉強のほうに子どもを合わせようとして、結果的に子どもを潰してしまうケースはよく見られます。

大人の勉強でも、自分の能力特性に合わない勉強のしかたをしていて、そのためにうまくいかないということも多いのではないでしょうか。

科学的に脳の力を120%引き出す方法
(画像=頭がいい人の勉強法)

勉強法が人生観を変える

辞書,勉強
(画像=PIXTA)

「上位3%」には簡単に入れる

「日本人は勉強が好き」とよく言われますが、私はこれも疑わしいと思っています。

総務省統計局の2021年の調査によると、いまの日本には、ビジネスパーソンと呼ばれる人が約6,700万人います。一方で、ビジネス雑誌の実売部数は、全誌合わせても60万部程度と聞きます。1冊を3人ほどが回し読みすることを考慮しても、読者の総数は200万人ほどと推計できます。

つまり、ビジネス雑誌を読んでいるのは、ビジネスパーソンのおよそ30人に1人にすぎません。言い換えれば、ビジネス雑誌を読むだけで、「30人に1人」になれるということです。

つまりビジネスパーソンの「上位3%」に入ろうと思えば、何の特別な努力もなしに入れてしまうのです。

東大に入れるのは、きわめて少数のトップエリートと思われています。東大に入る人は、単純計算で同学年人口の400人に1人ぐらいです。大学受験をしない人が半数いると仮定すると、実質的には200人に1人程度と考えられます。

それでも途方もなく大変なことのように感じられるかもしれませんが、前述のとおり、ビジネス雑誌を読むだけで「30人に1人」には自動的になれるわけです。あとは勉強のやり方を工夫すれば、トップエリートのレベルに入るのはそう難しいことではありません。このような勉強法は、ビジネス雑誌以上に読者数が少ないので、これを読んで実践するだけで「勝ち組」に入れる可能性は高くなります。

勉強法を変えると成功し、勉強が好きになる

どんなに頭がいいと言われる人でも、勉強のやり方を習っている人にはまず勝てないはずです。それなのに多くの人がやり方を求めようとしないのは、やり方を学ぶことによって成功者になるという経験をしていないからです。

私は1987年に『受験は要領』(PHP研究所)という本を上梓したのを皮切りに、和田式の受験勉強法の本を多く世に出してきました。それが売れるにつれ、「和田式受験勉強法は『ただ受験に合格すればいい』というやり方だから、大学に入ってから勉強しなくなる人間を量産しているようなものだ」と批判を受けるようになりました。

私自身も大学に入ってから勉強しなくなったクチなので、その批判もまったく的外れとは思いません。

しかし、ここにひとつ興味深い事実があります。

私が2000年に上梓してベストセラーとなった『大人のための勉強法』(PHP研究所)という本の読者の大半が、かつて和田式受験勉強法で大学に合格した人たちだったということです。

このデータはすなわち、「大学に入ったら勉強しなくなる」と予測されていた人たちの多くが、大人になってからも勉強法を求め、勉強しようとしていたことを実証するものです。勉強法を変えることで成功体験をした人たちは、その後もやり方を求める。あるいは勉強を好きになるのです。

やり方を学ぶことによって成功したという経験をすることで、何かに行きづまったときにやり方を求めるという人生観を持つことができます。

これが勉強法を学ぶ最大のメリットなのです。

=科学的に脳の力を120%引き出す方法 頭がいい人の勉強法
和田 秀樹
1960年大阪市生まれ。1985年東京大学医学部卒業。
東京大学医学部付属病院精神神経科、老人科、神経内科にて研修、東京大学医学部付属病院精神神経科助手、アメリカ カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、現在、国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック(アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化したクリニック)院長、日本映画監督協会理事。

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