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(写真=Thinkstock/Getty Images)

世界の課題解決型Health-Techとイノベーターの群像
第3回 アイルランドに見るグローバル目線のスタートアップモデル

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地域の社会課題と密接な関係があるヘルスケアでは、シリコンバレーを擁する米国でなくとも、イノベーションの主役となれる可能性がある。それを具体的に実現しようと、国家ぐるみで取り組んでいるのがアイルランドだ。


欧米を繋ぐITのハブからスタートアップ育成を目指す

アイルランドは、北海道とほぼ同じ国土面積に約460万人が住む国だ。12.5%と低い法人税率や25%の研究開発税額控除など、積極的な研究開発投資支援策や高等教育制度の整備などを積極的に行ってきた結果、Google、Yahoo!、Apple、eBay、Microsoft、Facebook、Amazon、Twitter、LinkedIn、TripAdvisor、Dropboxなど、北米の代表的なインターネットビジネス企業の欧州・海外事業統括拠点が集積するハブとなっている。

政府レベルでは、アイルランド科学財団や産業開発庁が研究開発促進のために様々な経済インセンティブ・プログラムを提供する一方、商務庁は、 イノベーション・パートナーシップ、イノベーション・フィージビリティ・スタディなど、アイルランド国内における起業支援活動を行っている。

欧州連合(EU)が2014年から2020年に向けて推進する研究イノベーション計画「ホライズン2020」においても、アイルランドは、ICT、モバイルヘルス、遠隔医療・介護などで中核的機能を担っており、EU内外の海外企業、さらにはスタートアップを支援するインキュベーターやアクセラレーターをも積極的に受け入れている。


米国よりもアイルランドを選択した『マルヴァオ』の事例

米国から大西洋を越え、アイルランドで起業したHealth-Techベンチャーの1つが、マルヴァオ・メディカル・デバイス(Marvao Medical Devices)だ。留置カテーテル皮膚挿入部からの微生物の侵入を抑えて血流感染を防止する専用医療機器「NextSite」の開発・販売を行うファブレス企業である。

同社CEOのクリス・デイヴィ氏は、米国ボストンのノースイースタン大学経営大学院(MBA)出身で、ボストン・サイエンティフィック・コーポレーションにて13年間、医療機器の開発業務に従事した後、父親の生地アイルランドに移住し、2006年に医療機器クラスターがあるゴールウェイ地域に会社を設立した。

会社の立ち上げに際しては、アイルランド政府商務庁の起業支援プログラムを活用して、メンター制度を導入したり、医療機器の承認申請に不可欠なアイルランド国内の専門医や臨床試験実施医療機関(ゴールウェイ大学病院など)の紹介を受けたり、医療機器受託製造企業とパートナー契約を締結するなどしている。


企業価値を支える法規制と資金調達のグローバル化対応

医療機器法制上「NextSite」は、米国では「クラス2」の管理医療機器に該当するのに対し、欧州では「クラス3」の高度管理医療機器に該当し、規制当局の承認が必要だった。マルヴァオ社は、ゴールウェイ・メイヨー工科大学イノベーション・ビジネスセンターやOEM製造受託企業のハーマック・メディカル・プロダクツと連携して、欧州委員会の基準適合マーク「CEマーキング」を取得している。

マルヴァオ社の主要株主には、エンタープライズ・エクイティ、ウェスタン・ディベロップメント・コミッション、アイルランド政府商務庁など、アイルランド国内のベンチャーキャピタルや公的機関が名を連ねている。加えて、2008年のリーマンショックでアイルランド経済が危機に直面した時は、欧州・北米双方の小口投資家からの資金調達によって切り抜けるなど、グローバル対応のノウハウも、企業価値を支える基盤になっている。


スタートアップ支援で企業価値を上げる欧米と地盤沈下する日本

2015年6月5日、スタンダード&プアーズは、アイルランドの長期ソブリン格付けを「A」から「A+」に引き上げた。欧米グローバル企業は、ベンチャーキャピタルとの連携、アイデア商品化のための起業家支援、オープンなプラットフォームとの技術提携など、アイルランド発ヘルスケアスタートアップとの関係性強化を積極的に進めている。

アイルランドには、武田薬品工業 <4502> やアステラス製薬 <4503> のほか、富士通 <6702> 、アルプス電気 <6770> 、NTTデータ <9613> 、三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> 、三井住友フィナンシャルグループ <8316> など、日本の大手上場企業がすでに進出しているが、現地でのプレゼンスはリーマンショック以降、停滞気味だ。身近なところにあるICTとビジネスのハブを有効活用しない手はない。

笹原英司(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身、千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B・B2C)および健康医療、介護福祉、ライフサイエンス業界のガバナンス・リスク管理関連調査研究・コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所などで、Health-Techスタートアップに対するメンタリング活動を行っている

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