この記事は2023年6月2日にSBI証券で公開された「AI、エヌビディア、TSMC・・・活躍期待の意外な半導体関連銘柄は?」を一部編集し、転載したものです。
目次
AI、エヌビディア、TSMC・・・活躍期待の意外な半導体関連銘柄は?
5月相場が終わりました。日経平均株価は月間で7%上昇し、月終値は1990年7月以来の高値水準を回復しました。平均株価の月間上昇率上位にはアドバンテスト(6857)、SCREENホールディングス(7735)、ルネサスエレクトロニクス(6723)、東京エレクトロン(8035)等の半導体関連銘柄が軒並み上位を占めました。
米国でフィラデルフィア半導体指数(SOX)が上昇基調を辿ったこと、決算発表(米国時間5/24)でGPU大手のエヌビディアの売上高が市場予想を上回り、同社株が月下旬に急騰したこと等が、日本の半導体関連銘柄上昇の要因とみられます。
今後はどうなるのでしょうか。生成AI(人工知能)が「チャットGPT」という形で世界に衝撃を与え、今後AI開発が加速する可能性は大きそうです。AI開発には、もともと画像処理に使われ、並列計算の得意なGPUというタイプの半導体が使われており、その中でも高性能なのがエヌビディアのGPUとされています。GPU市場の拡大が再び半導体市場発展をリードするとみられ、半導体関連銘柄の人気は続くとみられます。
ただ、足元の株価急騰が冒頭でご説明の半導体関連の一角に集中し、その上昇ピッチが過熱気味であることも確かです。今後はAIや半導体等をテーマに、周辺銘柄へ物色が広がる可能性があるとみられます。そこで、今回の「日本株投資戦略」では、以下のような条件で「意外な半導体関連銘柄」選んでみました。
(A)東証上場銘柄
(B)5/31(水)までの20営業日で1日当たり平均出来高が2万株以上
(C)次のいずれかの条件を満たした銘柄であること
・SBI証券銘柄検索ウインドウに「クリーンルーム」と入力し、出力され、半導体産業との関係が深いとみられる銘柄→(1)
・各種資料から、TSMC熊本工場への対応が可能とみられる銘柄→(1)
・SBI証券銘柄検索ウインドウに「人材派遣」と入力し、出力され、半導体産業との関係が深いとみられる銘柄→(2)
・各種資料から熊本または九州に地盤のある銘柄で、TSMC熊本工場建設の恩恵が大きいとみられる銘柄→(3)
・エヌビディア製品の代理店であることが確認できた銘柄であること→(4)
図表1の銘柄は、上記(A)~(C)の条件をすべて満たしています。
「意外な半導体関連株」という趣旨なので、半導体メーカーや半導体製造装置等の銘柄は今回採り上げませんでした。台湾、そして世界の半導体トップであるTSMCによる熊本での工場建設(24年末稼働予定、投資額9,429億円)により、まず工場建設や設備投資に関連した銘柄が恩恵を受けるとの見方から、クリーンルームや水処理施設など「箱もの」に関連する銘柄を採り上げました。 また、工場建設に伴い人材の確保が急務になるとみられ、半導体関連に強い人材派遣銘柄も採り上げました。TSMCは総額1兆円で第2工場も検討中とみられ、経済波及効果は10年で4兆円超が見込まれ、その恩恵を受けるとみられる金融グループ、リース会社、コンクリート会社(重いので生産地が近い方が有利)等も採り上げました。
これとは別に、今後AI開発が加速し、日本でもエヌビディア製品への需要が増えるとの予想から、エヌビディア製品の代理店であると確認できたエレクトロニクス商社も採り上げました。
AI・エヌビディア、TSMCに関連した銘柄はこれだけにとどまらないとみられます。さらに「意外な半導体関連銘柄」は他にもある可能性があります。機会を改め別途ご説明したいと思います。
掲載銘柄を解説
(1)TSMC工場建設で恩恵?~水処理、自動化装置、クリーンルーム等設備投資に関連した銘柄
■ダイフク(6383)~最先端半導体製造工場向けの「マテハン機器」拡大に期待
工場・倉庫等でモノの運搬を行う「マテハン機器」で世界トップ。エレクトロニクス産業向けは全体の36%(23.3期)で、半導体・液晶パネルの製造に欠かせないクリーンルーム(※)向けを提供しています。北米、アジアを中心に売上高の69%が海外というグローバル企業です。同社のマテハン機器はチリの発生や振動等が抑えられており、最先端の7ナノメートル以下の半導体製造では独占的とみられ、TSMC納入については強い競争力を期待できそうです。24.3期の会社予想営業利益は7%減の見込みですが、市場では微増益を予想し、25.3期は増益加速を見込みます。
