本記事は、堤 藤成氏の著書『制約をチャンスに変える アイデアの紡ぎかた』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

アイデア
(画像=78art / stock.adobe.com)

アイデア発想法より、アイデアの思想から始めよ

『アイデアをカタチにしよう』と言うと、「あんなこといいな、できたらいいな」というただのファンタジーになってしまう場合と、アイデアを考えようにもスキルがない、お金がない、時間がない自分には無理、という否定的な現実思考ですぐに動けなくなる場合、そのどちらかに当てはまることが多いのではないでしょうか。

しかし私たちが目指すのは、楽観的だけどカタチにならない理想主義者でもなく、カタチになるけど面白みもない現実主義者でもなく、理想を描き、現実の中でアイデアをカタチにしていける人(楽観的な現実主義者)だと思います。

でもいざアイデアをカタチにしようとすると、「スキルがない・お金がない・時間がない」などの『欠乏感』に悩まされるものです。それは『完璧』を求める社会の常識に縛られているからです。人は誰でも褒められたい生き物です。いくら資料の見た目の体裁を整えても、本質的なアイデアを磨かなければアイデアが世に出ることはありません。

人は他人と比べることで、自分の「ない」部分が気になってくる生き物です。お金持ちと比べ、実績やスキルを持つ人と比べ、人望や時間を持つ人と比べてしまう。そして挙句の果てに、あれがない、これがない、と欠乏感に苛まれてゆくのです。人は「ない」ことに囚われたとき、自己像はどんどん小さくなってしまいます。一般的には『他責』よりも『自責』が良いと言われていますが、自責思考も行きすぎると、自分には人生を切り開く力はない、とすべてを諦める『絶望人間』になってしまうのです。

現代は、変化が激しい濁流のような時代です。『溺れるものは、藁をも掴む』という言葉があります。藁のように、ネットにあふれている流行のテクニックに安易に飛びついても、すぐに陳腐化してしまいます。私たちが掴むべき『人生の鍵』とは、アイデアにおける人生観、正しい『アイデア観』を身につけることなのです。

世の中には多くの発想のテクニック(ドリフト走行的なもの)、つまり『アイデアの思考法(シンキング)』があふれています。しかし、私はまず前提として『アイデアの思想(マインド)』を身につけることこそが大切だと思っています。

そのためには、まずアイデアの思考の前提となる『自分のクリエイティビティを信頼する』ことから始めてほしいと思います。その内なる創造性とつながらないことには、無意識の力を最大限に引き出すことはできない。だからまずは、自分の中の『アイデアの思想』つまり、『アイデア観』に想いを馳せましょう。

本来は誰もがクリエイティビティを備えています。そしてアイデアは、あなたの身の回りで発見される瞬間を待っています。あなたがアイデアの種に気づき、大切に愛情深く育てられれば、いずれアイデアは具現化し、その芳醇な果実を与えてくれます。だからこそ、まずは自分の中に『クリエイティビティはある』と心から信じること。こうした自分の無意識の創造性を信頼し解き放つことが、正しい『アイデア観』を持つことです。

人は制約から逃れることはできません。そもそも誰もが、寿命という制約の中で生きています。才能、お金、時間など、それぞれが置かれた制約の中で人生をやりくりしなければならない。つまり『制約を制するアイデアが、人生を制す』とも言えます。

アイデアが大事と言うと、決まって「自分にはクリエイティビティはありません」と言う人がいます。多くの人が間違った認識をしていますが、クリエイティビティは、そもそも生まれながらの才能やセンスなどの類のものではないのです。

クリエイティビティ、つまり創造性とは、本来すべての人間に備わっているもの。その自分の内なるクリエイティビティを信頼し、周りを見渡せば、誰もがある瞬間、運命的にアイデアが導かれ、自然と生まれてくるのです。詩人の吉野弘の詩に、こんな一節があります(『現代詩文庫12 吉野弘詩集』思潮社)

『―― I was bornさ。受身形だよ。正しく言うと人間は生まれさせられるんだ。自分の意志ではないんだね ――』

人の命は、能動的に『生む』と言うよりも、出逢いと自然の神秘が重なり合い、奇跡のように『生まれさせられる』もの。つまり結果として『生まれる』のです。自分の意志だけでつくれるようなものではないことを、私たちは本能的に感じています。

私は、アイデアもまた同じだと確信しています。アイデアは自分ひとりの力だけでつくるものではありません。自分の意識だけでなく無意識とつながり、身の回りの環境や時代の流れなど、いくつもの偶然に導かれ、ようやく授かるもの。アイデアは、着想するとも言います。これはまさに命の誕生のような、尊いものだと言えます。こうしたアイデアの種を、守り育み、慈しむ中で、ようやくこの世でアイデアになる。そんなかけがえのない愛の結晶がアイデアなのです。

