この記事は2024年12月6日に「第一生命経済研究所」で公開された「業況悪化に転ずる」を一部編集し、転載したものです。


業績,悪化
(画像=Nikomiso / stock.adobe.com)

目次

  1. 製造業の悪化
  2. 堅調に伸びていく設備投資
  3. ここ数ヶ月の内外政治混乱
  4. 12月利上げの慎重材料

製造業の悪化

12月13日に発表される日銀短観12月調査では、大企業・製造業の業況判断DIが前回比▲3ポイントの悪化になると予測する(9月実績13→12月予測10、図表1)。すでに、「法人企業統計」の2024年7-9月期の製造業の経常利益は前年比▲15.1%と悪化している。特に、輸送機械、一般機械、鉄鋼の収益マイナスが目立つ。欧米向け輸出も伸び悩んでいる。輸出数量の伸び悩みが、景況感を悪化させる格好だ。日銀短観と連動性が高い月次のロイター短観・製造業でも、2024年7月の業況判断がピークになって、じりじりと悪化している(図表2)。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)
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また、先行きの見方も、トランプ関税の警戒感が強まって、現状よりも悪化するという見方に変わっていくだろう。メキシコ、カナダ、中国に対する関税率の引き上げは、間接的に現地法人を有する日本企業の業績悪化に跳ね返ってくる。トランプ関税は日本にも有害なのだ。

また、大企業・非製造業については、業況判断DIの横ばいを見込んでいる(9月実績34→12月予測34)。6・7月は定額減税やボーナス増加で一時的に消費が伸びたが、それ以降は少し伸び悩んでいる。一頃は、インバウンド消費で伸びていた宿泊需要も、夏場以降は少し落ちているようだ。個人消費は、引き続き物価上昇の重みで増加ペースが抑え込まれている。

堅調に伸びていく設備投資

現在、日本経済の伸び代は、国内設備投資にある。特に、日銀短観の設備投資計画は、その強さを象徴するデータとして知られている。12月調査でも、引き続き強い数字で推移するだろう(図表3)。

第一生命経済研究所
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製造業は、大企業の2024年度計画予想が前年比17.5%と2割近い伸びを示すであろう。中小企業の2024年度計画も前年比14.8%の高い伸びを予想する。また、非製造業も堅調な伸び率の見通しである。基本的に、設備投資ブームはまだ継続するという見方である。

現在の設備投資ブームを支えるのは企業収益であるから、その収益が伸び悩めば、設備投資にも悪影響を与えかねない。今のところは、企業の中長期的な事業基盤を強化する意味合いもあって、デジタル投資や省力化投資が強い。

ここ数ヶ月の内外政治混乱

通常の経済分析では、政治動向は無視されやすい。しかし、ここ数ヶ月に起こった政治情勢の変化は著しい。岸田前首相が8月14日に不出馬を表明し、9月28日に自民党総裁選挙が行われた。石破首相で戦った衆院選は与党が過半数を割って、国民民主党がキャスティングボードを握った。誰がこうした展開を事前に予想できたであろうか。「103万円の壁」問題にしても、9月末時点でこれほど議論されるとは誰一人思っていなかっただろう。その議論は、「106万円(130万円)の壁」見直しにまで波及し、非正規労働者が新たに負担する社会保険料を労使折半ではなく、その大半を企業などに負担させるという議論になっている。こうした予想外の展開に、中小企業団体は反発している。

海外に目を転じると、11月の米大統領選でトランプ氏が次期大統領に就任することが決まった。最近は、トランプ関税に怯えている企業も数多くあるようだ。これほどまでの急激な不確実性の高まりは、近年でも稀ではなかろうか。企業の景況感は、収益状況次第というのがエコノミストの常識であるが、そうは言っても、内外政治情勢の混乱は、企業の景況感にも何がしかの悪影響を及ぼしているのではないかと筆者は直感している。

12月利上げの慎重材料

日銀は、目先の混乱をよそに、粛々と金利正常化を進めるつもりのようだ。12月20日の金融政策決定会合で追加利上げを決める公算は高い。経済物価のシナリオ通りであれば、金利水準を段階的に引き上げていくと考えられる。しかし、仮に、直前の短観の結果が業況悪化になれば、その判断は修正されるだろうか。中村審議委員はデータ次第と述べて、この短観にも注目するとしている。短観結果が思いのほか悪ければ、12月ではなく2025年1月の利上げに傾く可能性はゼロではない。短観が日銀の判断を慎重化させる可能性はある。その点、筆者はたとえ短観が多少悪くても、トランプ就任前に追加利上げをする可能性があるとみる。1月24日の会合のタイミングは、トランプ就任の1月20日の後になる。トランプ関税の全貌が明らかにされそうな手前を植田総裁は選ぶのではないだろうか。

第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生