本記事は、内藤誼人氏の著書『「なまけもの」のやる気スイッチ』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

スタート
(画像=maco / stock.adobe.com)

悲観的なくらいでちょうどいい

自己啓発系の本を読んでいると、「ポジティブ思考を持ちましょう」と書かれています。

ネガティブなことを考えるのではなく、バラ色の未来を想像したほうがいいというわけです。

たしかに精神的な健康を維持するためにはポジティブ思考を持ったほうがいいのかもしれませんが、悲観的なネガティブ思考が絶対にダメなのかというと、そういうことでもありません。悲観的であればこそ、逆に行動をするやる気が出てくるということがあるからです。

アメリカにあるカリフォルニア大学のリアン・ファムは、学生を2つのグループに分け、片方のグループには、大事な中間テストでいい点数をとった自分を頭に思い描いてもらいました。もう片方のグループには、中間テストで失敗した自分をイメージしてもらいました。

さて、実際の試験で高得点を取ったのは、どちらのグループだったのでしょうか。

なんと試験で失敗したことをイメージしてもらったグループのほうが試験の出来は良かったのです。

自分がうまくいったことをイメージするポジティブ思考グループは、楽観的になりすぎて、あまり試験の勉強をしませんでした。だから成績も悪かったのです。

その点、悲観的なことをイメージしてもらったグループの人たちは、「このままでは危ないぞ」「私はおバカさんなんだから、人の3倍くらい勉強しないと単位を落としてしまうぞ」と不安になり、その不安を原動力にして、試験勉強を頑張ったのです。だから、成績も良かったのです。

不安などの悲観的な思考は、やる気に転化できるのです。

似たような研究は、アメリカにあるペンシルベニア大学のガブリエーレ・エッティンゲンも報告しています。

ダイエットプログラムに参加した肥満の女性に対して、ポジティブな未来と、ネガティブな未来を想像してもらってから1年後に追跡調査すると、ネガティブなことを考えてもらった人のほうが、ポジティブな未来をイメージしてもらった人より平均11.8キロもの減量に成功していたのです。

「ダイエットなんて簡単」というポジティブなことを考えていると、本気で取り組もうとしません。

その点、「肥満だとみんなの笑いものになってしまう」「私は人より太りやすいので、毎日の運動をしないとすぐに元に戻る」などとネガティブなことを考えていたほうが、きちんとダイエットに取り組むので、結果として、ダイエットにも成功しやすくなるのです。

悲観的な思考は決して悪くありません。
うまく利用すれば、自分を変える行動の原動力になるのです。

ポイント
ネガティブ思考も悪くない
不安などのネガティブな思考はやる気に転化できる

ネガティブな思い込みをやる気に変える

恐怖の感情は、ネガティブな感情ではありますが、モチベーションを高めるのに役立ちます。「肺がんのリスクを高めそう」とか「寿命が縮まりそう」と思えば、禁煙したほうがいいという気持ちになることからも、それはわかります。

恐怖以外のネガティブな感情についてはどうでしょうか。

実は、そういうネガティブな感情もやる気を引き出すのに役立つことが知られています。

アメリカにあるメリーランド大学のアラン・ウィグフリードは、「だれも解けない問題を自分だけ解けるのは気持ちがいい」というポジティブな感情は学習意欲を高めますが、その反対の感情、すなわち、「数学ができないとみんなにバカにされそう」という気持ちもまた、学習意欲を高めるのに役立つと指摘しています。

結局のところ、ポジティブな感情であろうが、ネガティブな感情であろうが、どちらもモチベーションに変えようと思えば変えることができるのです。

もし自分が性格的にネクラで、ネガティブなことのほうが考えるのが得意なのだとしたら、楽観的に考えるとか、ポジティブ思考をするというよりも、ネガティブ思考のほうを有効活用することを考えたほうがいいのかもしれません。

仕事に取りかかるときにはこんなふうに考えてみてください。


「ダラダラしていると、クビになるかもしれない」
「次の仕事なんて、今のご時世じゃ、見つけられないかもしれない」
「家族が路頭に迷うかもしれない」
「情けない父親だと子どもたちに呆あきれられてしまうかも……」
「じゃあ、そうならないように人の2倍働くか!!」

このような思考プロセスを取ってみると、否でも応でもやる気は高まってくるのではないでしょうか。

独身生活を満喫していて、結婚する気などまったくない人は、かりに婚活をしようとしても本気にはなれないでしょう。本人にそういう気持ちがないのですから。

ですが、そういう人でも、「今はいいけど、老後も1人っていうのは味気ないな。寂しい老後を送るのはイヤだな」などとネガティブな未来を想像してみると、「やっぱり婚活をしよう。今ならまだ間に合うはずだ」という気持ちが生まれるかもしれません。

不安や悲観など、ネガティブな感情も使おうと思えばやる気に転化できますので、自分の性格に合ったネガティブ思考をしてみるとよいでしょう。

見栄っ張りで、負けず嫌いなら、「人にバカにされる」「負け犬扱いされる」という気持ちが強烈なモチベーションを引き出してくれるでしょう。

ポイント
性格によってやる気を出す方法は違う
自分の性格に合ったネガティブ思考をする
「なまけもの」のやる気スイッチ
内藤 誼人
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。
社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。
趣味は釣りとガーデニング。
著書に、『世界最先端の研究が教える新事実心理学BEST100』『世界最先端の研究が教えるすごい心理学』『世界最先端の研究が教えるもっとすごい心理学』(以上、総合法令出版)など多数。
その数は200冊を超える。

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『「なまけもの」のやる気スイッチ』
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