※精密な半導体等の製造に用いられる部屋で、「山の手線の円の中に仁丹一粒」程度のチリしか許容されないきれいな空気を有し、温度や湿度も厳しく管理されています。
■オルガノ(6368)~最先端向けに強い水処理総合エンジニアリング企業
水処理の総合エンジニアリング企業で、極めて不純物の少ない超純水を製造する技術を有し、そのための設備や材料、サービスを提供しています。主力の水処理エンジニアリング事業(23.3期売上構成比84%)のうち68%が電子産業(その多くが半導体)向けとなっています。半導体向け超純水装置では、栗田工業(6370・シェアトップ)、野村マイクロ・サイエンス(6254・第3位)がライバルです。うち、栗田工業はTSMC熊本工場向けに受注を獲得している模様。オルガノは最先端の半導体工場向けに強く、TSMC向けではライバルの中でトップシェアとみられています。
23.3期は売上高1,324億円(前期比18%増)、営業利益152億円(同40%増)、受注高1,734億円(同27%増)といずれも過去最高を記録。24.3期は売上高1,500億円(前期比13%増)、営業利益160億円(同5%増)、受注高1,500億円(同13%減)が会社予想です。前期の反動で受注は慎重ですが、受注案件の工事が順調に進捗する見通しになっています。
■平田機工(6258)~本社は熊本。TSMCの半導体生産設備に同社装置が搭載
半導体やEV関連の生産設備の開発を行う。海外に10の関係会社を有し、世界40カ国で事業を展開するグローバル企業です。「自動車」関連生産設備事業(23.3期売上構成比39%)では、各種自動車部品の自動組み立てラインを中心とした生産システムを製造・販売。「半導体」関連生産設備事業(同37%)では、シリコンウエハを製造工程において投入したり、取り出したりする機械を取り扱っています。本社は熊本で、TSMCの工場進出予定地が近くにあります。東京エレクトロン(8035)やアドバンテスト(6857)、レーザーテック(6920)、トヨタ自動車(7203)などが当社の顧客で、TSMCの半導体生産設備にも同社装置が搭載されています。
今期(24.3期)業績見通しは、売上高900億円(前期比14%増)に対し、営業利益は54億円(同9%減)と減益予想です。EVシフトでの設備投資の拡大に伴う受注継続を見込んでいます。一方で、生産設備の標準化・量産化や新規開拓、新たな生産工程での受注獲得・拡大等での取り組みで収益性の向上を行う予定です。
中期経営計画では、事業の選択と集中を掲げ、半導体市場とEV市場を成長市場に位置づけています。うち、半導体関連事業では、部材高騰の価格転嫁が現状の課題としており、進捗は好調とは言い切れない模様です。ただ、半導体関連市場の設備投資動向自体は、米中対立による日本拠点の増加や微細化、半導体メーカーから装置メーカーへのカーボンニュートラルの要求等を背景に、2030年まで8.6%の年平均成長率(GACR)を見込んでいます。過去のインタビューで同社役員は、TSMCの熊本進出が決定したことに関し、地域性を活かして積極的にアプローチしてゆきたいと述べてます。
■新日本空調(1952)~クリーンルームのパイオニア
空調を核とした設備エンジニアリング企業で、クリーンルームのパイオニアです。他には、超高層ビル空調や原子炉などの空調システムを手掛けています。キオクシア(旧東芝のメモリー事業)が主要顧客で、売上高の14%弱を占めます(22.3期)。会社予想今期(24.3期)業績見通しは、売上高1,230億円(前期比9%増)、営業利益77億円(同8%増)と増収増益です。日本国内の製造業の設備投資や、再開発での不動産関連投資等が堅調に推移すると見越しています。
(2)TSMC工場建設で進出企業の人材確保が競争となり、追い風が期待できる人材派遣会社
TSMCの熊本進出に伴い、TSMC自体の雇用1,700人(本体、出向含む)を含め、7,500人程の雇用拡大効果が見込めそうです。TSMCの雇用は賃金が高いことに加え、求められる人材の質も高くなるため、熊本県および周辺地域で人材争奪戦が起こり始めています。そうした中で、半導体産業を含む製造業向け人財派遣に強い会社として、メイテック(9744)、UTグループ(2146)、アルプス技研(4641)をご紹介しました。このうち、UTグループ(2146)の概要は以下の通りです。
■UTグループ(2146)~国内の半導体工場建設工場ラッシュで人材への需要も高まる?
