この記事は2023年7月27日に「第一生命経済研究所」で公開された「猛暑で増える消費は何か?」を一部編集し、転載したものです。


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目次

  1. 稀にみる猛暑
  2. 増えていく消費品目
  3. 減っていく消費品目
  4. 今後の経済への問題点

稀にみる猛暑

2023年7月の夏は、異様に暑い。地球温暖化に対して、強烈な危機感を感じる。東京都の最高気温の平均を調べてみると、2023年7月は過去最高になる可能性がある(図表1)。気象庁のデータでは、7月27日時点のHPの平均値では33.4℃(暫定値、これまでの日次平均)と、2018年7月の最高を抜いている。7月が暑いと今年の8月も高い気温になりそうだ。おそらく、2023年は7・8月を通じて、東京都(あるいは全国的に)は、過去最高になるのではないかと警戒している。

第一生命経済研究所
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増えていく消費品目

この猛暑に伴って、どんな消費品目が連動して変化するのかを調べてみた。猛暑の年(7・8月平均の最高気温)の気温変動率と、総務省「家計調査」の品目の実質消費・前年比(7・8月平均)について、その関連性(相関係数)を調べた。そこからは、暑い夏ほど変化しやすい消費品目は何かがわかる。暑い夏と関連が深かった2つの品目は、1位が「他の飲料」、2位が「電気代」だった(図表2)。この2つは特に気温との関連性が強い。

「他の飲料」は、スポーツドリンク、ミネラルウォーター、炭酸水、乳酸菌飲料、果実・野菜ジュースである。熱中症予防で、水分を取るようにする人が増えるから、「他の飲料」が増えることになる。2位は、「電気代」であった。エアコンの使用が増えるから、6月からの電気代値上げも手伝って、7・8月の電気代が嵩むことは想像に難くない。季節的に夏場は電気代の支出が減るはずだが、猛暑のときには増えてしまう。

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意外なのは、3位の「たばこ」である。理由はよくわからない。猛暑のストレスが溜まり、たばこの消費が増えるのだろうか。4位は、「茶類」である。麦茶の消費量が暑いほど増えると考えるとわかりやすい。5位の「他の被服」は、帽子の購入が増えることの反映であろう。「他の被服」は、帽子のほか、ネクタイや靴下もある。涼しい夏用の靴下の購入が促進される可能性はある。紫外線防止の手袋もあるだろう。同様に、衣料品には暑い夏に反応する品目が多かった。6位の「男子用シャツ・セーター」は、半袖の服が売れることの反映であろう。7位の「婦人用下着類」も、薄手のものへの選好が高まるためだと考えられる。

8位の「上下水道料」は、夏にシャワーを浴びる機会がかなり増えるということだと理解できる。9位の「牛乳」は興味深い。牛乳を飲む習慣は、熱中症予防になるという。熱中症対策には水を飲むことが知られているが、予防には運動後に牛乳を飲むと血液量が増えて体温調節が促されるという研究もあるという。高齢者などは、そうした効果を期待して、身体づくりのために牛乳消費を増やしている可能性もある。そして、10位は、「冷暖房用器具」である。エアコンは思い付きやすい。節電のために、扇風機を買って、エアコンの設定温度を上げて扇風機を回す人も多いのだろう。

そのほかに10位以下には、「理美容用品」(14位)がある。これは、シャワーの回数が増えて、石鹸やボディーソープ、シャンプーの消費が増えるのだろう。食料品では、「麺類」(15位)がある。ソーメン、冷麺などの消費増がイメージされる。「酒類」(18位)は、ビールの消費だろう。

減っていく消費品目

猛暑は、消費拡大を促すという人もいるが、消費全体との強い相関はなかった。せいぜい、夏が暑いと消費が増える傾向があるくらいだろう。暑すぎると、人々は外出を控えて、消費機会が減ってしまう。熱中症を心配して、昼間は外出しないという高齢者も結構多いと思う。

消費品目の中で、猛暑になると逆に支出が減る関係が強いものを10品目ほどリストアップしてみた(図表3)。1位は「ガス代」である。暑いときは、コンロに火をつけることも躊躇してしまう。なるべく、料理はコンロを使って、その間近で料理をしなくても済むものになっていく。2位の「卵」は、やはり、目玉焼きやゆで卵を作ることが猛暑では敬遠されるからなのだろう。3位の「寝具類」は、掛け布団などを使わなくなるからだろう。個々にみれば夏用の寝具を買う人もいるだろうが、総体では減少しやすい。

ここでも意外な効果がある。4位の「パン」である。9位には「米」もある。パンや米の消費量が減ることは不思議だ。主食のパンや米の消費が少なくなるのは、その代わりに麺類の消費が増えるからだろう。代替効果によるものだ。

5位の「果物加工品」は、生鮮果実の代替効果だろう。増える品目の上位ではないが、21位に「生鮮果実」がある。夏になると、スイカを食べる習慣がある人は多い。その代わりに、加工された果物の消費は減るのだろう。8位の「塩干魚介」や10位の「加工肉」はやはり火を使うことが敬遠されるからだろう。加工肉にはハンバーグ、ソーセージなどがある。

食料品の支出全体でも、気温との関連性は強くなかった。これは、猛暑で増えるものもあれば、減るものもあるからだ。増加の消費支出は、代替効果によってかなり減殺されるということだ。

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今後の経済への問題点

以前は、「暑い夏は景気にプラス」という人の意見をよく聞いていた。しかし、最近の猛暑は異常である。原因は、地球温暖化の影響が明らかだ。日本以上に海外で猛暑・酷暑の弊害が聞かれるところだ。地球環境が異常化していることを「景気にプラス」と喜んではいけない。むしろ、人類が被っている被害・弊害に関心を向けるべきだ。

猛暑が夏の電力使用量を増やすとすれば、それは原油・石炭・天然ガスの輸入量を増やすだろう。せっかく、2023年2月頃から貿易赤字が改善する傾向にあるが、その流れを再び悪化させることになる。すると、その影響は円安を助長するだろう。さらなる円安は、輸入物価を押し上げる。

もう1つの効果は、穀物市況の押し上げだ。世界的な異常気象は、日本のみならず、各国の穀物生産にも悪影響を及ぼすだろう。その効果は、これから秋から冬にかけて顕在化してくるだろう。折しも、ロシアが黒海を封鎖して、ウクライナ産の穀物輸出が滞っている。これは世界的な食糧危機の引き金になるのではないかと警戒されている。

日本は、こうしたインフレ圧力に対してどう動くべきだろうか。国内的には、賃上げ促進で家計の痛みを緩和することが大切だ。ただ、それだけでは十分ではなく、地球温暖化対策として、日本が各国と連携した化石燃料消費からの脱却を打ち出すことが望ましい。岸田政権は、なかなか脱炭素化に舵を切れずにいるが、そこをもう一段のリーダーシップで脱化石燃料の発電シフトを推進してほしい。


第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生