この記事は2023年9月20日に「第一生命経済研究所」で公開された「エルニーニョが秋~冬の経済に及ぼす影響」を一部編集し、転載したものです。
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暖冬をもたらすエルニーニョ
世界的に異常気象を招く恐れのあるエルニーニョ現象が続いている。気象庁が 9月11日に発表した「エルニーニョ監視速報」によると、今冬の半ばにかけてエルニーニョ現象が続く可能性を90%と予測しており、「エルニーニョ現象」発生時の日本は暖冬になりやすい傾向があることから、今年の冬も高温傾向が続く可能性があるとしている。
エルニーニョ現象とは、南米沖から日付変更線付近にかけての太平洋赤道海域で、海面水温が平年より1~5度高くなる状況が1年から1年半続く現象である。エルニーニョ現象が発生すると、地球全体の大気の流れが変わり、世界的に異常気象になる傾向がある。
近年では、2018秋から2019年夏にかけて発生し、冬はほぼ全面的に暖冬となり、南西諸島は記録的暖冬、西日本や東日本でも顕著な暖冬となり、西日本の日本海側は記録的少雪となった。
またその前は、2015 夏から 2016 年春にかけて発生し、北海道を除く北日本で平年より 10 日-14 日以上遅い初雪・初冠雪、沖縄では 12 月に長期的な高温を観測した。また 12 月は日本国内のみならず、国外の多くで北半球最大規模の大暖冬となった。
エルニーニョ発生時期の景気後退確率は 1.6 倍
実際、エルニーニョ現象の発生時期と我が国の景気局面には関係がある。というのも、過去のエルニーニョ現象発生時期と景気後退局面を図にまとめると、90 年代以降全期間で景気後退期だった割合は 27.0%となる。しかし驚くべき事に、エルニーニョ発生期間に限れば 44.4%の割合で景気後退局面に重なっており、エルニーニョ発生時の景気後退確率は 1.6倍となる。
実際、2015 年のエルニーニョ発生局面では記録的な暖冬に舞われた。気象庁の発表によると、10-12 月期の全国平均の気温は前年より+1.2℃程度高くなった。この暖冬の影響で 2015 年 10-12 月期の消費支出(家計調査)は前年比▲3.1%の減少に転じた。特に、被服履物が冬物衣料の売り上げが不調となったことから、同▲11.5%の落ち込みを記録した。また、交通関連を見ても、暖冬の影響は明確に表れた。同時期の交通・通信支出は暖冬の影響で冬のレジャーやタクシー利用が落ち込み、車関連でもスタッドレスタイヤ等の冬物商材が落ち込んだことで売り上げが低迷した。保険医療の支出動向も製薬関連が落ち込み、全体として低調に推移した。
国民経済計算ベースで見ても、暖冬の影響が及んだ。2015 年 10-12 月期の実質国内家計最終消費支出は前年比+0.1%と伸びが急速に鈍化し、家計調査同様に被服履物の支出額が大幅に減少した。また、冬のレジャーの低迷により娯楽・レジャー関連でも暖冬がブレーキとなった。
広範囲にわたる暖冬の影響
以上より、エルニーニョ現象により今年の冬も暖冬となれば、各業界に影響が及ぶ可能性がある。事実、過去の経験によれば、暖冬で業績が左右される代表的な業界としては冬物衣料関連や百貨店関連がある。また、電力・ガス等のエネルギー関連のほか、製薬会社やドラッグストア等も過去の暖冬では業績が大きく左右されている。自動車や除雪関連といった業界も、暖冬の年には業績が不調になりがちとなる。鍋等、冬に好まれる食料品を提供する業界やスーパー、食品容器等の売り上げも減少しやすい。冬物販売を多く扱うホームセンターや暖房器具関連、冬のレジャー関連などへの悪影響も目立つ。
過去の暖冬により悪影響を受けた分野
衣料品(下着)、百貨店、レインウェア、長靴、繊維、ガス、電力、石油製品、ドラッグストア、製薬、保湿製品、カイロ、タイヤ(ゴム)・タクシー・駐車場の車関連、宅配、即席麺・シチュー・野菜・水産加工品等の鍋物関連・調味料・ホット飲料等の食料品、スーパー、食品容器、除雪、ホームセンター、空調・住設(ガラス)・暖房機器、家電量販店、ウィンタ―スポーツ関連
(出所)各種報道資料などを基に作成
一方、屋外娯楽関連サービスや鉄道、外食に加え、コールド系の飲食料品の販売比率が高いコンビニなどには恩恵が及ぶ可能性がある。
過去の暖冬により恩恵を受けた分野
ゴルフ・テーマパーク等の屋外娯楽関連サービス、コンビニ、アイスクリーム、ビール・飲料、外食、鉄道
(出所)各種報道資料などを基に作成
減速感漂う日本経済に暖冬が思わぬダメージ
なお、これまでの歴史を見ても分かるように、エルニーニョが発生したからといって、必ず暖冬になるわけではない。しかし、実際に暖冬になれば、気象要因により家計の消費行動に大きな変化が及ぶことも十分に考えられる。2015 年の場合、前年の低温の反動や暖冬に加えて、チャイナショックに伴う株価の下落や消費マインドの低迷も手伝って、同年 10-12 月期の家計消費支出(除く帰属家賃)は前期比年率▲2.7%ととなり、同時期の経済成長率は前期比年率▲1.2%とマイナス成長に陥った。
また、エルニーニョは世界的な現象である。実際、過去のエルニーニョ期間と穀物価格の推移を見ると、エルニーニョ発生後に穀物価格が上昇する傾向があることがわかる。このため、エルニーニョが海外経済や穀物市場にも影響を及ぼすようなことになれば、日本の貿易面を通じても日本経済に悪影響を及ぼしかねない。
以上の事実を勘案すれば、今後の景気動向次第では、減速感が明確になりつつある日本経済に暖冬が思わぬダメージを与える可能性も否定できないだろう。特に足元の個人消費に関しては、実質賃金低下等のマイナスの材料が目立っているが、今後の個人消費の動向を見通す上では、エルニーニョによる暖冬といったリスク要因も潜んでいることには注意が必要であろう。