おもに製造業向けに、人材無期雇用派遣、業務請負サービスを提供。大手製造業向けの「マニュファクチャリング事業」が売上高の48%(前期)、地域密着の「エリア事業」が同30%他となっています。「マニュファクチャリング事業」の業種別構成比(全社売上高に対する比率)では、エレクトロニクス18%、輸送機器16%、産業・業務用機械・機器14%他になっています。
24.3期は純利益90億円(前期比134%増)が会社予想。純利益の市場コンセンサスは24.3期92億円、25.3期130億円。なお会社側は決算発表とともに自己株式の取得枠設定を発表しています。得意のエレクトロニクス業界では、TSMCを含む世界の主要半導体メーカーによる工場建設が増える見込みですが、今後はそれに対応した人材の需要も高まるとみられます。同社の事業環境は明るさが増す可能性が大きそうです。
(3)TSMC工場建設で熊本・九州経済が活性化され追い風を受けそうな銘柄
熊本、鹿児島を地盤とする地域金融グループである九州フィナンシャルグループによる試算では、TSMCの熊本進出による経済波及効果は、2021~2031年の10年間で4兆2,900億円前後が想定されているようです。今後は、国内の半導体関連企業を中心に約80社が新たに熊本に拠点を置くと試算され、工場が立地する熊本県菊陽市の工業地の地価は全国一の値上がり率になっています。今後、投資の増加、人口の流入を経て幅広い産業への波及効果が期待できそうです。
ここでは、地域経済の活性化を受け、追い風が期待されるふくおかフィナンシャルグループ(8354)、九州フィナンシャルグループ(7180)、九州リースサービス(8596)、TSMCの工場建設にとどまらず、その後多くの工場進出やそれに伴うインフラ整備需要拡大が期待され、恩恵が期待される熊本地盤のコンクリート二次製品企業ヤマックス(5285)をご紹介しています。ちなみに、ヤマックスは前期(23.3期)は過去最高純利益を達成。24.3期も純利益23%増が会社計画。国土強靭化や、災害復旧、防衛関連の需要も追い風になりそうです。
(4)AI開発加速で需要が増えそうなエヌビディア製品の販売代理店となっているエレクトロニクス商社
生成AI(人工知能)が「チャットGPT」という形で世界に衝撃を与え、今後AI開発が加速する可能性は大きそうです。AI開発には、もともと画像処理に使われ、並列計算の得意なGPUというタイプの半導体が使われており、その中でも高性能なのがエヌビディアのGPUとされています。ここでは、エヌビディアの半導体について代理店となっている日本のエレクトロニクス商社についてご紹介しました。 ここでは、マクニカホールディングス(3132)、ダイワボウホールディングス(3107)、菱洋エレクトロ(8068)をご紹介しました。このうち、菱洋エレクトロは5/31(水)に24.1期の業績予想について、営業利益を36億円→43億円に上方修正しました。6/1(木)には501円高(+18%)と急騰しましたが、予想PERは8.5倍、予想配当利回りは5%と割安感の強い状態が続いています。
▽当ページの内容につきましては、SBI証券 投資情報部長 鈴木による動画での詳しい解説も行っております。東証プライム市場を中心に好業績が期待される銘柄・株主優待特集など、気になる話題についてわかりやすくお伝えします。