この記事は2023年4月27日に三菱UFJ信託銀行で公開された「不動産マーケットリサーチレポートvol.222『物流網再編が不動産に与える影響 ~中継拠点の潜在需要~』」を一部編集し、転載したものです。


物流網再編が不動産に与える影響 ~中継拠点の潜在需要~
(画像=Funtap/stock.adobe.com)

目次

  1. この記事の概要
  2. 国内輸送網が抱える3つの危機
    1. 1 ドライバー不足
    2. 2 労働時間規制の改正
    3. 3 輸送効率の低下
  3. 安定的な輸送網の維持に向けて
  4. 中継拠点の重要性
    1. 1 中継・共同輸送による輸送合理化の推進
    2. 2 物流業界の構造転換が不動産に与える影響
    3. 3 中継拠点の理想的な立地
  5. 中継拠点の潜在需要推計
  6. まとめ

この記事の概要

• 構造転換を迫られる物流業界 / 中継拠点の効率活用が一層重要に

• 地域間輸送データと座標情報を元に長距離輸送における中継拠点の潜在需要を推計

• 潜在需要が強いのは『中部・大阪以東の関西エリア』や岡山等。加えて福島、山形は、潜在需要は突出して高くないものの、中間中継拠点としての需要が見込まれる

国内輸送網が抱える3つの危機

自動車輸送は日本の国内貨物輸送の約9割を占め、その輸送距離は年間約550億キロに及ぶ。(図表1)この長大な距離の輸送を支えてきたのが、約80万人のトラックドライバーの労働力である。今、この自動車を中心とした輸送システムに大きく3つの脅威が訪れている。

1 ドライバー不足

トラックドライバーの人数はこの20年間で約20%減少した。(図表2)これは全産業平均と比べてかなり大きい。ドライバーの高齢化、若年層の免許取得者数減少、長時間労働や低賃金といった労働環境を回避する傾向が見られることが背景にあると考えられる。今後、労働人口の減少に伴いドライバーもさらに減少することが見込まれ、現状の輸送網維持に必要となるドライバーの確保が難しくなるものと推察される。

図表 1: 自動車貨物輸送距離と自動車分担率 図表 2: トラックドライバーの人数推移
(画像=三菱UFJ信託銀行)

2 労働時間規制の改正

2024年4月よりトラックドライバーの労働時間に対し、新たな基準が適用される(いわゆる“改善基準告示”、概要は図表3)。当該規制は、時間外労働の上限規制について罰則規定を有し、且つ悪質な荷主に対する実名公表制度を備えるものであるから、一定の実効力を伴うものと考えられる。こうした規制の下、ドライバー一人当たりの輸送可能距離は今後、縮小していく可能性が高い。

3 輸送効率の低下

国内貨物輸送量は、輸送距離を単位とした効率性で見るとこの20年間で1割から2割程度減少した。(図表4)。小ロット・時間指定配送の増加等、輸送ニーズの変化を背景として、輸送距離が減少しづらいことが要因のひとつであると考えられる。ドライバー数の減少、労働時間規制の強化が見込まれる中、輸送効率の改善は急務である。

図表 3: 労働基準改善告示の概要 図表 4: 輸送距離・トン数で測った輸送効率の推移
(画像=三菱UFJ信託銀行)

安定的な輸送網の維持に向けて

上記1~3で述べた危機を乗り越え、今後も輸送網を安定的に維持するためには、限られたリソースを最大限に活用していけるような構造への転換が必要である。構造転換を推し進める手法として近年注目されているのが、物流拠点、トラック、ドライバー等のリソースを分野横断的にシェアリングする中継・共同輸送体制の構築である。

中継拠点の重要性

1 中継・共同輸送による輸送合理化の推進

中継輸送とは、貨物輸送を複数のドライバー・自動車でリレーしながら行う輸送方式であり、共同輸送は、中継拠点等を介して一台の自動車に複数社の貨物を搭載するというような方式である。輸送行程を中継地点で区切ることで、一人当たり輸送距離の抑制を図れる他、複数の輸送行程を単一化することで、総輸送距離を削減することも期待できる。例えば、大王製紙とサントリーが2022年8月より実施している共同配送の事例では、岐阜と静岡の中継拠点を活用し両社の関東―関西間の物流を統合した結果、統合前の総輸送距離約1,900キロのうち、約500キロ、26%の削減に成功した。

