きわめて高い高齢者自身の就労意欲

マクロ的にみて高齢労働力が重要だとしても、その高齢者自身は働き続けることをどう考え、どう行動するのか。アベノミクスの発動から2年、円安、株高、賃上げなどの動きを評価する巷の声は無視できないものの、一方で、恩恵を受けているのは大企業社員や、株・土地を動かせる資産家だけで、年金生活者にとっては、給付の抑制や消費税引き上げなど生活への圧迫だけがしわ寄せされているといった不満が聞こえてきてもおかしくはない。

「生涯現役労働時代」の掛け声は、そんな高齢者層に「まだまだ働け」という「鞭の音」ととられることはないのだろうか?

幸いなことに答えは「No」だろう。現在のわが国高齢層にとっても、「生涯現役」は大いに歓迎すべき方向ととらえられそうだからだ。

高齢者自身の就労意欲が非常に高いことは国際的にみても際立った日本の特徴だ。60 代前半の男性を見ると、日本ではまだ7割以上の人が就労意思を示しているのに対し、先進国の中で日本に次いで高いとされるアメリカ・イギリスでも、50%台前半。ヨーロッパ大陸ではぐっと下がり、ドイツが約3割、フランスは2割を切っている。

日本の高齢者の暮らし向きも、平均的には恵まれたものに見える。平成26年版高齢社会白書によれば、高齢者世帯(60歳以上)の、世帯人員一人当たりの年間所得(2011年)は195万円と全世帯平均(208万円)に比べ遜色のない水準だ。

高齢者世帯の所得構成をみると「公的年金・恩給」が約7割、「稼働所得」が約2割、次いで「財産所得」が約6 %を占めている。暮らし向きについて『心配ない』と感じている人の割合は71.0%にも及ぶ。

不就業者のなかで就業を希望している人の割合は、60~64歳層で3割以上、65~69歳層でも2割以上。働きたい理由の第1位は「生活費を得たいから」だが、上記のような所得の現状を見れば、経済的な切迫感よりむしろ、「生きがい」や「社会への貢献」が隠れた真の理由ではないだろうか。


「生涯現役社会」の意味と課題

マクロ(政府・社会)、ミクロ(個人、生活者)いずれの面からも、「生涯現役社会」が十分現実的な目標たりうることが見えてきた。敢えて付言すれば、こうした「日本型高齢社会モデル」は先進諸国を筆頭に高齢化の進行が避けられない国々に対し、誇りを持って提示しうるもう一つの「クール・ジャパン」なのかもしれない 。ただし、「生涯現役社会」という仏に魂を入れるための課題も少なくはない。

まず、65歳以上の就業者数(2014年で約700万人)を産業別にみると、「農業、林業」が101万人と最も多く、次いで「卸売業、小売業」が96万人と、伝統的な低生産性部門に集中している。

第2に、高齢期の雇用形態をみると、男性の場合、非正規職員・従業員の比率は 60歳を境に大幅に上昇している。これは、企業の雇用延長への努力の表れとみられない訳でもないが、大企業を中心に定年制へのこだわりが今なお色濃く残る日本社会の反映でもあろう。

第3に、高度な専門能力を長年にわたって蓄積してきた人たちがその能力をフリーランスとして、あるいはNPO、NGOといった非営利部門を通じて、他の企業に提供するといった働き方が今後大きな存在感を持ち始めると考えられるが、これをサポートするような枠組みは官民いずれの側にも未成熟と言わねばならない

こうした、現実の中で「生涯現役社会」に向けた環境整備を図るためには、単に雇用保険の適用範囲を広げるといった制度的手直しにとどまらず、政府(自治体を含む)、企業、金融界、投資家などあらゆるプレーヤーの「頭の切り替え」が不可欠と言うべきだろう。

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