◉後継者の資質2 経営ビジョンを共有できる人物であること


次に、経営に対するビジョン・理念が現在の経営者様と共有できる人物であることが重要です。これは先に述べました、経営意欲の面と共通する問題とも言えますが、現在の経営者様の経営理念と共感できない人物では、企業の事業承継をすることは不可能と言えます。単に「ヒト・モノ・カネ」といった資産を譲渡するだけとなってしまいます。
事業承継には、現経営者様、あるいはさらに先代の経営者様が培った企業風土や文化を承継させて、従来の従業員が働きやすく、従来と変わらない(あるいは従来のものを超える)サービスや商品を提供することにも大きな意義があります。

そのため、後継者候補は現経営者とビジョン・経営理念を共有することができて、現在の企業風土を引き継ぐことができる人物であることが重要です。
ただ、これは、現在の経営者様の意のままになる人物を選ぶということではありません。経営者様が持つ経営に対するビジョン・理念を議論しながら、「良いものは受け継ぎ、変えるべきものは変える」という意識が重要ということです。そのため、場合によっては現経営者様の経営理念の方が変化させられることもあるかもしれませんが、最終的に、企業風土や文化も含めて受け継いでくれる人物を選定することが重要です。

このためには、後継者候補と考える人物数名と定期的に食事会や勉強会などを開催し、忌憚なくお互いの経営理念を話し合う機会を中・長期的に持つなどの方法により、深いコミュニケーションを取り続けることが重要となります。


◉後継者の資質3 OJT・現場の人員への適切な配慮ができること


最後に最も重要と言えるのが現場に対する配慮を持つ人物であることです。会社経営は現場で働く「ヒト」により実現されます。どのような経営理念を持っていてもそれを実現するのは現場です。そのため、後継者は実際に現場を好きであり、現場で働く人員に対する配慮ができることが重要です。現場を知らない、あるいは現場を重視しない経営者では、役員や従業員から信頼が得られず、事業は衰退します。

企業の事業承継を考えた時点では、必ずしも現場を知っている必要はありません。長期的な後継者教育の中で、現場を経験させることで現場を知ることはできます。ただ、現場やそこで働く人員への配慮が自然に出てくる人物が企業の事業承継においては後継者にふさわしい適性であるといえます。


◉まとめ


はじめに述べましたように企業の事業承継における後継者の適性として、正しい唯一の答えは、おそらく存在しないでしょう。しかし、これからの時代に適応する良い企業として存続していくためには、上記の3つのポイントは最大公約数として重視されるべきポイントと言えると思います。

また、現時点では適性が十分ではないとしても、長い教育の中で適性を訓練することは十分に可能です。十分な時間をかけて後継者として鍛えていくこともひとつの方法かもしれません。

【参考 オーナー企業のための事業承継】

vol.1「事業承継の必要性と円滑化のための法制度とは?」
vol.2「後継者選びのポイントとは?」
vol.3「後継者選びのポイントは?その2」
vol.4「建設業界に学ぶ許認可事業の事業承継って?」
vol.5「会社の現状を把握するポイントとは?」
vol.6「企業の事業承継の際の法律上の問題点とは?
vol.7「家族の絆を守る後継者以外への配慮とは?」

BY S.K(行政書士)

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