2 物流業界の構造転換が不動産に与える影響

ECの発達による大規模物流施設の増加等、物流のあり方の変化が不動産市場に大きな影響を与えてきた。今後、物流業界を取り巻く状況の変化が見込まれる中、そうした変化に則し物流体制の構築を通じて不動産にも大きな影響を与えていくことが見込まれる。想定される影響について考察をしてみたい。

3 中継拠点の理想的な立地

理想的な中継輸送の実現においては、物流の安定的な維持という観点が不可欠である。そのためには、 ①中継により効率化を期待できる長距離輸送の中間地点に位置すること②混載化やドライバー交代などの共同輸送パートナーの見つかりやすい一定量以上の輸送量が見込める路線に位置すること、が肝要である。

次節では、これらの条件を満たすエリアを探るべく、全国の輸送データを用いて中継拠点の潜在需要の分析を試みた。

中継拠点の潜在需要推計

全国を対象とした長距離輸送の中継拠点に関する潜在需要を探るため、国土交通省「貨物地域流動調査(2017~2021年)」を用い、発着点の座標情報をもとに各地域を通過する可能性のある長距離貨物量を中継貨物の『潜在需要』と定義して推計を行った。

図表 5: 中継物流拠点の潜在需要推計(輸送直線距離 300km 以上の輸送を対象)
(画像=三菱UFJ信託銀行)

推計結果によると、中継拠点としての潜在需要は太平洋側を中心に特に『中部・大阪以東の関西エリア』において強いことがわかる。『中部・大阪以東の関西エリア』は輸送量の多い東京―大阪の中間に位置している。加えて、九州から東北までを含む様々な地域物流が通過することが想定され、全都道府県の中でも潜在需要が突出して高いことが見込まれる。また岡山は、九州から関西以東の長距離輸送の中間に位置することから安定した需要が見込まれる。

上記推計は輸送距離300kmを超える貨物量の合計を潜在需要と定義している。本定義自体は、長距離貨物輸送の需要を捉えるうえで有用であると考えるが、加えて、発着両地点からそれぞれどの程度離れているのかという状況もまた中間地中継拠点としての潜在需要を探る上では重要な観点と考えられる。そこで本稿では、上記推計に加えて、計測された潜在需要について発着両地点からの距離に着目して追加分析を行った。(図表6)分析結果によると、福島、山形は、潜在需要は突出して高いわけではないものの、潜在需要の過半数が発着両地点から150kmを超える結果となった。両地域は北海道・東北と首都圏の中間に位置し、かつ中部・関西・北陸と東北を結ぶ長距離輸送が想定されることから、こうした立地特性を背景とした拠点需要が見込まれる可能性がある。

図表 6: 潜在需要量と発着地点からの距離
(画像=三菱UFJ信託銀行)

各地域における実際の需要は、輸送量だけではなく、幹線交通網の整備状況や雇用確保のしやすさ等、複合的な要因を前提とすると考えられるが、貨物の輸送量や輸送距離に着目して把握される潜在需要は、中継拠点を用いた共同配送による貨物の混載化や輸送行程の単一化による輸送効率化を検討するうえで、把握すべき重要な指標ではないかと考える。

まとめ

潜在需要の推計結果及び近年の中継拠点活用事例(図表7)を見ても、中継物流適地においては今後、物流施設の需要が高まるエリアが出てくることも想定される。そのようなエリアにおいては工業用地に所在する工場から倉庫や中継拠点への用途転換、物流網の強化を目的としたCRE戦略の進展、他社とのアライアンスによる物流網の強化などの戦略が合理性を帯びてくることも否定できないと考える。不動産はその特性上、戦略の策定から実行までには一定の時間を必要とする。本稿で提示した中継拠点需要に関する仮説については、今後も継続的に観測し、不動産の観点からの物流業界の変化を追っていきたい。

図表 7: 長距離輸送網における中継拠点の活用事例
(画像=三菱UFJ信託銀行)
牧坂亮佑
三菱UFJ信託銀行 不動産コンサルティング部