この記事は2024年10月10日に「第一生命経済研究所」で公開された「食料品高騰でも値上げ幅が小さい品目」を一部編集し、転載したものです。


消費動向は視界不良、マイナス金利解除は早くても来年後半か
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目次

  1. エンゲル係数は約30%
  2. 魚・肉・野菜の買い得品
  3. 飲料にはお買い得感
  4. 値上げの常態化

エンゲル係数は約30%

私たちは、食料品の値上がりに2年以上も悩まされている。最近のエンゲル係数は、29.9%(2023年9月~2024年8月の平均、総務省「家計調査」<2人以上世帯>)と、1978年以来の高水準である。家計にとって、食料品高騰は非常に頭の痛い問題になっている。最近の食料品の価格上昇は、常に消費者物価全体を上回って推移している(図表1)。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

以前は、値上がりしない食品・食材がいくつかあった。しかし、最近は値上がりの範囲が広がって、そうなっていない品目はほとんど見つけられなくなっている。本当に「逃げ場のない値上がり」の状況である。本稿では、値上がりから逃げられないとしても、何の品目を選べば、相対的に値上がりの幅を小さく抑えられるのかを調べてみた。

まず、消費者物価指数を基に、データは2000年1~3月(コロナ前)の物価指数の平均値をベンチマークにして、2024年8月の指数がどれくらい上昇したのかという変化率を調べた。主食である米、パン、麺類などでは、平均してコロナ前から20%前後の上昇率であった。例えば、米類は21.3%、パンは20.5%、麺類は20.6%の上昇率である。例外的に上昇率が小さいものを探すと、①そうめんの7.5%、②もちの9.9%、③シリアルの14.0%の3つが挙げられる(図表2)。米、パン、うどん・ラーメンを食べる以外に、そうめん、もち、シリアルを食べる頻度を増やすことで、主食の値上がり難を緩和することができる。

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魚・肉・野菜の買い得品

次に、同様のことを、生鮮食品である魚・肉・野菜でも行ってみた。魚介類は、コロナ前に比べて、平均して25.3%も値上がりしていた。これは、肉類の17.7%、野菜・海藻の21.3%、果実の21.1%よりも値上がり幅がより大きい(前掲図表2)。魚介類は、漁船の燃料費や養殖魚のエサ代などの高騰の影響を受けやすいから値上がりしているのだろう。そうした中で相対的に値上がり幅が小さいのは、エビの8.3%であった。ほかは軒並み上がっていて、割安の魚介類は見当たらなかった。

肉類では、どうだろうか。こちらも国産牛肉の9.7%が相対的に低い。しかし、国産牛肉はもともとの値段が高いので、輸入牛肉に比べて国産牛肉が割安だとは言いにくい。強いて言えば、鶏肉がコロナ前に比べて10.9%と牛肉・豚肉よりも伸びが低い。肉類で値上がりを避けるには、鶏肉を選択する方法があると言えそうだ。

野菜・海藻では、アスパラガスの4.8%が上昇幅が小さい。生鮮野菜は、価格の季節変動が大きいので、8月時点の価格が低くなっていても、それはたまたまの変化である可能性が高い。全体の傾向では、野菜の中で総じてきのこ類にお得感がある。しめじは▲1.0%、生しいたけは7.5%、えのきたけは7.8%、干しいたけは6.0%となっている。秋の味覚のきのこ類が割安なのは朗報である。

飲料にはお買い得感

ほかの種類をみてみると、油脂・調味料は18.2%、お菓子は26.4%、調理食品は18.0%、飲料は13.5%、一般外食は14.0%となっている(図表3)。この中で、飲料にはお買い得の品目が多かった。例えば、茶飲料は▲6.5%、ビールは▲5.7%、乳酸菌飲料は0%である。この乳酸菌飲料は、ずっと価格変動がなかった点で驚きである。

一般外食では、パスタ(外食)が9.4%、ビール(外食)が10.2%、コーヒー(外食)が10.9%と値上げ幅が低かった。ここでも飲料に関係する外食にはお得感があった。この一般外食の場合、コストの中に店員などの人件費の占める割合が高いので、値上がり率の高い食材コストの影響が相対的に薄まっていると考えられる。

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値上げの常態化

最近の物価上昇は、単に原材料高を受けたものではなくなっている。エネルギーコストや人件費の上昇に押されて、たとえ原材料高のペースが鈍化しても、価格引き上げが続くようになっている。この現象は、食料品に限らず、製品全体に言えることだ。

中小企業庁が価格転嫁の状況を調べたアンケートでは、費用の内訳でみてどのくらいの価格転嫁率なのかを数値化している(データは食料品以外も含む全般の価格転嫁率)。そこでは、2023年3月→2023年9月→2024年3月にかけての変化が、次のように推移している。

(1)原材料の価格転嫁率 48.2%→45.4%→47.4%

(2)エネルギーコストの価格転嫁率 35.0%→33.6%→40.4%

(3)人件費(労務費)の価格転嫁率 37.4%→36.7%→40.0%

ここからわかるのは、最近はエネルギーコストと人件費のコストを転嫁する動きが進んでいることだ。この変化は、食料品の値上げがほとんどの品目に及ぶようになった背景とも重なる。注意したいのは、エネルギーコストと人件費のコストがともにまだ、価格転嫁率が低い点だ。今後も、これらの価格転嫁は継続していきそうだ。ここからは、値上げが常態化しつつあることを感じさせるものだ。

最後に、私たちはどのように食料品高騰に対処していけばよいのだろうか。食料品の中で節約ができないのならば、それ以外の支出を切り詰めるしかないということになる。

敢えて、食料費の中だけでのやりくりを考えると、次のような対処法も考えられる。

(1)自分で冷凍食品をつくる。生鮮食品は、価格変動が大きいので、どこかのタイミングで割安な時期が到来する。そこで購入したものを冷凍して取り置きする。これは生鮮食品でも可能である。例えば、主食のところで相対的に割安だと指摘したもちは、冷凍しておいて、朝食などに用いることができる。これも1つの節約術になる。

(2)ご飯を中心の食事。米の値段だけをみれば、先のデータでも20.5%と高騰している。しかし、つぶさに調べると、炊いたご飯と一緒に食べるお総菜には、値上がり幅の小さいものが多くある。梅干し(4.3%)、キムチ(5.2%)、納豆(6.0%)である。一頃よりも高くなったとはいえ、和の食材は相対的に輸入割合が低いので、食費を抑えられる。

(3)探索範囲を広げる。食料品の価格が店舗によって異なることは結構多い。時々、いつもの店舗以外の場所で購入する習慣をつけると、店舗ごとの価格差に敏感になれる。安いものを選ぶためには、自分の価格センスを磨くという点にも注意を払っておく方がよい。センスが磨かれると、ちらっと値札を見ただけで、「この商品は安い」と気付くことができる。

これらの3つの方法は、節約アドバイザーなどがよく指摘しているものでもある。参考までを掲示してみた。

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生