この記事は2023年8月10日に「第一生命経済研究所」で公開された「中国人が帰ってくる!」を一部編集し、転載したものです。


外国人観光客
(画像=beeboys/ stock.adobe.com)

目次

  1. いよいよ団体旅行解禁
  2. 買い物需要の押し上げ
  3. ホテルは一杯

いよいよ団体旅行解禁

中国政府が、今まで制限されていた日本向けの団体旅行を解禁することがわかった。すでに、インバウンド需要は復調してきているが、そのペースはさらに急加速すると見込まれる。

2023年1~6月の訪日外国人客数は1,071万人と2019年比▲35.6%である(図表1)。しかし、このマイナスは中国人(除く香港)の寄与度が大きい。同期間の中国人の訪日客数は、2019年比▲86.9%と他国よりも減少幅が著しく大きい。他国はすでに回復しており、2019年比▲12.0%(2023年4~6月)まで戻っている。

2019年の中国人の訪日客数は959万人であった。もしも、これから他国並みに戻ってくるとすれば、年間ペースで+718万人(=959万人×(100-12.0-13.1)/100)の増加が見込まれる。中国人の訪日客数が+718万人も増えるとなると、コロナ前の訪日客数3,188万人の回復が間近に見えてくる。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

買い物需要の押し上げ

今後、訪日中国人の消費はどのくらい増えそうだろうか。1人当たりの訪日中国人客の消費額は、2023年1~3月67.5万円、4~6月33.8万円と破格に大きかった。しかし、これは所得の高い個人旅行客なので過大評価になってしまう。

2019年の1人当たり訪日中国人客の消費額は、21.3万円であった。円安効果などによって、その金額は2019年比1.32倍に増えていることがわかっている(4~6月の観光庁「訪日外国人消費動向調査」)。だから、+718万人が1人当たり28.1万円(=21.3万円×1.32倍)の消費額を使うと考えて、+2.0兆円のマクロ消費支出の増加が見込まれるという計算になる。

注目すべきは、その消費パワーが、小売業に与えるインパクトが大きいことである。インバウンド消費全体は、すでに年間ペースで4.4兆円レベル(2023年1~6月)まで戻ってきている。この数字は、コロナ前の2019年の4.8兆円に対して▲8.4%のところまで戻してきたということになる。しかし、調べてみると、中国人以外の訪日客は、ホテル代、飲食費、交通費にお金を使い、買い物代は2019年比で減っていた。もしも、訪日中国人が戻ってくれば、+8,700億円の買い物代が増えると試算できる。これは、百貨店、家電量販店、ドラッグストアの売上増加へと結びついていくだろう。

ホテルは一杯

訪日中国人が戻ってくることは歓迎すべきことだが、心配ごとはある。日本人にとって、ホテル・旅館の予約が取りにくくなっている。特に、大都市はひどく予約しにくいと聞いている。観光庁「宿泊旅行統計」によれば、2023年6月の稼働率は、シティホテルが67.8%、ビジネスホテルが68.6%まで上がり、これはコロナ前に近づく状況だ。地域別には、東京都のビジネスホテルは79.0%、京都は71.7%と他地域よりも稼働率が高くなっている。

こうした混雑は、次第に宿泊料の高騰につながっている。総務省「消費者物価(東京都区部)では、7月中旬の宿泊料が、ボトムだった2022年11月に比べて1.5倍以上になっている(図表2)。ここには、全国旅行割の適用がほとんどなくなった効果も加わっている。

ホテル・旅館側には、コロナ禍で人員抑制をしながら経営してきて、ここにきての来客増に対応し切れなくなっているという事情もある。人員を増やしたくても、人員が集まらないという問題がある。リクルートの「アルバイト・パート募集時平均時給調査(三大都市圏)」では、2023年6月のホテルスタッフの時給が1,218円(前年比7.3%増)、ホテルフロントの時給が1,132円(前年比2.7%増)となっている。高騰する人件費を賄うために、宿泊料の値上げはやむを得ないという事情があるのだろう。今後、訪日中国人が急増すると、宿泊費の高騰に拍車がかかることは想像に難くない。

もしも、関東・関西の宿泊料が上がると、日本人の旅行客からは、予約が取れないだけではなく、高すぎて泊まれないという悲鳴が聞こえてきそうだ。旅行客は、円安のせいで海外旅行は高すぎるから断念し、国内旅行に振り替えている人も多い。それなのに、国内旅行費用が増えれば、国内旅行でさえも断念せざるを得なくなる。こうした円安効果は少し行き過ぎていると考えるのは筆者だけであろうか。

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第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生