ここまで読んでNMNにがぜん興味をもち、体内のNMN量を増やす方法を知りたくなった方もいるのではないでしょうか。NMNは枝豆、ブロッコリー、アボカド、トマトなどに含まれていますが、残念ながら、NADの濃度が回復するほどの量は通常の食事では摂取できません。そこで現在、NMN配合のサプリメントが次々に開発・販売されています。

先述のように、サーチュイン遺伝子にはテロメアの短縮を防ぐはたらきもあります。つまり、NMN配合のサプリメントを飲めば、サーチュイン遺伝子、テロメアそれぞれを同時に、〝寿命延伸モード〟に人為的に切り替えられる可能性があるわけです。これは非常に魅力的な話ですが、問題点がないわけでもありません。

まず、現在出まわっているNMN配合サプリメントは高価なものが多く、飲みつづけるにはそれなりの費用がかかります。一部、安価なものもありますが、NMNの配合量が少ない商品もあるようです。さらにヒトへの投与の安全性が確認されたとはいうものの、前述の研究で被験者がNMNを投与された期間は3~4年ほど。長期的に摂取した場合の安全性については、現時点では不明です。そもそも、サーチュイン遺伝子を人為的にオンにするリスクについても、まだはっきりとはわかっていません。

そしてもう1点、ヒトへの投与において、インスリンの感受性が上昇することは確認されたものの、マウスで見られたような抗老化効果は認められていない点も忘れるべきではないでしょう。「NMN配合のサプリメントを飲めば若返る」「NMN配合のサプリメントを服用すれば寿命が延びる」とは、いまの段階ではいえないのです。

とはいえ、サーチュイン遺伝子は研究がさかんな分野です。近い将来、サーチュイン遺伝子をオンにしてテロメアの短縮を防ぐ、夢のような方法が開発されるかもしれません。今後の展開に要注目です。

老化は予防できる、治療できる - テロメアをムダ使いしない生き方
根来秀行(ねごろ・ひでゆき)
東京都生まれ。医師、医学博士。東京大学大学院医学系研究科内科学専攻博士課程修了。ハーバード大学医学部客員教授(Harvard PKD Center Collaborator, Visiting Professor)、ソルボンヌ大学医学部客員教授、奈良県立医科大学医学部客員教授、信州大学特任教授、事業構想大学院大学理事・教授。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など多岐にわたり、最先端の臨床、研究、医学教育の分野で国際的に活躍中。新型コロナに対する新しい治療メカニズムをつきとめ、2022年1月にその論文が英国医学誌に掲載され国内外にてトップニュースとなる。『第二の人生の質が劇的に向上する 定年睡眠』(ワニプラス)、『ハーバード&ソルボンヌ大学Dr.根来が教える ストレスリセット呼吸術』(KADOKAWA)など著書多数。

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