本記事は、内藤誼人氏の著書『「なまけもの」のやる気スイッチ』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

職場環境
(画像=Curioso.Photography / stock.adobe.com)

「環境」で人の行動は影響を受ける

どんなに潜在的なやる気が高い人でも、どんな環境に置かれているかによって、その行動は変わってきます。環境が悪いと、どんなにやる気を持っていても、そのうちにやる気をなくします。環境はとても大事なのです。

アメリカにあるヒューストン大学のウェイファ・ファンは、全米のいろいろな高校で1万4,639人の生徒を対象とした調査を行いました。

その結果、学校の雰囲気がとても悪いと、具体的にいうと、「不良の生徒が授業を妨害する」「学校に不良グループがいる」「学校内でケンカがしばしば起きる」という学校では、生徒のやる気が落ちて、国語と数学の成績がとても悪くなることがわかりました。

本人にやる気があっても、雰囲気が悪いとどうにもなりません。

だいたい新卒で会社に入ってくる社員は、だれでも夢や希望を持っているものです。

ところが、入社した職場で、みんながダラダラと働いているとか、私語ばかりで仕事をしないとか、会社の経費で飲み食いするような悪いことをしていると、そのうちに新入社員もやる気を失います。

「朱に交われば赤くなる」という言葉がありますが、私たちは周囲の人に染まっていきます。

やる気のない人たちばかりに囲まれていて、自分1人が身を粉にして働く、ということはあまり考えられません。最初のうちはそうしていても、そのうちバカバカしくなって、新入社員も周囲の人と同じくらいの作業量でしか働かなくなるでしょう。

では、もし読者のみなさんが会社の経営者で、社員がみなダラダラしているのなら、どうすればよいのでしょうか。

今いる社員を全員クビにして、新しい社員とごっそり総入れ替えをしなければならないのでしょうか。

たしかにそういうことをすれば職場の雰囲気を一新できるのかもしれませんが、なかなかそういうわけにはいかないと思います。

そこでどうすればいいのかというと、先ほど述べたように「自主性」を持たせるようにするのです。

社員に仕事をおまかせしたほうが、社員はやる気を出します。

トヨタの社員は頑張り屋さんが多いことで有名ですが、生まれつき頑張り屋さんばかりを採用しているわけではなく、従業員に自主性を持たせるようなシステムで仕事をしているのです。全員が参加できるような仕組みが整っているので、やる気が出るのです。

職場の雰囲気を変えたいのなら、自主性を持たせることです。そうすれば、少しずつでも雰囲気は良くなっていくでしょう。

ポイント
どんな環境に置かれるかによって行動が変わる
やる気を出させるなら自主性を持たせることが大事

監視されるとやる気はなくなる

テクノロジーの進歩によって、パソコンを使えば、だれが、どれくらい仕事をしているのか、仕事をサボってネットサーフィンをしていないかなどが簡単にわかってしまうようになりました。上司としては、わざわざずっと自分の目で監視していなくてもすみますから、こういう進歩は大歓迎かもしれません。

けれども、監視される部下からすると、まったく逆です。いつも監視されていると思うと気は抜けませんし、仕事をするのもイヤになります。

かつての会社では、上司が出張や外回りでオフィスを離れると、ここぞとばかりに手を抜いたものでした。「やったぁ、今日はのびのびと仕事ができる!」とお互いにハイタッチして小躍りするのが一般的でした。「鬼の居ぬ間に何とやら」というやつです。

けれども、テクノロジーの進歩によって、なかなかそういうわけにはいかなくなりました。テクノロジーの進歩は便利さをもたらしてくれる一方で、厄介な問題ももたらすようになったのです。

カナダにあるアルバータ大学のマイケル・エンズルは、レゴブロックで作った家や建設用クレーンの見本を見せ、同じものをブロックで組み立てさせるという実験をしてみたことがあります。

ただし、実験の条件は2つありました。ひとつは監視用カメラで自分の作業を監視される条件。もうひとつは監視用カメラがあるものの、電源が切ってあるので監視されないというものです。

作業が一段落したところで、実験の参加者には自由時間が与えられました。この時間に、レゴブロックで遊ぶかどうかをこっそり観察したのです。もしレゴブロックが面白いと感じたら、自由時間にたくさん遊ぶはずです。

調べてみると、監視されていた条件では、自由時間にあまり遊びませんでした。監視されていると、レゴブロック作りがつまらなくなってしまったのです。

監視されると、私たちはやる気を失うのです。

というわけなので、もし読者のみなさんが上司であるなら、なるべく監視はしないようにしましょう。そのほうが部下も仕事がしやすいはずです。

「一応、会社からは監視モニターで勤務態度を調べろって言われているんだけど、めんどくさいから、私はやらないことにする。キミの好きなように仕事をしてくれればいいから」と言ってあげれば、部下はやる気を出してくれるのではないでしょうか。

ずいぶん昔の話になるので若い人は知らないと思いますが、かつては「ニコポン管理法」という部下管理法がありました。管理法という名前はついていますが、実際には管理などしません。上司は部下にすべてをそっくりおまかせして、たまに「ニコッ」と微笑んで、「ポン」と部下の肩を叩いてあげればそれでいい、というものです。管理しないほうがやる気が出るという心理学の研究からすれば、この方法は正しいのかもしれません。

ポイント
監視をすると人はやる気をなくしてしまう
監視や管理をしないほうがやる気が出る
「なまけもの」のやる気スイッチ
内藤 誼人
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。
社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。
趣味は釣りとガーデニング。
著書に、『世界最先端の研究が教える新事実心理学BEST100』『世界最先端の研究が教えるすごい心理学』『世界最先端の研究が教えるもっとすごい心理学』(以上、総合法令出版)など多数。
その数は200冊を超える。

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