この記事は2023年9月29日に「第一生命経済研究所」で公開された「都区部版・日銀基調的インフレ率の試算(2023/9)」を一部編集し、転載したものです。


「ディスインフレ列車」に乗って:利上げはこれで終わり?

目次

  1. 刈込平均・加重中央は伸び率拡大、最頻値は縮小

刈込平均・加重中央は伸び率拡大、最頻値は縮小

以前のレポート1で試算した東京都区部版の基調的インフレ率3指標について、本日公表の9月都区部CPIを用いて計算した。刈込平均値(全国ウェイト換算)は8月:+3.3%→9月:+3.4%、加重中央値(全国ウェイト換算)は8月:+1.2%→9月:+1.3%、最頻値は8月:3.8%→9月:+3.6%となった(いずれも前年比)。3指標はいずれも高止まりを続けているが、最頻値の伸び率が縮小に転じる、東京ウェイトの加重中央値は横ばい(+0.9%→+0.9%)など上昇モメンタムの鈍化もうかがわせる結果となっている。

日銀が公表した8月全国CPIを用いた3指標は、刈込平均値が+3.3%、加重中央値が+1.8%、最頻値が+3.0%である。本稿試算における加重中央値の伸び率も+0.1ポイント拡大しており、来月日銀が示す全国の値も+2%に迫りそうだ。日銀はあくまでこれらの数値を「基調的インフレ率を捕捉するための指標」として公表しており、“基調的インフレ率そのもの”と見做しているわけではない。しかし、3指標がいずれも2%を超える/迫る状態の中で、「基調的インフレ率が2%に届いていない」とする日銀説明にはいくらか変化が生じる可能性があるだろう。

筆者は、輸入物価影響の縮小や値上げ疲れによる家計消費の鈍化で本稿試算の基調的なインフレ率も低下に向かうとみている。市場ではマイナス金利の早期解除観測も浮上しているが、足元では個人消費や求人倍率や失業率など労働需給がやや悪化方向にあり、国内経済のファンダメンタルズに陰りがみられる。春闘賃上げ率が利上げに十分な内容になるかはまだ予断を許さない。

次月、10月は価格改定が行われやすい月であるほか、最低賃金の引き上げも実施される。物価上昇の広がりがみられるかどうかの観点で、分布に着目したこれらの指標に注目しておく必要があろう。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)
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第一生命経済研究所 経済調査部 主任エコノミスト 星野 卓也