本記事は、内藤誼人氏の著書『「なまけもの」のやる気スイッチ』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

スタート
(画像=maco / stock.adobe.com)

最初は簡単にできることからスタート

チャレンジしてみて最初にうまくいかないと、私たちの心は折れます。

「こりゃ、ダメだ」ということでさじを投げてしまうわけです。

したがって、継続的な行動習慣を身につけたいのであれば、最初は目をつぶっていてもたやすくできてしまうようなところからスタートするのがよい作戦です。

ロール・プレイング・ゲーム(RPG)と呼ばれるジャンルのゲームでは、最初は主人公のレベルが面白いようにポンポンと上がっていきます。レベルが上がると、強い呪文を覚えたり、攻撃力が上がったりするので、とても気持ちがいいものです。

もしゲームの序盤から敵が強すぎるとか、なかなかレベルが上がらなかったら、どうなるでしょう。おそらくはユーザーにすぐに飽きられてしまいますし、そんなゲームはそっぽを向かれてしまいます。

人のやる気というのは、最初はやさしいほど高まるのです。

カナダにあるヨーク大学のヘニー・ウェストラは、67人の不安症(多くは広場不安と対人不安)と診断された人たちに、週に2回、2時間の治療を行いました。

まず自分が不安に感じることのリストを作ってもらい、次に、不安のものすごく小さなものから大きなものまでの階層表にしてもらいました。そして、ものすごく小さなものからチャレンジし、うまくいったら、ほんの少しだけ大きな不安にチャレンジしてもらう、というやり方をしてもらったのです。

たとえば、外に出るのが怖いのなら、最初はそれこそ「玄関まで行けたらクリア」というレベルでスタートするのです。それがクリアできたら、次はほんの少しだけレベルを上げ、「自宅の庭に出ることができたらクリア」「郵便受けから新聞を持ってこれたらクリア」というようにやっていくのです。

ウェストラによれば、治療のコツはとにかく最初はものすごく小さなことをやらせて「おっ、これなら自分でもいけるんじゃないか」という期待を高めてあげることです。最初にちょっとでも症状が改善され、「やれる」という期待が高まると、その後の治療効果も目覚ましいのだそうです。

最初は、簡単にできることからスタートしましょう。

「なんだよ、そんなもの」と笑ってしまうくらいにたやすいことから始めるのです。そこで見事にクリアして良い気分になれば、自分の行動に勢いがついて、どんどん難しいことにもチャレンジしてやろうという意欲が生まれます。

ポイント
はじめてチャレンジするものは簡単なものから始める
「やれる」という期待が高まると行動習慣がつくれる

満足できるところでOKとする

どんな仕事でも完ぺきにやろうとしないほうがいいでしょう。

なぜかというと、100点満点でなければならないとすると、プレッシャーを感じていつまでもスタートできなくなる可能性があるからです。

「まあ、80点……いや、60点でもいいか」と気楽に考えれば、行動するのも苦になりません。

60点を合格点とすれば、何も怖くなくなります。

「100点を取らなければならない」と思うから、いつまでもグズグズしてしまうのであって、行動できないのです。もっと合格点を低くしてしまえば、不安も何もなく、今すぐにでも取りかかれるでしょう。

クライアントに企画書を持ってくるように言われたとき、100点満点の非の打ちどころのない企画書を作成しようとすると、いつまで経っても終わりません。100点満点の企画書など、そもそもできるわけがないのです。ほどほどのところで手を打つようにしたほうがスピーディーに作成でき、すぐにクライアントに提出することができます。クライアントからしても、さっさと持ってきてもらったほうがありがたいものです。

アメリカのメリーランド州にあるカトーバ大学のシェイラ・ブラウンロウは、96人の大学生に完ぺき主義を測定するテストを受けてもらい、完ぺき主義な人ほど、いつまでもグズグズして学業に取り組まないことを明らかにしています。

完ぺき主義なほうが良いこともありますが、悪いこともあるのです。

ちょっとだけいいかげんなところがあってもいいのです。それが人間です。

神さまではないのですから、100点満点など現実にはそんなに取れるものでもありませんので、ほどほどのところで切り上げるようにするのです。

100満点の商品を開発しようなどと思うと、いつまでも終わりません。60点、70点くらいのところで「良し」として、さっさと発売してみることです。商品が売れるかどうかなど、テスト販売をしてみなければわかりません。販売してから、悪いところがあれば改良していけばいいのです。

どんなお客さんにも喜ばれる100点満点の商品を開発しようとすると、いつまでもマーケティング調査を続けるばかりで埒らちが明きません。

「見切り発車」という言葉は、どちらかというとネガティブな意味合いで使われることが多いのですが、準備を完ぺきにやろうとするのではなく、見切り発車をしたほうが良いことも現実にはたくさんあることを知っておきましょう。

ポイント
どんな仕事でも100点を目指さない
合格点を低くしておくとすぐに行動できる
「なまけもの」のやる気スイッチ
内藤 誼人
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。
社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。
趣味は釣りとガーデニング。
著書に、『世界最先端の研究が教える新事実心理学BEST100』『世界最先端の研究が教えるすごい心理学』『世界最先端の研究が教えるもっとすごい心理学』(以上、総合法令出版)など多数。
その数は200冊を超える。

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