この記事は2024年3月13日に「第一生命経済研究所」で公開された「期限が近づく電気・ガス・ガソリン支援の終了」を一部編集し、転載したものです。


ガソリン,給油
(画像=denebola_h / stock.adobe.com)

目次

  1. 期限が近づく緊急避難措置
  2. ガソリン価格の支援
  3. 電気代・ガス代の支援
  4. 課題は何か?
  5. 物価上昇圧力と弱者保護

期限が近づく緊急避難措置

政府が価格支援を終わらせる期日が近づいている。ガソリン・灯油など4油種の支援は4月末で終わる予定だ。電気代・都市ガス代も、6月で完全に終了する予定である。では、これまで何度も延長を繰り返してきた価格補助は、この春に本当に終了するのであろうか。観測報道では、ガソリン補助の再延長という記事も見かける。筆者は、政府が約束通りに価格支援を止めるべきだと考える。

すでに経済活動は、2023年5月から正常化に舵を切っている。物価対策は何度も延長されて、次々に家計支援は繰り返されてきたが、春闘では高い賃上げ率が見込まれていて、政府は好循環の課程に入ると説明している。日銀は、マイナス金利解除を決める準備をしている。政府も、ゼロゼロ融資の返済開始に併せた信用保証の低利融資も、6月までで終わらせることにしている。経済再開から約1年が経って、様々な緊急避難措置を終了するのは、政府が政策運営の正常化が進もうとしているからだろう。これは、同時に特別な財政支援の終了でもある。

ガソリン価格の支援

ガソリン、軽油、灯油、重油の4油種に対しては、価格の上限を決めて、政府が補助金で価格支援を行っている。ガソリンの場合、1リットル185円以上の価格部分には100%補助金で抑制し、168円以上はその60%を補助している。例えば、3月11日の週であれば、補助がない場合は196.5円のところを、▲21.9円抑制して174.5円にしている。この支援方式は2023年9月から始まり、2024年4月末まで継続される計画である。2023年9・10月頃は実勢が200~210円だったので、最近は▲5~▲8%ほど下がっていることになる。

現在、この支援を打ち切ると、約13%ほどガソリン価格は値上がりすることになる(図表1)。過去のガソリン価格の推移からみれば、そのインパクトは大きいが、消費者・事業者はそれを甘受する必要がある。この制度は開始されたのは2022年1月からであり、2年以上も激変緩和が継続されてきた。時間的な猶予は与えられていたことになる。当初は、欧米でもガソリンの価格支援が行われてきたが、それらもすでに失効している。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

電気代・ガス代の支援

電気代の支援は、2023年9月から1kwh当たり3.5円の補助になっている(それ以前の2023年1月からは7.0円)。よく使用されるのは、4人のモデル世帯では月400kwhの使用料で、軽減額が▲1,400円/月になるという計算である。400kwhの料金が14,000円とすれば、▲1割の割引に相当する。

期限通りの措置であれば、2024年5月にその支援が1kwh当たり1.8円(支払いは6月)になり、6月検針分から支援がなくなる。電気ガスの推移をみると、料金のピークは、2023年1月だった。もしも、価格補助を完全に止めたとしても、そのピークよりは料金は低い水準に止まりそうだ(図表2)。一部の電力会社は、原発稼働を予定しているから、燃料価格の高騰が従来よりも効きにくくなる。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

また、日銀のマイナス金利解除で、為替円高が進むことになれば、それも2024年の輸入コストの低下につながる可能性もある。

課題は何か?

従来のエネルギー支援は、脱炭素化に完全に逆行していた。だから、筆者は価格補助があったとしても、時限的なものに止めることが合理的だと考えてきた。

脱炭素化を念頭に置くと、政府と電力会社は期限内に原発再稼働を進める必要があったと考えられる。2024年には、予定通りであれば、全国3か所で原発稼働が進む可能性がある。

課題は、単にCO2排出量の削減だけではなく、化石燃料産業の構造転換にもあるだろう。石油元売り会社は、すでに多種多様な新エネルギー事業を始めていて、石油依存からの脱却を目指している。望ましいのは、従来の価格支援に投じてきた資金の一部を、化石燃料産業の事業転換の支援に投じることだろう。

石油元売り以外に、ガソリンスタンドの経営問題もある。全国のガソリンスタンドは、従来からガソリン消費量が低下していることを受けて、事業多角化を薦めている。事業再構築補助金を使って、外食事業、自動車整備、再生エネルギーなどを手がけて、給油需要の減少に備えている。そうした活動を後押しする方が本質的であろう。常々、脱炭素化に伴って、化石燃料産業の衰退から、そこで不稼働資産=座礁資産が生じることが指摘されてきた。世界中でその規模は巨大になるという試算もあった。脱炭素化に逆行するエネルギー補助を長く続けることは、必要とされる事業転換を遅らせて、座礁資産処理の傷口を広げることになりかねない。

物価上昇圧力と弱者保護

もう1つの論点は、電気ガス代などの支援をなくして、経済的弱者保護の観点から問題があるという指摘だ。ガソリン消費を優遇することは、必ずしも弱者保護ではないという見方が強い。ガソリン消費の割合は、中高所者ほど高い傾向があるからだ。灯油・電気代の方は、高齢者の消費量が多いので、弱者保護につながる面はある。

しかし、政府は別に所得減税を6月に予定しており、住民税非課税世帯への7万円の給付は2024年1月までにおおむね完了している。従って、弱者対策は実施済みという理解ができる。2024年度は、公的年金給付額の改定が、前年比2.7%で上積みされる見通しだ。物価上昇の手当ての中に、補助が含まれている部分はある。

給与所得者には、賃上げの恩恵を広げ、高齢者(住民税非課税世帯の多く)には所得再分配を進めるというかたちで、負担増の軽減はすでに手当てされている。

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生(