本記事は、内藤誼人氏の著書『「なまけもの」のやる気スイッチ』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

事実
(画像=Andrii Yalanskyi / stock.adobe.com)

不都合な事実をあえて知る

勉強が大好きという人はあまりいません。

できれば勉強したくない、というのが大方の人のホンネではないでしょうか。

小学校で習うくらいの内容は生きていくのに最低限必要だということはわかりますが、高校の物理や数学になると、あまりに高度になりすぎて、「こんなもの、人生の役に立つのかな?」という気持ちになるのも理解できます。

けれども、勉強が嫌いな中高生に次のようなデータを示したらどうなるでしょうか。

そのデータとは、厚生労働省が公表している「令和3年賃金構造基本統計調査」です。

この調査では、最終学歴ごとの賃金の平均が示されているのですが、高卒が27万1,500円、専門学校卒が28万8,400円、高専・短大が28万9,200円、大卒が35万9,500円、大学院卒が45万4,100円です。

明らかに学歴が上がるほど、給料もたくさんもらえるのです。

こういう事実を知らされると、勉強が嫌いな中高生でも、「う~ん、やっぱりお金はほしいし、勉強しておいたほうがいいのかもな」という気持ちになるのではないかと思います。

自分にとって不都合な事実でも、そういう事実があることを知れば、やりたくないことでもやらなければならないという意欲が生まれることがあります。

ところで読者のみなさんは、砂糖がたっぷり入ったジュースは好きですか。

きっと大好きなのではないかと思います。砂糖がいっぱい入っているほうが甘くておいしいですからね。「糖分を取りすぎてしまって、肥満になってしまうかもしれない」ということに薄々気づいていても、やはり甘いジュースを目の前に出されたら飲んでしまうのではないかと思います。

けれども、もし不都合な事実を知らされると、甘いジュースを飲むのも躊躇してしまうはずです。

アメリカのジョンズ・ホプキンス大学のサラ・ブレイチは、4つのお店にやってきた1,600人のお客さまに対して、甘いジュースについての不都合な事実を教えました。「体重50キロの15歳の人が甘いジュースを飲んで250キロカロリーを燃焼させるには、50分のジョギングが必要なんですよ」という事実です。

そういう事実を教えないときには、93.3パーセントの人が甘いジュースを購入していました。けれども、不都合な事実を教えた場合には、甘いジュースを選ぶ人は86パーセントへと減少しました。

「たった1本のジュースを飲んだだけで、その後に50分もジョギングをしなければならないのはイヤだなあ。ジュースはやめておこう」という気持ちが生まれたからです。

ネガティブな情報も、うまく使えば、自分のモチベーションになります。

自分にとって不都合だからといって、目をそらすのではなく、たまにはそういうネガティブ情報に接してみるのも決して悪くはありません。

ポイント
あえてネガティブな情報を集めてみる
ネガティブな情報もうまく使えば、自分のモチベーションになる

努力のルールは少しゆるめに

目標を立てるときには、あまりルールを厳しくしないほうがうまくいきます。かりにルール通りに行動できない日があっても、たまには例外も許してあげたほうがいいのです。

カナダのトロント大学のジャネット・ポリヴィは、ダイエットをしている人は、ピザを一切れ食べただけで、もうダイエットをしても無駄だと諦めてしまい、それまでの努力をすべてやめてしまうという現象が見られることに気づき、これを「どうにでもなれ効果」と名づけました。

必死に我慢していたのに、ちょっとルールを破っただけで、とたんにすべての努力を放棄してしまうことがあります。これが「どうにでもなれ効果」です。せっかくの努力を水の泡にしてしまうのです。

禁煙中の人は、1本のタバコを吸っただけで、「禁煙なんてもうやめだ!」と諦めてしまいます。禁酒をしている人もそうで、おちょこ1杯のお酒を口にしただけで、それまでずっと禁酒していたのに、すべてをご破算にしてしまうのです。

こういう現象が起きないようにするには、あまりルールに縛られないほうがいいのです。

禁煙をしていても、たとえば他の人たちと楽しくお酒を飲むときだけは例外としておき、タバコを吸ってもOKというふうにしておかないと、「どうにでもなれ効果」が起きて、翌日から普通にタバコを吸うようになってしまいます。

「資格試験のために、毎晩勉強をする」という目標を立てても、たまには勉強ができない日だってあるわけです。残業が長引いてしまったとか、翌日使う資料作りが忙しくて勉強ができない日もあるでしょう。体調が悪かったり、風邪をひいてしまったりする日もあるでしょう。

こんなとき、例外をあらかじめ許容しておかないと、努力それ自体をやめてしまう可能性が非常に高いのです。ですので、あらかじめ例外をいくつも作っておき、あまり厳密にルールに縛られないようにしておくことが大切です。

例外も認めるようにしておけば、かりにルールを守れない日があっても「まあ、こんな日もあるよ」と軽く受け止めることができます。翌日に、また努力を再開させるだけですみます。

ダイエット中でも、たまにはおいしいアイスクリームを食べたくなる日もあるでしょうし、焼き肉を食べたくなる日もあります。人間なら、だれだってそうです。そういう日もあるのですから、厳密にルールを守らなくてもよいのです。「毎週、日曜日だけは好きなものを食べてよい」という特別な日をあらかじめ設けておくのもいいアイデアです。

努力を継続したいのなら、あらかじめうまくできない日があることも予想しておきましょう。そういう想定をしておけば、かりにルール通りにいかなくともまったく気にならなくなります。

ポイント
目標を立てるときは厳しくルールを決めない
ルールはゆるくしておいたほうがやる気が持続できる
「なまけもの」のやる気スイッチ
内藤 誼人
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。
社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。
趣味は釣りとガーデニング。
著書に、『世界最先端の研究が教える新事実心理学BEST100』『世界最先端の研究が教えるすごい心理学』『世界最先端の研究が教えるもっとすごい心理学』(以上、総合法令出版)など多数。
その数は200冊を超える。

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