本記事は、齋藤孝氏の著書『呼吸がすべてを整える』(リベラル社)の中から一部を抜粋・編集しています。
大谷翔平、藤井聡太に学ぶ
「気分に支配されない 呼吸の整え方」
今日は雨降りで、何だか気分が重い
朝の夫婦喧嘩のせいで、気が立っている
子どもが言うことをきかない日は、いつもよりイラつきがち
人間は「気分」に左右されてしまいがちな生き物です。 気分というものは、自分の置かれた状況や周囲の環境、そのときの体調や世の中の情勢など、さまざまな要因によって変化します。
嬉しいことがあって舞い上がったかと思うと、嫌なことがあって
仕事が成功して機嫌がよかったかと思うと、ミスして
こうしたことは、「人間らしさ」でもあるのですが、それも程度問題です。
気分に左右されて自分の言動をコントロールできない。気分と言動を切り離して考えることができない。そうしなきゃという認識はあっても、なかなか実践できない――。今の世の中、こうした「気分に支配されてしまう人」が増えているように思います。
気分は日によっても違えば、一日のなかでも微妙に変化するもの。気分の揺れや浮き沈みは誰にでもあります。
大事なのは「気分に左右されず、常に安定したフラットな状態でいる方法」を
気分に左右されないフラットな状態とは、「平常心」にほかなりません。
「深く、ゆったりした呼吸」を習慣にすれば、自分の気分に動じず、気分に支配されず、気分とは切り離された平常心を保つことができます。
たとえ、気分にとらわれそうになったときでも、呼吸を整えれば平常心を取り戻すことができるようになるのです。
最近、気分に左右されない平常心を強く感じさせてくれるのが、メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手です。長引くコロナ禍のなか、大谷選手の投打の二刀流での活躍に、勇気や希望、興奮や感動をもらった人も多いでしょう。
そんな彼のプレーを見ていると、マウンドでもバッターボックスでも呼吸が乱れず、安定しているように私には思えます。
打者としてなら、ホームランを連発している絶好調時も、打撃の調子がイマイチのときも、投手としてなら、完璧に抑えているときも、ピンチを背負っているときも、どんな状況に置かれても、常に普段どおりの呼吸ができている感じがします。だから常に平常心でいられるのだろう。それゆえ、メンタルから崩れることがほとんどないのだろうと思います。
プレー中だけでなく、取材やインタビューでもいつも自然体で、気分や感情に振り回されることなく、落ち着いて率直に受け答えしています。
そうした姿を見るにつけ、「ああ、大谷選手はメンタルが整ってるな。呼吸が整ってるな」と感心させられっぱなしです。
棋士の藤井聡太さんも、やはり安定した平常心の持ち主でしょう。
将棋の実力もさることながら、あの落ち着いた話し方や言葉の選び方、浮つきのない物腰や立ち居振る舞いは素晴らしい。
対局中も、対局後の感想戦でも、対局前後の取材のときも、常に冷静で、周囲の状況や自分の気分に振り回されず、動じず、精神にブレがない。彼の呼吸もまた、乱れず安定しているように感じます。10代にして、すでに「整って」いるのでしょう。
大谷選手にせよ藤井さんにせよ、具体的に「呼吸」に関する話題が取り沙汰されているわけではありません。でも、一流の舞台で華々しく活躍されているお二人の見事なまでの平常心が、しっかりした呼吸にも支えられているのは間違いないはず。
大谷選手がプレーの合い間に、大きくほっぺたをふくらめるのは、そのあとゆっくり吐いて落ち着くためだと私は見ています。
彼らの精神性の
打席や対局を前に、動じず乱れず、グッと集中する――。まずは彼らの