Idea was born. アイデアは、導かれ、授かるもの

先ほどの詩に倣えば、アイデアは導かれ、授かるものだと捉える方が自然です。だからこそ、まずは『正しいアイデア観』を持つことが大切です。例えば『人生観』は、これまでの失敗や成功、読んだ本や友人や仕事での出会いなど、人生のさまざまな経験を通して、自然に身についたものであり、無理やり身につけたものではありません。だから人生は『人生観』であって、『人生力』とは言いません。

それに「自分にはクリエイティビティはありません」と考えた人はそれ自体が、今の無意識の『アイデア観』だと言えます。「自分にはクリエイティビティがない」と信じ込んでしまっていること。だからこそ、良いアイデアを思いつくこともカタチにすることもないわけです。脳の働きによって、自分で自分の可能性を制限し、クリエイティビティがない人間だと証明しているのです。

まずは脳の『RAS(網様体賦活系)』と『スコトーマ(盲点)』について紹介しておきましょう。書籍『コンフォートゾーンの作り方』(苫米地英人著・フォレスト出版)ではこのように説明されています。

『RASというのは、人の脳の活性化ネットワークのことで、毎秒毎秒五感に入ってくる大量のメッセージの中のどれを意識するかを決定する役割を果たすものです。いわば私たちが受け取る情報のフィルターとして、情報の取捨選択を行っています。スコトーマとは、盲点のことです。私たちは身の周りの情報をすべて理解しているかのように感じていますが、実はスコトーマによって隠されていることがたくさんあります。』

人はまだ、潜在能力をほとんど活用できていません。氷山のように水面に出ている部分を『意識』だとすれば、水の中に潜っている大部分が『無意識』の領域です。つまり、自分の無意識のクリエイティビティを信頼することで、RASの働きによって思いつくアイデアにフォーカスし、思考することができます。それにより、起きている間も寝ている間も、脳の力を活用し、アイデアを閃く可能性を高めることができるのです。

逆に「自分にはクリエイティビティがない」と思い込んでしまっている場合は、無意識の働きによって盲点が生まれ、あらゆるアイデアに気づける機会を見えなくしてしまう。人は見たいものしか見ないからです。

人類すべてに平等に与えられた人生を変えられる究極の魔法、それがアイデアです。アイデアがあれば、逆境から道を切り開けるチャンスが生まれます。つまりアイデアとは、私を含め、持たざるものに与えられた最後の希望です。

私は、こうしたアイデアの見方を変えることができれば、制約を味方にし、行動を変え、運命さえも変えられると本気で確信しています。

ではいよいよ、『アイデアのサインの法則』について語っていきましょう。

アイデアのサイン■●▲の法則 ポイント
▼ 現代は完璧を求める社会であり、「ない」という欠乏感に溺れてしまいがち
▼ 人生を好転させる鍵は、アイデアをカタチにする力=『アイデア観』を身につけること
▼ アイデアは、自分ひとりで『つくるもの』ではなく、『生まれるもの』
▼ 人生観のように正しい『アイデア観』を持つことが重要
▼ 『RAS(網様体賦活系)』の働きで、意識だけでなく無意識の力も含め活用すること
▼ 人間には『スコトーマ(盲点)』がある
「自信がない」という価値
堤 藤成(つつみ・ふじなり)
『つむぐ塾』塾長/コピーライター 

生まれつき右耳が聞こえず、コミュニケーションにコンプレックスを抱えた結果、言葉で魅了するコピーライターに憧れる。中学の卒業文集に「CMをつくりたい」と記し行動を続け、新卒で電通に入社。新人時代はアイデアが採用されずにもがき苦しむ。しかし制約を味方にしてアイデアを導くための思想を身につけたことで、国語の教科書に掲載される広告をつくるなど徐々に結果を出せるようになる。クリエイティブやデジタルなどの部署を経て、マレーシアのELM Graduate SchoolでMBA取得。スタートアップ転職後はオランダと日本を行き来し、クリエイティブ視点でのブランディングを担当。言葉やアイデアで『幸せに叶えるを紡ぐ』を実践するコミュニティ『つむぐ塾』主宰。カンヌGOLD、日本新聞協会新聞広告クリエーティブコンテスト・グランプリ&コピー賞、宣伝会議Advertimes(アドタイ)第1回コラムニストグランプリなど受賞多数。
著書に『ほしいを引き出す 言葉の信号機の法則』(ぱる出版)がある。

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