本記事は、ロッド・ジャドキンス氏の著書『天才はしつこい』(CCCメディアハウス)の中から一部を抜粋・編集しています。

ビジネスマン
(画像=Liubomir/stock.adobe.com)

「抜きん出るには変人であれ」

世界的な絵本作家のドクター・スースは、そう言った。並外れたことを成し遂げようとする人はあえて危険を冒すので、どうしても変わり者に見られる。社会から求められるのは、きっちりと列に並ぶことと、無難な行動をとること。だが、「無難」なものは決して並外れてはいない。

1950年代、子ども向けの読み方の教材に、うんざりするほど退屈な「Dick and Jane(ディックとジェーン)」シリーズが採用されているのが、ドクター・スースは気にくわなかった。ごく普通の子どもふたりが普通の世界で普通のことをする物語である。ディックとジェーンは決まりごとを必ず守り、その世界では毎日何もかもが順調に運ぶ。成熟した分別のあるものの見方を子どもに押しつける本で、教育機関のお気に入りではあったが、子どもたちからは毛嫌いされていた。

スースは読書をもっと楽しんでほしいと、1957年に絵本『キャット・イン・ザ・ハット』(河出書房新社)を描いた。いきいきとしていて独創的で、道徳教育の要素はない、それまでにないタイプの絵本だった。ねこが「つめたい あめふりの ひ」を楽しい1日に変えようとする物語である。

ヘンなキャラクターがヘンなことをするヘンな本の作者となることを特に恐れなかったスースは、自由な発想ができるからと、あえてナンセンスな絵本を描くことにした。「ナンセンスな話は好きですね、脳細胞が活性化します」と言って。スースの描くキャラクターは、どこにでも行ったし、何でもできた。スース本人の見た目と言動は特にヘンではなかったが、考え方が人とは違っていた。これこそが、絵本の成功要因だ。

あまりにもヘンだ、と言って複数の出版社が『キャット・イン・ザ・ハット』をはねつけたが、ようやくリスクをとる覚悟のある出版社が現れ、絵本は出版されるなり売れに売れた。スースの絵本がいまもベストセラーなのは、常識に縛られない子ども心を捉えたからだろう。教育機関が認めた安心・安全な「ディックとジェーン」シリーズは、いまや忘れ去られて久しい。「ほとんどの学校の図書室からディックとジェーンを追い出したことを、非常に誇りに思っていますよ」とスースは言った。「そこにいちばん満足しています」

絵本のふざけた韻の裏には、子どもたちへの大胆すぎるアドバイスが隠されている。スースは、ナンセンスさが思考を自由にし、人を解放すると考えていた。論理的思考を手放せば、心と頭を開放して新しいアイデアを迎えられる。ちゃんとした人だと思われなければ、と自分を縛る必要などなく、何をしたっていいし、何を言ったっていい。スースの言葉を借りるなら、「左を考え右を考え、下を考え上を考え。ああ、やってみさえすれば、どれだけの考えを見つけ出せるか!」他人からどう見られるかを心配している限りは自分に誠実ではいられない、というのがスースの信念だ。

天才はしつこい
(画像=天才はしつこい)

芸術界は、草間彌生をどこにカテゴライズすべきか、わかりかねていた。草間彌生の作品はあまりに独特で、一般的なカテゴリーがどれも当てはまらないのだ。ポップアート、オップアート(訳注:錯視などを利用した視覚美術)、ミニマリズム、環境アート、それとも何だろうか? 絵画も彫刻も自分自身までも水玉模様で覆い、作品と自分を周囲に溶け込ませる。草間といえば、おかしみ、水玉模様、空気で膨らませた形状などが特徴だが、精神障害(幻覚症状)や、性別・人種への偏見と何十年間も闘いつづけてきた人物でもある。

草間は、キャンバス、服、かばん、宝飾品、家庭用品、家具などのオーソドックスな媒体を選んで絵を描いた。だが、考え方は一風変わっており、批評家たちには理解が及ばなかった。草間が80代、90代になってやっと、カテゴリーにとらわれないポストモダン世代が草間の唯一無二のものの見方を受け入れ、作品に率直な反応を見せた。いまや草間は世界に名を馳せる芸術家であり、世界各地の主要な美術館で回顧展が開かれている。オークションでの草間の作品の総売上額は、2018年だけで1億800万ドルを超えたそうだ。


1 「ヘン」を名誉の勲章と捉える。これまでにない新しいことを始めると、まわりはあなたを変わった人だと思うだろう。あえて変わり者を目指そう。そして、友人、家族、同僚たちからの理解は期待しないこと。彼らには彼らなりの、あなたに普通でいてほしい理由があるからだ。

2 「君よりも君らしく」あれ! まわりが安全な道を行くときにあなたが賭けに出ると、まわりはあなたを疎ましく思うものだ。私の同級生の多くが、芸術家を目指していたのに結局は安全な道をとって普通に就職した。30代後半や40代にさしかかった頃、若さを無駄にしたような気がして空虚感に襲われたそうだ。私は芸術大学に進み、RCAに入学し、個展で成功を収めて、それを絶賛する批評がメディアに掲載された。それが同級生たちをいらだたせた。自分の選択に対する後悔が増幅されたのだ。

3 好きな道を進むというあなたの選択を、親しい友人や家族が応援してくれるとは限らない。スースと草間がしてきたように、あなたも批判に耐えなければならないし、障害物の少ない安全な道をとった人の10倍は努力しなければならないだろう。それでも、社会が求める大量生産品とならずに本当の自分に誠実に生きれば、それだけの大きな見返りがある。
天才はしつこい
ロッド・ジャドキンス
世界的名門美術学校であるロンドンの芸術学校のカレッジのひとつ、セントラル・セントマーティンズ講師、アーティスト。ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで修士号取得。
世界中の大学や企業・組織でクリエイティビティに関するセミナーを主宰する他、テート・ブリテン、ナショナル・ポートレートギャラリー、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツに作品を出展するなどアーティストとしても活躍。
世界的ベストセラー『「クリエイティブ」の処方箋』(フィルムアート社)は15か国語に翻訳されている。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)