この記事は2023年8月25日に「第一生命経済研究所」で公開された「産業競争力のためにEV化に備えよ」を一部編集し、転載したものです。


EV,電気自動車
(画像=tong2530 / stock.adobe.com)

目次

  1. EV化の加速
  2. 海外のEV化
  3. EV化をどう支援するか?

EV化の加速

ガソリンなど4油種の支援が、6月から段階的に縮減されて、9月末には切れる予定だ。資源エネルギー庁の資料では、レギュラー・ガソリンの支援額は、8月23日の資料では▲12.0円の押し下げ効果とされる。もしも、これがなくなると、1リットルの価格が183.7円→195.7円になると発表されている。このインパクトは大きい。すでに、岸田首相は、この支援策の期限延長を与党に指示したとされる。

筆者は、この激変緩和措置をさらに延長することは仕方がないと考える。しかし、気になるのは、この脱炭素化に逆行することである。2023年の世界的な熱波、高温化によって、脱炭素化の世論は、地球規模で急激に高まるであろう。そうした中で、化石燃料の消費を補助するだけでよいとは考えられない。ガソリン消費が増える分、ほかに脱炭素化を推進する施策が同時に打たなければ、地球温暖化を助長するとみられる。筆者は、国内におけるEV車の販売促進を一段と政策支援してもよいと考える。すでに実施されているものに加えて、追加的に実施するという意味だ。

その背景には、単に地球温暖化への対応だけではなく、日本の自動車産業のEV化を後押しする意味もある。丁度、コロナ禍と重なった2020~2023年は加速度的にEV化が前進した。特に、北欧や中国の加速感は凄い。それに比べて、日本市場でのEV化は著しく鈍い。何よりも、各国で売れ筋のEV車の中に、日本メーカーが上位ランクインしていないのは驚くべきことだ。EV化には先行メリットがあるとされる。先に市場での存在感を高めたメーカーが、その後も継続して優位を保つという傾向だ。直感的に、一度EV車に乗り換えた人が、ガソリン車に戻ってくるかどうかは怪しいところだ。だから、本来であれば、日本国内でEV化を政策的にもっと強化して、国内マーケットを育てた上で、日本メーカーが海外展開をしていた方がよかった。EV車で知名度を持たない日本企業が、欧米に打って出ようとしても、それは不利である。国内市場で実績を蓄積してから、海外展開を進める方が望ましかったかもしれない。ともかく、すでに加速している国際的なEV車の普及競争で、日本の自動車メーカーが伍していくことは、わが国の産業競争競争力を維持・向上させていくために重要な政策方針となる。

ガソリン等の負担支援は、消費者に寄り添うものではあるが、間接的にはEV化を促進することにはつながりにくい。EV車は、購入価格が高価であるからイニシャル・コストは大きいが、その一方でランニング・コストは低い。ガソリン価格が上がるほど、EV車の保有メリットは上がる。では、ガソリン車の負担軽減策を9月末で打ち切ってよいかというと、それは困った問題だ。多くのガソリン車のユーザーは、EV車などにシフトする用意ができていない。ここで、ガソリン車の負担軽減策の支援延長が時限的な措置として明示され、それと同時に、時限的なEV車の追加的な購入促進が行われることが望ましい。

政府は、中長期的にEV化を進めることを計画し、その期間の中で、ガソリン等の支援延長を決めることを事前にプランニングしていくのである。

海外のEV化

海外では、2020年頃から急速にEV化が進んでいる。新車販売におけるEV車の割合が高まるという現象だ。筆者は。2023年夏の世界的高温化によって、各国の消費者は一段とEV志向を強めるだろうと予想する。日本メーカーには、この流れを何とか捕まえてほしい。日本の生産統計をみていると、2023年初になって、ようやく半導体不足という供給制約が改善してきて、自動車の生産指数も増加へと向かい始めた。それを息の長いものにするためには、海外向けのEV車の輸出増が期待される。

海外では、ノルウェーが2022年のEV車(ハイブリッド車を含まず)の販売割合で79.3%だった。中国でも、政府支援を背景に、EV車の比率が29%まで上がっている(IEA<国際エネルギー機関>PHEVを含む数字)。中国政府が産業競争力の強化のために、国内市場を育成しようとしていることがありありとわかる。欧州はこの比率が21%である。米国では、EV化は遅れているというのが一般的見解だった。それが急速に変わってきている。2022年はEV比率が5.8%まで上がっている。バイデン政権は、2030年までにこれを50%まで高めようとしている。EV充電器のネットワークを全米に拡充したり、米国内へのEV車工場の進出の誘致にも熱心だ。

翻って、日本では、乗用車(除く軽自動車、含む軽自動車では1.71%)の新車販売に占めるEV車の割合が2022年1.42%(3.16万台)に過ぎない。日本の国内市場では、電動車に様々な選択肢があり、消費者が相対的にEV車に向かいにくい傾向がある。そうした姿をみて、かつての携帯電話市場が、一気にスマホ化していった経験を思い出すのは、筆者だけではあるまい。

EV化をどう支援するか?

いざ、日本国内でのEV化をどう支援するべきかを考えると、これは頭の痛い問題になる。日本メーカーの電動車のラインナップは、EV車(BEV、バッテリーEV)以外に、HEV(ハイブリッド)、PHEV(プラグイン・ハイブリッド)などもある。個人的には、ハイブリッドでも良いと思うが、海外での競争はEV車の方に傾いているように感じる。

日本におけるEV車の販売台数は、愛知県、東京都、神奈川県、埼玉県など大都市に集中している。これは、充電設備などがすでに拡充されていることが大きいとみられる。

また、都市部では、高価なEV車を購入する中・高所得者層が厚いことも関係するだろう。EV車の航続距離への不安もあるかもしれない。一口にEV化を支援すると言っても、地方の方でより積極的に普及促進をするために、車体購入時の補助率を高くするか、などと言った課題もある。

何よりも、EV化促進のための税制・補助制度を整備したことで、国産車ではなく、海外ブランドのEV車の販売が大きくテコ入れされる可能性もある。EV車を無差別に支援する原則は守らなくてはいけないが、そうした支援制度が国内メーカーの産業競争力の強化につながらないと、わざわざ日本政府が税金投入する意義は薄くなってしまう。

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生