本記事は、ローラ・メイ・マーティン氏の著書『Google流 生産性がみるみる上がる 「働く時間」の使い方』(ハーパーコリンズ・ジャパン)の中から一部を抜粋・編集しています。
ルーチンでストレスを軽減する
生産性向上ワークショップの主催、エグゼクティブ向けのコーチング、そして親としての経験から学んだことがひとつあるとすれば、それは人は決まった動作 ―― ルーチンを好むということだ。年間の祝日の伝統、毎月の映画鑑賞会の夜、週に一度必ず食べる気に入りのメニュー、就寝前の儀式など、日々の暮らしにリズムを生み出すルーチンを、私たちは日々活用している。
2006年のデューク大学の研究によると、毎日の行動のおよそ45%は習慣からなる。最近、習慣(無意識でおこなう行動)を身につける方法や習慣をやめる方法に注目が集まっているが、習慣よりもルーチン(次の行動が自然と引き起こされる流れ)をつくることに着目したい。
習慣には動機が必要だが、ルーチンはある意図のもとで自然に流れていくものだ。
週のはじめに「今週も毎晩、食事の仕度をしなければならない」と思うと、気が重くなる。だが、「肉なしの月曜、パスタの火曜、スープの水曜、新レシピの木曜、テイクアウトの金曜」のように曜日ごとのテーマを決めておけば、食事の仕度が気楽に感じられる。すべきアクションの範囲が狭まり、献立を考えるための土台ができているからだ。
もちろん絶対的な強制ではないので、「パスタの日」にラーメンをつくってもいいし、臨機応変にメニューは変えられる。このやり方にずっとこだわる必要はない。水曜日に料理をしたくなければテイクアウトを買ってもいいし、とくに忙しい週には木曜日に新しいレシピに挑戦する気力がないかもしれない。それでも、繰り返し言っているように、こうしたスケジュールをある程度実践することで、毎日の夕食づくりが楽になるはずだ。
これらのタイプのルーチンが仕事やプライベートにどのような好影響をもたらすか考えてみよう。日々のテーマを設けたり、週ごとの流れや日ごとの流れをスケジュールにつくり出したりしたら、仕事やプライベートはどんなふうに動いていくだろうか。また、ピアノの練習など、スケジュールに追加したいことが生じた場合には、どうにかして時間をねじ込もうとするのではなく、簡単に実行できるようなルーチンをつくるといい。
ルーチン化するためのコツ
- 生産性の最大の障害は、実際にいつそれをおこなうかが不明のまま、ToDoリストに何かを追加することだ。
前項で紹介したタイプのルーチンを「
私は20年間ピアノを弾いていて、新しい曲に挑戦したいという目標があった。プロのレッスンを申し込めば、通わなければならず、続けなければならないので、習得への流れがある程度できただろう。だがプロのレッスンを10年以上受けた経験のある私には新しい指導はとくに必要なく、自分で曲を練習することができる。必要なのは、時間とやる気を出すきっかけだった。
多くの人にとって、「いつか」はけっして来ず、「本当はやりたいのだが」「ずっと気になってるんだけど」に薄まってしまう。壮大で野心的な目標、クリエイティブなプロジェクト、セルフケアは、「いつかやろうと思っている」カテゴリに滑り落ちていきがちだ。これらはとくに、「いつやるか」を明確にすることが重要であり、とりわけ、メイン・リストに長く残っている場合にはなおさら「いつ」がだいじになる。
新しいピアノ曲の練習のための「いつ」を考えると、私にとってのベストは夜だとわかった。
その時間帯は子どもたちは寝ていて、世話を焼く必要がない(ありがたいことに、うちのピアノにはヘッドフォンがついている)。次に、その「いつ」が来たことを思い出させる合図を見つける必要があった。そこで、毎晩子どもたちを寝かしつけ、最後に娘の部屋を出たとき(娘を寝かしつけるのがいちばん最後)に、そのままピアノに向かうことにした。習慣づけのハードルを下げるため、スイスチーズ法を取り入れた。最初の目標は、娘の部屋を出て、ピアノの椅子に座ることだけだった。
