この記事は2022年10月6日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「コロナ禍における自由の制限について改めて考える」を一部編集し、転載したものです。

コロナ禍における自由の制限
(画像=maru54/stock.adobe.com)

自由な校風を売りにする学校に通っていた期間が長かったせいか、自由を制限されたり、何かを強制されたりすることを極端に嫌う性格が直らない。

大学を卒業してから働いている会社は、自由な社風を売りにしているわけではないが、私自身は比較的自由な会社生活を送ってきたように思う。たとえば、上司に半強制的に飲みに連れて行かれた経験がある人は多いだろうが、私にはそのような記憶がない(もちろん喜んで上司と飲みに行ったことはあります)。歴代の上司がたまたま部下を飲みに連れて行くことを好まなかったのか、私自身が「誘うな」という強いオーラを発していたせいなのか、自分ではよく分からない。

言うまでもなく、コロナ禍では人々の自由が大きく制限された。もちろん、感染対策のためにやむを得ない面があることは理解しているつもりだが、自由を重んじる習性が染みついているため、普通の人よりも大きなストレスを感じているのかもしれない。

そう言いながらも、私自身は必ずしも自由を謳歌してきたわけではない。私が通っていた中学、高校には制服がなかった。学校が指定する学生服は標準服と呼ばれ、それを着て通学することは強制されなかった。同級生の中には私服で通学する者もいたが、私は6年間、標準服で通した。

コロナ禍の行動制限で最も影響が大きかったのは、外食、旅行だが、私はあまり社交的な性格でないこともあって、もともと飲み会の回数はそれほど多くなかった。旅行については、子どもが小さい頃は家族旅行をすることも多かった。しかし、コロナ禍前の時点では、長男が大学生となり下宿生活になったこと、次男が受験勉強を始めたことから、旅行の機会は全くなくなっていた。

このため、私自身は行動制限によって失ったものは普通の人よりも少なかった気がする。しかし、実際に自由が奪われたことではなく、自由が制限されていると感じることが、私には苦痛なのだ。

特にストレスを感じるのは、学校の運動会、文化祭、修学旅行などが中止されたというニュースを見た時だ。今年できなければ来年やればいいと考える50代の私と違い、若い時の経験はその時でなければできないものばかりだと思うからだ。

若者だけではない。高齢者の中には、残された時間が少ない人がいる。桜は来年も咲くという言葉を信じて、花見を諦めた高齢者のどれだけが、翌年の桜を見ることなく亡くなっていったのだろうか。私の父は、2018年12月に亡くなったが、その2年前ほど前に癌の宣告をされた。その時に医者から言われたことは「次の桜を見ることはできないかもしれません」だった。幸いにも、父はその後桜を2回見ることができたが、亡くなる時期がコロナ禍と重なっていたら、父の最期はどうなっていただろうか、と想像することがある。

極めて危険な感染症に対して、強い行動制限を課すことは妥当かもしれない。しかし、私はいまだに新型コロナがそれだけの感染症であるとの確信を持つことができない。日本では、季節性のインフルエンザで毎年、約1,000万人の患者が発生し、約3,000人(直接的及び間接的に生じた死亡を推計する超過死亡概念では約1万人)が亡くなっていた。新型コロナは、2年8ヵ月の累計で陽性者が約2,000万人、死者が約4万人(9/15時点)である。死者は新型コロナのほうが多いが、これは厚生労働省の事務連絡によって、新型コロナの陽性者であれば、厳密な死因を問わず、新型コロナによる死としてカウントされていることが影響している。新型コロナを従来と同じ基準で比較することはできないのだ。

オミクロン株に変異して以降、新型コロナウイルスは弱毒化したとされる。私は専門家ではないので真実は分からないが、インフルエンザ並みの感染症と判断されるのであれば、社会経済活動を基本的にコロナ禍前に戻すべきだ。それによって感染者は増えるかもしれない。しかし、日本の医療資源は本来、年間1,000万人のインフルエンザ患者を診療できるほど豊富であり、新型コロナへの対応も十分可能なはずだ。

社会的に一定の感染を許容した上で、症状のある人は病院を受診し、元気な人は自由を制限されることなく、よく遊び、よく学び、よく働く。こういう当たり前のことが日常となって、初めてコロナ禍が終息したといえるだろう。

私自身は、自由の制限がなくなったとしても、生活はそれほど変わらないかもしれない。それでも、自由の制限を感じることが少ない社会に戻ることを望んでいる。

斎藤太郎 (さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査部長

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