本記事は、齋藤孝氏の著書『呼吸がすべてを整える』(リベラル社)の中から一部を抜粋・編集しています。

吹き出し,ポジティブ
(画像=luismolinero/stock.adobe.com)

心のザワつきをしずめる「最強のフレーズ」とは

「10カウント6秒呼吸法」をもっと馴染なじみやすくするために、「10カウント=6秒」の長さにぴったり当てはまる、覚えやすいフレーズはないかと考えました。できれば美しくて、知性や教養を感じられて、私たちに親しみのある一節がいい。

「国破れて山河あり」(杜甫とほ『春望』)や「雨ニモマケズ風ニモマケズ」(宮沢賢治)もいいけれど、6秒を埋めるにはやや短い。「南無阿弥陀仏」や「南無妙法蓮華経」だと宗教・宗派に結びつき過ぎの感がある。

そこでたどり着いたのが、

祇園精舎ぎおんしょうじゃかねこえ諸行無常しょぎょうむじょうひびきあり」

みなさんもよくご存じ、『平家物語』の冒頭の一節です。

日本人が誰でも知っていて、リズムがよく、ゆっくりとなえて約6秒と時間の〝尺〟もぴったり。しかも、無常観や悟りの境地といった、この世の道理が表されている。ザワつく心を鎮め整えるための呼吸に合わせる、もっともふさわしいフレーズだと思いませんか。

そして、この一節の最後にもうひと言、「ま、いっか」とつけ加えていただきたいと思います。

この「ま、いっか」も、心を整え平常心をつくるための大事なキーワードです。

最近、大学で授業をしていても「繊細でナーバスな学生が増えている」と感じることが多々あります。

今の若い人たちは総じて「おとなしくて温厚」なのですが、その一方で些細ささいなことが気になり、些細なことでイラついたり傷ついたりしやすくなっています。

さらに、ネットやSNS時代の影響もあって、他人にどう思われているかが気になって仕方がない。現代人のなかには、常に心にさざ波が立ってザワついている人、心が微妙に不安定になっている人が増えているように思えます。

そうした現代人のネガティブ感情をサーッと洗い流してくれるのが、「ま、いっか」のひと言です。「寛容で前向きな諦念ていねん」と「楽観的な切り替え」をもたらすこの言葉は、ネガティブ感情に支配された心を瞬時に切り替え、立て直すことができるマジックワードなのです。

ネガティブ感情で心が乱れたときは、まず鼻から息を吸ってください。そして、

祇園精舎ぎおんしょうじゃかねこえ諸行無常しょぎょうむじょうひびきあり。ま、いっか」

と唱えつつ、臍下丹田せいかたんでんを意識しながらフーッと長く、ゆっくり深く息を吐く。

そうすることでザワついて刺々とげとげしくなっていた心がスーッと整っていきます。

「この不満もイライラも、今だけのこと。いちいち腹を立てることもないよね」という、ある種の悟りの境地をもたらしてくれます。

仕事でミスした部下や後輩に「いいかげんにしろよ!」と声を荒げたくなったら。

上司にチクリと嫌味を言われて「ふざけんな!」とキレかけたら。

大勢の人の前でのスピーチを前に、大事な面接で、不安と緊張で震えたときも。試験会場で問題用紙を前に、頭が真っ白になりかけたときも。

祇園精舎ぎおんしょうじゃかねこえ諸行無常しょぎょうむじょうひびきあり。ま、いっか」

10数える代わりに一節唱えれば、心を鎮める6秒が自然にもたらされる。感情に振り回されず、状況に飲み込まれず、いつでもすぐに平常心を取り戻せる。

そんな最強フレーズを、ぜひ覚えて実践していただきたいと思います。

呼吸がすべてを整える
(画像=呼吸がすべてを整える)
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齋藤孝
1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー作家、文化人として多くのメディアに登場。主な著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社)『大人の語彙力ノート』(SBクリエイティブ)、『大人の語彙力大全』(KADOKAWA)『語彙力こそが教養である』(KADOKAWA)、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『知的な話し方が身につく 教養としての日本語』、『齋藤孝こころの教室 こども般若心経』(共にリベラル社)など多数。著書発行部数は1,000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導。

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