はじめはただピアノのまえに真っ直ぐ行き、知っている曲を1曲弾いて終わりにした。5分もかからないこともあった。それでも、ピアノに寄らずに1階に下りて掃除をしたり、テレビをつけたりすることは自分に許さなかった。すぐに習慣になった。自分のアシスタントになった気分で、「(その晩の)未来の自分」が新しい曲を練習しやすいように、朝のうちに新しい楽譜を用意しておいた。新しい楽譜を見ると、椅子に座って数小節でも弾いていようかなという気持ちになる。飽きてしまって早々に切り上げる夜もあったが、気がついたら1時間弾いていた夜もあった。私のルーチンを理解した夫は、ピアノが終わるまでは一緒にテレビを見たり、ボードゲームをしたりできないとわかっているから、子どもたちが寝たあとで自分の時間をもつようになった。娘の部屋からピアノへ、という新しいルーチンを組み込んだおかげで、ピアノは日課となり、毎日のリズムの一部となった。新しい曲を弾けるようになったのは、はじめから新しいルーチンを娘の寝る時間(確実に毎晩起こる習慣)につなげたからだ。
2009年にヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ソーシャル・サイコロジー誌に掲載された研究結果によると、新しい行動が自動化された習慣となるまでの平均日数は66日だそうだ。だが、明確な「いつ・どうする」ルーチンがあれば、ずっと早く習慣化できる可能性が高まる。
この場合には、毎晩、同じきっかけ(娘を寝かしつける)があったことが奏功した。
この「いつ・どうする」ルーチンは、どのような目標達成にも使える。「いつ」を曜日にして、たとえば「セルフケアの日曜日」を目指すのもいいだろう。自身へのプレッシャーを減らし、柔軟性をもたせるために、簡単なこと(日曜日には爪の手入れをするとか、長風呂に浸かるとか)から始めたり、もっと大きなこと(いずれは日曜日にスパの予約を入れる!)を目指したりできる。すでに知っていて好きな曲を弾くという小さなことから始め、最終的には新しい曲を習得した。最初から新しい曲だけを弾くように決めていたら、途中で挫折していたかもしれない。
ルーチンの「いつ」には、曜日だけでなく、特定の時間や行動、きっかけも当てはめることができる。私自身の「いつ・どうする」ルーチンをいくつか紹介する。参考になるものがあれば幸いだ。
█「いつ」チームの月次ミーティングのあと ―― 「どうする」その後30分を使って、現在取り組んでいることについてメモを残し、年次の業績自己評価のフォルダーに入れる(毎月の習慣にしたいと考えていたことだ)。
█「いつ」水曜日の夜 ―― 「どうする」CBSのリアリティ番組『サバイバー』を見ながら、爪の手入れをする。
█「いつ」毎晩歯を磨くとき ――「どうする」ビタミン剤を飲んだり、
█「いつ」ボスに週報を送るとき ―― 「どうする」その週の情報に見落としがないか、メールの「あとで確認」フォルダーもさっとチェックする。
█「いつ」自分の誕生日ウィーク ―― 「どうする」眼科検診や健康診断など、年に1回受けるべき診察の予約を入れる。
ルーチンがあるということは、何かをする時間と場所が決まっているので、タイミングが来るまでは、それを頭から追い出し、忘れていることができる。庭のカウチのクッションをそのうち洗わなくちゃ、とずっと気にしながら生活するのはつらい。けれども、半年ごとに洗うと決めておけば、ふだんの日はそのことを考えなくていいので、使うエネルギーポイントが最小限で済む。私にはこのシステムがうまくいっていると思う。前回の眼科検診に行ったのはいつだったっけ、と悩まないのは、誕生日の週と決めているから。こうしたリズムとルーチンは定着しやすく、人生を気楽で晴れやかなものにしてくれる。