この記事は2022年10月7日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「さくらレポート(2022年10月)~景気判断は、多くの地域で「持ち直している」とされたが、先行きへの警戒感は強い」を一部編集し、転載したものです。

日銀短観
(画像=PIXTA)

景気の総括判断は、全9地域中、中国で引き上げ、残り8地域で据え置き

10月6日に日本銀行が公表した「地域経済報告(さくらレポート)」によると、景気の総括判断は、全9地域のうち中国で引き上げ、8地域で据え置きとなった。

中国は、「下押し圧力は残るものの」という言葉が削除され、景気の総括判断が引き上げられた。北海道、東北、北陸、関東甲信越、近畿、四国、九州・沖縄は、「持ち直している」という言葉が使われている一方、東海は、「持ち直しの動きが一服している」と前回調査から引き続き弱い動きとなっている。7月以降、新型コロナウイルスの感染が急拡大したが、全体的な持ち直しの基調は続いている。

需要項目別にみると、第7波ではこれまでの感染拡大時と異なり、特別な行動制限が課されなかったため、多くの地域で個人消費の持ち直しの動きが続いている。また、設備投資も堅調に推移している。

さくらレポート
(画像=ニッセイ基礎研究所)

業況判断はさらに改善するも、先行きへの警戒感は引き続き強い

「地域経済報告(さくらレポート)」と同時に公表された「地域別業況判断DI(全産業)」をみると、全9地域中6地域で改善、2地域で横ばいとなり、関東甲信越で悪化した。全国では+1ポイントの改善となった。

前回調査からの改善幅をみると、北陸が+5ポイントと大きく、次いで北海道が+4ポイントとなっている。中国、九州・沖縄は+3ポイント、近畿は+2ポイント、四国は+1ポイントと小幅な改善に留まった。一方、関東甲信越では▲1ポイントの悪化となった。なお、東北、東海は横ばいとなった。前回調査に引き続いて全体的に改善に向かっている。

先行き(2022年12月)の景況感については、全9地域中8地域で悪化、東海で横ばいを見込んでいる。今回調査では+4ポイントの改善幅だった北海道だが、先行きの低下幅は▲9ポイントと最も大きくなっており、先行きへの警戒感が強い。

さくらレポート
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全体として、景況感は改善している。中国のロックダウンの解除、感染拡大下においても特別な行動制限を課さず、社会経済活動が維持されたことなどが改善の要因と考えられる。ただし、海外経済の急減速、世界的なインフレ、円安による輸入物価の上昇など景気の下振れリスクは残っていることから、先行きは多くの地域で警戒感が強く、今後も先行きを楽観視できない状況が続くだろう。

製造業の業況判断は4地域で改善も、地域ごとにばらつき

製造業の業況判断DIは、全9地域中4地域で改善し、5地域で悪化した。全国では▲1ポイントの悪化となった。中国のロックダウンが解除されたものの、原材料高によるエネルギー価格の高止まりが大きな影響を及ぼしている。

業種別には、改善した業種と悪化した業種があり、ばらつきがある。今回調査では鉄鋼、石油・石炭製品、金属製品が全体的に改善した。一方、電気機械、非鉄金属は多くの地域で悪化した。

地域別には、中国が前回調査から+5ポイントの改善となった。特に電気機械(+18ポイント)と、石油・石炭製品(+18ポイント)の改善幅が大きかった。一方、北海道は前回調査から▲2ポイントの悪化となった。特に電気機械(▲43ポイント)の悪化幅が大きかったことが全体を押し下げた。

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先行きについては、全9地域中2地域で改善、2地域で横ばい、5地域で悪化を見込んでいる。全国では▲1の悪化を見込んでいる。東北では輸送用機械が+34ポイントと大幅な改善を見込む一方、木材・木製品は▲33ポイントと大幅な悪化が見込まれており、改善・悪化幅は業種によって大きく異なっている。中国では▲6ポイントの悪化を見込んでいる。全体的に悪化する業種が多く、中でも紙・パルプが▲30ポイントと大幅な悪化を見込んでいる。 業種別では、化学はすべての地域で悪化が見込まれているほか、石油・石炭製品、木材・木製品でも多くの地域で悪化が見込まれている。

なお、日銀短観9月調査では、2022年度の想定為替レート(全規模製造業ベース)が125.71円と、足下の実勢(144円台)や上期の実績(134円台)と比べて大幅に円高の水準となっている。今後、円高が急激に進まなければ、円安方向への修正が入り、輸出企業にとっては収益計画の上方修正要因になる。一方、輸出割合の低い企業にとっては、円安によって原材料輸入価格の上昇に拍車がかかり、収益計画の下方修正要因になる恐れがある。

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非製造業の業況判断は改善傾向だが、先行きは悪化を見込む

非製造業の業況判断DIは7地域で改善、2地域で横ばいとなった。全国では+1ポイントの改善となった。新型コロナウイルスの感染が拡大したものの、特別な行動制限が課されず、社会経済活動が維持されたことで、全体的に前回調査に続き改善した。

業種別では、多くの地域で、物品賃貸と宿泊・飲食サービスが大きく改善した。一方で電気・ガスは悪化した地域が多かった。原材料価格の高騰によるエネルギー高が影響している。

地域別には、北海道では、物品賃貸が+45ポイントと大幅に改善したことから、前回調査からの改善幅が+6ポイントと最大になった。次いで北陸では、宿泊・飲食サービスが+28ポイントと大幅に改善したことが全体を押し上げ、+5ポイントと北海道に続いた。一方、四国は、対個人サービスが▲17ポイントとなったことが全体を押し下げ、横ばいとなった。

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先行きについては、全9地域中、東北地域で横ばい、8地域で悪化を見込んでいる。全国では▲4ポイントの悪化を見込んでいる。北海道は▲10ポイントと悪化幅が最も大きい。対個人サービスは+15ポイントを見込んでいるものの、それ以外の項目は全て悪化を見込み、中でも対事業所サービスは▲34と大幅な悪化を見込んでいる。

今回調査で非製造業が改善したのは、感染拡大下においても、特別な行動制限が課されず、社会経済活動が維持されたからである。ただし、海外経済の急減速、世界的なインフレ、円安による輸入物価の上昇など景気の下振れリスクは残っており、先行きを楽観視できない状況となっている。

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安田拓斗(やすだ たくと)
ニッセイ基礎研究所経済研究部 研究員

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