本記事は、堤 藤成氏の著書『制約をチャンスに変える アイデアの紡ぎかた』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

サイン
(画像=deagreez / stock.adobe.com)

三角の『葛藤のサイン』で、第3案を導け

昨日倒れたのなら、
今日立ち上がればいい。

ハーバート・ジョージ・ウェルズ(歴史家・社会活動家)

三角の指示標識に学ぶ『葛藤のサイン』

あなたは、人や自転車が道路を渡るピクトグラムが書かれた標識を見かけたことはありますか。これは指示標識と言って交通方法を示す標識です。中でも、三角形の『横断歩道』と『自転車横断帯』、『横断歩道・自転車横断帯』は特に味わい深いサインなのです。

これまでの案内や規制の標識は、車のドライバー目線の一方通行なサインでした。しかし今回の三角の指示標識は、車には注意を促しながらも、メインは歩行者や自転車側への道を示すものです。つまり、三角の指示標識は互いの葛藤を解決する双方向の標識だと言えます。

基本的に交通標識は、車を運転する人のために作られています。しかし、この三角の指示標識(横断歩道と自転車横断帯)だけは違います。そもそも車社会が浸透するにつれて、道路における車と歩行者・自転車という対立が生まれました。そこでその対立の葛藤を乗り越えるために生まれたのが、三角の指示標識です。そのため私はこれを『葛藤のサイン』と呼び、特別扱いしているのです。

『制約をチャンスに変えるアイデアの紡ぎかた』より引用
(画像=『制約をチャンスに変えるアイデアの紡ぎかた』より引用)

道路における車と歩行者・自転車が共生するために、理想と現実を乗り越えたのがこのサインなのです。アイデアにおいても、理想と現実の間で導かれた1本の横断歩道のように最適なルートを見つけ出すことが肝心なのです。

それは哲学者ヘーゲルが提唱した『弁証法』(アウフヘーベン)という考え方です。ヘーゲルの弁証法は、テーゼ(正:定説)とそれに対するアンチテーゼ(反:反対意見)の対立から、新たにジンテーゼ(合:定説と反対意見を超えた意見)を生み出す考え方をします。

『制約をチャンスに変えるアイデアの紡ぎかた』より引用
(画像=『制約をチャンスに変えるアイデアの紡ぎかた』より引用)

具体例を出すと理解しやすいはずです。作家のエイミー・ジョーンズ氏は書籍『物語のつむぎ方入門』(駒田曜訳・創元社)で、このようないくつかの具体例を通じ弁証法を説明しました。

『テーゼ(正):子供が、何の知識も持たずに世界を探検する。

アンチテーゼ(反):子供が、潜在的に危険な対立物である炎に出会う。

ジンテーゼ(合):子供は炎でやけどし、火は悪いものだという知識を体得し、経験から学ぶ。』

『テーゼ:登場人物が旅に出る。

アンチテーゼ:対立的存在(自分と全く違う相手)に出会う。

ジンテーゼ:それぞれが互いの資質を自分に取り入れる。』

このように子どもの成長の過程における葛藤と経験、また物語の骨組みを設計する際も、弁証法的な考え方は使われているのです。

アンパンもまた、身近な弁証法的アイデアだと言えます。西洋から日本に入ってきたパンを「正:テーゼ」だとすると、「反:アンチテーゼ」として、日本の伝統的なあんこがあります。それらを取り入れた「合:ジンテーゼ」として、独創性あふれる日本の菓子パンとしての「アンパン」が生まれたと言えます。

正(テーゼ):西洋のパン
反(アンチテーゼ):日本のあんこ
合(ジンテーゼ):日本独自のアンパン

テーゼと聞いて最初にピンときたのは、大ヒットアニメ『エヴァンゲリオン』の主題歌『残酷な天使のテーゼ』だと言う人もいるでしょう。例えば思考実験として、もしも弁証法で『残酷な天使のテーゼ』のパロディソングとその曲で語られている歌詞のテーマを生み出すとすれば、こんな感じになるかもしれません。

正:残酷な天使のテーゼ    ➡厳しい運命が待っているとしても飛び立ちなさい
反:情け深い悪魔のアンチテーゼ➡社会の荒波で苦しむくらいならずっと側に居なさい
合:ツンデレな神様のジンテーゼ➡逆境に抗い、愛情に包まれ、人生を生き切りなさい

まずは弁証法的な考えで『目的のサイン』の理想を正(テーゼ)として、『制約のサイン』を反(アンチテーゼ)として、きちんと整理すると『葛藤のサイン』である合(ジンテーゼ)が自ずと導かれてゆく、そのことを理解することから始めましょう。

アイデアのサイン■●▲の法則 ポイント
▼ 『葛藤のサイン』は、三角の指示標識とヘーゲルの弁証法に学ぼう
▼ 弁証法は、正(テーゼ)➡反(アンチテーゼ)➡合(ジンテーゼ)で考える
制約をチャンスに変えるアイデアの紡ぎかた
堤 藤成(つつみ・ふじなり
『つむぐ塾』塾長/コピーライター 

生まれつき右耳が聞こえず、コミュニケーションにコンプレックスを抱えた結果、言葉で魅了するコピーライターに憧れる。中学の卒業文集に「CMをつくりたい」と記し行動を続け、新卒で電通に入社。新人時代はアイデアが採用されずにもがき苦しむ。しかし制約を味方にしてアイデアを導くための思想を身につけたことで、国語の教科書に掲載される広告をつくるなど徐々に結果を出せるようになる。クリエイティブやデジタルなどの部署を経て、マレーシアのELM Graduate SchoolでMBA取得。スタートアップ転職後はオランダと日本を行き来し、クリエイティブ視点でのブランディングを担当。言葉やアイデアで『幸せに叶えるを紡ぐ』を実践するコミュニティ『つむぐ塾』主宰。カンヌGOLD、日本新聞協会新聞広告クリエーティブコンテスト・グランプリ&コピー賞、宣伝会議Advertimes(アドタイ)第1回コラムニストグランプリなど受賞多数。
著書に『ほしいを引き出す 言葉の信号機の法則』(ぱる出版)がある。

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