この記事は2023年7月27日に「第一生命経済研究所」で公開された「猛暑と個人消費」を一部編集し、転載したものです。


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(画像=SB/stock.adobe.com)

目次

  1. 猛暑は消費を増やすか、減らすか
  2. 「電気代」への支出増加が家計の重荷に
  3. 懸念される野菜価格の上昇

猛暑は消費を増やすか、減らすか

暑い。とにかく暑い。この異常な暑さは、景気にどう影響を与えるのだろうか。

「猛暑効果」という言葉に象徴されるとおり、猛暑は夏場の個人消費を増やすと言われることが多い。直接的には、飲料や家電といった猛暑関連消費が増加するといった効果が挙げられる。もう一つの間接的な影響としては、外出機会の増加を通じた効果がある。夏場に気温が上昇するケースでは、同時に好天に恵まれて日照時間も長くなることが多い。その分、外出が増え、消費が刺激されることになる。過去の例をみても、猛暑の夏に消費が増えることが多いのは事実である。今年についても、猛暑効果による夏場の消費増を期待する声が今後増えると思われる。

もっとも、気温の上昇が常に夏場の消費にプラスに効くわけではない。まず、猛暑関連消費の増加については、確かに気温の上昇によって増加する品目は存在するものの、逆に気温の上昇で消費が減る品目も存在することから、消費全体への効果は明確なものではない。また、外出機会の増加についても考慮すべき点がある。確かに暑い夏と日照時間の増加の組み合わせは行楽地等への需要増をもたらすことが多いが、気温の上昇が行き過ぎて「暑過ぎる夏」、「酷暑」となった場合には、期待される効果とは逆に、猛暑が外出の手控えに繋がる可能性がある。実際、足元でも危険な暑さが続いていることから、全国各地で連日のように「熱中症警戒アラート」が発表されており、不要不急の外出を手控えることが呼びかけられている。

なお、星野(2022)では、35度近辺までは「気温が上がると消費が増える」が、それ以上になると「気温が上がると消費が減る」可能性があると指摘している。現在はまさにこの状況に該当している。今年の夏は、ウィズコロナ、アフターコロナの進展からサービス消費を中心に消費の活性化が期待されているが、仮にこの危険な暑さが続いた場合、サービス消費を中心として猛暑が個人消費の逆風となり、夏場の消費が意外に伸び悩む可能性もあるだろう。

「電気代」への支出増加が家計の重荷に

電気代負担の増加も懸念材料だ。猛暑で増加する夏物消費はいくつかあるが、なかでも夏場の気温上昇と明確な相関があるのが「電気代」である。気温の上昇を受けて、今夏の家計の電力消費は大きく可能性が高い。もっともこれは、猛暑によって消費が活性化されたというものではなく、暑さに耐えかねてやむなく増やさざるを得ない消費である。こうした形での電力消費の増加は、喜べる形の消費増でないことは明らかだ。こうした場合、家計は電気代への支払額が増加した分、他の消費を減らすという行動に出やすいほか、負担増がタイムラグをもって個人消費の抑制に繋がることも考えられる。

懸念される野菜価格の上昇

もう一つ懸念されるのが野菜価格の上昇だ。日照時間の増加は野菜の生育に好影響を与える一方、気温の上昇が行き過ぎれば、逆に野菜の生育に悪影響が生じることも多い。特にキャベツやハクサイ、レタス等の葉物野菜は影響を受けやすい。現在の暑さが続けば、野菜価格の上昇に繋がりかねない。

野菜にしてもエネルギー価格にしても生活に必要不可欠であり節約が難しい。その分、他の消費を削らざるを得なくなるというわけだ。特に、野菜への支出比率が高い高齢者層への影響は大きくなるだろう。また、野菜は生活に身近で購入頻度が高い分、他の財と比べて価格上昇を意識しやすいという特徴をもっている。こうした体感物価の上昇が心理的な面を通じて消費に悪影響を及ぼす可能性にも注意したいところだ。

このように、猛暑と個人消費については考慮すべき要因がいくつかあり、両者の関係はそう単純なものではない。もちろん、気温の上昇が消費を押し上げる可能性があることを否定するものではないが、それも程度問題である。気温の上昇が行き過ぎる「暑過ぎる夏」が続いた場合には、逆に消費の足を引っ張る要因に転じかねないことを念頭に置いておく必要があるだろう。


(参考文献)

  • 新家義貴(2018)Economic Trends「今年の猛暑は消費を増やすか、減らすか?」
  • 新家義貴(2022)Economic Trends「猛暑と個人消費を考える」
  • 星野卓也(2022)Economic Trends「日次データでみる暑すぎる夏と消費の関係」

第一生命経済研究所 シニアエグゼクティブエコノミスト 新家 義貴