本記事は、西剛志氏の著書『結局、どうしたら伝わるのか? 脳科学が導き出した本当に伝わるコツ』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

相手の認知を変えるちょっとしたテクニック
人間の認知は本当にあいまいです。
印象ひとつで認知は大きく変わってきます。これを「環境バイアス」といいます。
たとえば、こんなことが実証されています。
「軽いもの」より「重いもの」を持っているほうが、信頼感が上がる。
プレゼンテーションのときに、資料を紙だけで渡すか、もしくは紙だけでなくちょっと硬めの表紙をつけて渡すかで、その資料に対する信頼感が変わるのです。
おもしろいですよね。中身は一緒なのに、です。
世界的な科学雑誌「サイエンス」で発表された有名な論文があります。
就職面接の実験です。実験者が面接者の履歴書を重厚なクリップボードに挟んで用意します。そして「これからこういう人を面接します」と面接官に対して読み上げます。
すると面接官は、面接者が真剣に職を求めていると感じ、面接者に対するポジティブな印象が生まれたのです。
重いものを使うだけで、「軽く考えてないんだな」ということが伝わるのです。どんなものを使うかで、相手の認知が大きく変わるということです。

この認知を活用した方法は、仕事で活用できます。用意すればいいだけです。それだけで相手の認知が変わるなら、やったほうが得ですよね。
実は、私もこの認知法を活用しています。
私が講師をしている講座ではしっかりとしたファイルに入れてテキストを渡すことがあります。もちろん中身にも自信はあるのですが、受講してもらう人により価値の高い資料だと思ってほしいこともあり、この認知の特性を活用しています。
認定証や卒業証書などもペラペラな紙ではなく、しっかりしたホルダーに入れて渡されることが多いと思いますが、その理由も同じです。
重さだけではありません。柔らかさも認知に関係しています。
硬さや柔らかさなど、自分が感じた身体感覚がそのまま物事の印象として記憶されます。
たとえば、硬いブロックを触っている人と、柔らかい毛布を触っている人では、硬いブロックを触っている人のほうが、融通がきかない、頑固な人と思われやすくなります。話していることがまったく同じだったとしてもです。自分の持ち物によって、実は知らないところで相手に異なる印象を与えているのです。
金属製のアタッシュケースを持って商談に臨むと「頑固でお金のことを優先して考えている人」と思われる可能性があります。
一方で、柔らかい革製のカバンを持っている人は頭も柔らかい印象になりやすい。
もちろん話している内容がまったくそうでなければ、結局はばれてしまうのですが、とはいえ、道具は自分の印象をつくるうえでかなり役に立つツールです。
身体感覚が印象を支配しているのは服装でもわかります。スーツを着ているとしっかりした印象に、一方でクリエイターが意識的にラフな格好をしているのも、そういう印象を与えたいからでしょう。
おもしろいのは、同じ人がアイスコーヒーを持っているときとホットコーヒーを持っているときで印象が変わるということです。アイスコーヒーを持っているときのほうが冷たい人と感じます。
見えているものによって、その人の印象が操作されているのです。
だから、温かいイメージをつくりたいときは柔らかいソファに座って、温かいホットココアなどを飲みながら打ち合わせをすると、すごくいい打ち合わせができるんじゃないでしょうか。
以前、病院の内装をデザインしている人の話を聞いたことがあります。
病院はどうしても冷たい印象になりやすい場所なので、内装のベースは白にしても、真っ白だと冷たいので、少しオフホワイトにしたり、使う素材も柔らかい印象がする木製や布製のものを使うなど工夫しているそうです。
どういう印象をつくりたいかで、同じ白でも選び方を変えたほうがいいのです。

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