本記事は、内藤誼人氏の著書『「なまけもの」のやる気スイッチ』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

会議
(画像=Ismail/peopleimages.com / stock.adobe.com)

競争しない

スポーツの世界では、自分の実力と伯仲はくちゅうしているライバルがいたほうが、モチベーションが高まるとされています。ライバルを意識したほうが、練習にも身が入ります。スポーツをテーマにした漫画やドラマや映画では、必ずライバルが登場します。ライバルがいないといまいち盛り上がりません。

けれども、あえて逆のアドバイスをしましょう。人と競争してはいけません。競争しなければならないと思うと、とたんにやる気が失われてしまう人もいるのです。

アメリカにあるロチェスター大学のジョンマーシャル・リーブは、100人の大学生を集めて、同性のサクラ(アシスタント)と、「ハッピーキューブ」というベルギー生まれの脳トレパズルをやってもらいました。

その際、半数の人には、「これは競争ですので、相手に勝てるように頑張ってください」と伝えておいたのですが、後で調べてみると、競争のプレッシャーを与えたグループほどハッピーキューブを楽しめず、やる気もなくなることがわかりました。

人と競争することでやる気が出る人もいるかもしれませんが、競争しなければならないと、やる気を奪われてしまう人もいるのです。

特に日本人は、「和」を尊重する国民性があります。

日本人は競争が好きではありません。

アメリカのフロリダ州にあるロリンズ大学のジョン・ヒューストンは、アメリカ人、日本人、中国人に競争心を測定するテストを受けてもらい、3か国の比較を行ってみました。その結果は予想通り、一番競争心がないのは日本人でした。次に中国人、一番競争心が強いのがアメリカ人という順番になりました。

そもそも競争するのがあまり好きではない日本人にとっては、他の人と競争しなければならない状況は、やる気を奪われてしまう可能性が高いと考えてよいでしょう。

営業やセールスの部署では、営業成績をオフィスに張り出しているところが少なくありません。お互いの成績を認識することで、お互いに競争することで仕事のモチベーションを高めようという狙いがあるのでしょうが、これは本当に効果的なのでしょうか。

もし私がその会社の営業部にいたら、成績をカベに張り出されたりすると「○○に負けないように頑張ろう」という気持ちになるよりは、むしろやる気をなくしてしまうのではないかと思うのです。

他人に打ち勝つことによって快感を得られる人ならば、競争してもよいような気もしますが、そうでない人には競争が苦痛なだけなのです。

ポイント
あえて競争しないという考えも必要
競争することがやる気を奪う可能性もある

自分ではなく、社会のためと考える

自分にとって利益があるかどうかを考えるのは、人としての器が小さいのではないかと思います。もっと大きな視野を持ち、「社会のため」「世界のため」と考えてみるのはどうでしょうか。そのほうが、大きなやる気が出てくるかもしれません。

アメリカにあるテキサス大学のデビッド・イーガーは1,364人の高校生に対して、自分に役立つような目的を立てて学ぶのか、それとも「世界を好ましい方向に変えるため」「社会に貢献できる立派な市民になるため」といった自己超越的な目的で学ぶのかを調べてから、退屈な数学の問題(単純な計算問題)の課題を与えて、好きなだけやってもらいました。もし飽きたら、ゲーム(テトリス)をやったり、映画を観たりしてもらいました。

その結果、自分だけの目的で学ぶ人より、自己超越的な目的で学ぶと答えた人のほうが、退屈な数学の問題であっても、いったん始めたことを簡単に投げ出すようなことをせず、ずっと長く続けていたことがわかりました。

「自分のため」だと思うと、そんなにやる気は出ません。

ところが、「社会のため」とか「世界のため」と思うと、手抜きはできなくなるのです。

自動車王と呼ばれたヘンリー・フォードは、自分がお金持ちになりたくて自動車を作ったのではありませんでした。だれもがラクに移動できる自動車をアメリカ中に普及させたい、という一段大きな目標を持って仕事をしていたのです。

フォードのように大きな視点で考えてみてください。

そうすれば、より大きな意欲を持って仕事ができるはずです。

日本人が明治維新という、世界のどの国もできなかったようなことを成し遂げることができたのも、明治の人たちは、「自分のため」ではなく、「日本のため」という大きな目的で行動していたからです。

渋沢栄一が、100を超える会社を創立できたのも、自分がお金持ちになろうとしたのではなく、日本の社会のためでした。そういう気持ちで仕事をしていたからこそ、意欲的に行動できたのだと考えられます。

電気代の節約になって、自分にとってお得だから環境に良い行動を取ろうとしても、なかなか難しいのではないかと思います。エコな生活習慣も身につきません。本気で取り組もうという気持ちになれないからです。

その点、「世界の温暖化を止める」という大きな視点で考えると、喜んでエコな生活習慣が身につけられるのではないでしょうか。自分のためでなく、社会のため、世界のため、人類の子孫のため、という意識を持ったほうが、多少の不便な生活も我慢できるようになるでしょう。

たしかに、自分にとってのメリットや利点がないのなら、そんな行動は取りたくないとだれもが考えると思うのですが、ほんの少しだけ大きな目標を持ってみるとよいのではないかと思います。

ポイント
自分のためだけだとなかなかやる気が出ない
「社会のため」、「世界のため」だと思うと手抜きができなくなる
「なまけもの」のやる気スイッチ
内藤 誼人
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。
社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。
趣味は釣りとガーデニング。
著書に、『世界最先端の研究が教える新事実心理学BEST100』『世界最先端の研究が教えるすごい心理学』『世界最先端の研究が教えるもっとすごい心理学』(以上、総合法令出版)など多数。
その数は200冊を超える。

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