本記事は、ロッド・ジャドキンス氏の著書『天才はしつこい』(CCCメディアハウス)の中から一部を抜粋・編集しています。

非凡,PC
(画像=deagreezdeagreez)

平凡を非凡に変える

対症療法でいいや、と考えるのは楽だ。急ぎの小さな問題が発生してから、その場をしのげる程度の努力で対処すればいい。こうした考えをもつから、ほとんどの仕事は平凡に終わる。目の前の必要を満たすばかりになって、非凡な何かをつくるという野心を失ってしまう。

自分の作品や仕事が平凡に思えるなら、解決策がある。平凡なものに何かを「足す」のだ。あなたが平凡な人間で平凡な仕事を平凡なやり方でしていたとしよう。何かを「足して」みると、それが非凡さへの第一歩となる。非凡(extraordinary)の「extra」は、「通常のものを超えたよりよいもの」という意味のラテン語から来ている。任務をただ遂行するだけでは不十分だ。もっと気前よく、与えられた任務以上のことをしよう。

あるイタリアの建築会社が、橋の設計コンペで、発電所と橋を組み合わせたデザインを提出した。建築家のフランチェスコ・コラロッシ、ジョヴァンナ・サラシーノ、ルイーザ・サラシーノが設計した「ソーラーウインド」橋だ。橋の構造部分に26個の風力タービンを付け、車道部分には太陽光パネルを埋め込むことで、数万戸に供給できる量の再生可能エネルギーを生成できる。求められた以上の労力をかけて、向こう岸に渡す以上の機能をもたせた。クライアントからの依頼に応えるだけでなく、そのさらに先を叶えることを目標にしよう。

アーティストのトム・フィリップスは、書籍『A Humument(フームメント)』の制作を1966年に開始した。フィリップスが自らに課したタスクは、古本の1ページ1ページに絵を描いたりコラージュを施したりして、完全に新しいバージョンに仕上げることだった。ヴィクトリア朝の無名の小説を使い、週に1ページずつ、何年もかけて取り組んだ。

初版を1973年に出版し、その後も改版を続けて非凡な美しい作品へと育て上げた。これがフィリップスの代表作であり、フィリップスといえばこの本だと認識されている。途方もなく壮大な計画だったが、この大きすぎる目標にこそ意味があった。毎週少しずつ何かを足しつづけることで、数週間、数年後には息をのむほどの超大作を完成させたのだから。

「足す」思考の持ち主の代表例が、テクノロジー系実業家のイーロン・マスクだ。「平凡な人が非凡になることを選択するのは可能だと思っています」と、マスクは述べる。マスクの功績が非凡なのは、非凡なことを成し遂げられるとマスクが自分を信じたから。テスラ・モーターズでは、電気自動車の設計時には追加機能をいくつも考案し、コンピューター技術を活用して、数年後にもまだ最新機能をすべてもつ車を目指した。

テスラの最初のイノベーションは自動運転技術だが、マスクはそれ以外の機能も定期的に追加してきた。テスラ車が歩行者に話しかける機能や、停車中の車に近づいた人の動向を録画する「セントリーモード」、狭い場所での駐車をする「エンハンスト・サモン」、いまの速度のままでは赤信号に突っ込む可能性があると警告する「赤信号警告」などである。ゆったりと穏やかに走行する「チルモード」もある。

私はザ・フューチャー・グループ(リーダースキルを身につけたい将来のビジネスリーダーを対象とした、オーダーメイドの経営者教育プログラム)の活動で、大企業のCEOたちと会ったり、アップルやサムスン電子など世界有数の革新的な企業に出向いたりしてきた。ビジネスリーダーたちは、日常生活では驚くほど平凡だが、仕事となると夢中で非凡なものを生み出そうとする。私はいつも、あるシンプルな習慣を浸透させようと尽力している。自社の製品やサービスに追加できる機能はないかを常に考える、というものだ。

たとえば、ある自動車製造・販売会社のクリエイティブコンサルタントに就任したときのことだ。その会社が、顧客に購入資金を融資する金融子会社を設立すると、これが車の売上額を超えるところまで成長した。最終的には、複雑な事業であり広大なスペースを要する自動車販売業の売り上げは落ちたが、代わりに金融業のほうに注力し、常に新しい要素を「足し」つづけた。

何かを「足す」考え方は、彫刻家エドゥアルド・パオロッツィの大きな長所でもある。私がロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)の学生だった頃に講師をしていたパオロッツィは、観客や収集家に対してとても寛大だった。彫刻をひとつ買う人がいたら、その作品の制作過程も一緒にディスプレイできるようにと、制作に使用したデッサンや模型をいくつもプレゼントしていた。

パオロッツィの生まれつきの気前のよさが表れた行動だが、販売戦略としても優れている点に私は気づいた。パオロッツィはそう考えたこともなかっただろう。「ビジネス戦略」を目の敵にしていたから。でも、事実、すばらしい戦略だった。たくさんのおまけをもらった客はまたパオロッツィの彫刻を買いに来る。

「足す」考え方を取り入れると、生活や仕事がガラリと変わることがある。1891年に、ある青年が、生地や糸に使用する精錬用せっけんの販売事業を立ち上げた。せっけんを買ってもらうために、ベーキングパウダー1缶をおまけにつけることにした。すると、せっけんよりもベーキングパウダーが人気となったので、ベーキングパウダーのみを売ることにして、今度はおまけにチューイングガムをつけた。またしても、無料のおまけが商品よりも人気となり、この青年ウィリアム・リグレーはそれ以降チューイングガムのみを売ることにした。

教訓はやはり、自分のプロジェクトが平凡なら何かを足せということだ。ありふれたものからすばらしい何かを引き出すには、変化をつけてみよう。

1 平凡なものは退けて非凡なものだけを受け入れる人になる。奇妙なもの、変わったもの、珍しいものをつくることを恐れず、平凡さにこそ恐怖を抱こう。普段とは違う考え方をすると、非凡なものが生まれやすくなる。いつもどおりのアイデアは捨てて、非凡なアイデアが降りてくるまで考えつづける。ゴールはイーロン・マスク並みの財産を築くことではなく、あなたの才能を余すことなく開花させることだ。

2 自分のアイデアに恐れを感じるだろうか? 感じないなら、それは予想の範疇を出ないアイデアだということだ。普通の人は実現可能な夢を抱く。失敗や、無様な姿を見せること、つらい仕事を避けたいからだ。成功する人は自分で震え上がるような目標を掲げる。まわりの人間は、普通の道を選んだほうがいいと理由をあれこれ述べるだろう。それでも、自分で決めた道をどんどん先へと、勇気をもって進みつづけなければならない。

3 自分のプロジェクトに何を足せるだろう? 自分のスキルや知識に日々何かを足していれば、仕事にも何かを足せるようになる。何を学べば、未知の分野に手が届くだろうか? 非凡な考え方は、習慣にできる。目立たない程度のことなら、そもそもやる意味がない。
天才はしつこい
ロッド・ジャドキンス
世界的名門美術学校であるロンドンの芸術学校のカレッジのひとつ、セントラル・セントマーティンズ講師、アーティスト。ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで修士号取得。
世界中の大学や企業・組織でクリエイティビティに関するセミナーを主宰する他、テート・ブリテン、ナショナル・ポートレートギャラリー、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツに作品を出展するなどアーティストとしても活躍。
世界的ベストセラー『「クリエイティブ」の処方箋』(フィルムアート社)は15か国語に翻訳されている。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)