(写真=PIXTA)
日本の雇用を見ると、90年代後半以降のデフレや不況に加え、働く場所や雇用形態のミスマッチで、失業率が高まってきた。
ただ2013年の金融緩和開始以降、企業の規模や地域を問わず人員が不足し、ミスマッチも解消が見えつつある等、雇用環境は改善に向かっている。少子化で労働力人口が伸び悩む中、デフレ脱却と景気回復、ミスマッチ解消で就業者を増やしていけるかがカギとなる。
地方中小企業の慢性的な人員不足
主要データの80、90、00、10各年代の平均値を取り、長期の流れを見てみよう。雇用人員判断DI(日銀短観)について、大企業はどの年代も人員過剰だが、中小企業は00年代を除き人員不足。
従業員判断DI(日本政策金融公庫調査、90年代以降)によると、三大都市圏の中小企業はすべて人員過剰。つまり、全国大企業と都市部中小企業は人手が余っているが、地方中小企業は人手不足で困っている状況だ。
新規求人倍率は1倍超だが、有効求人倍率、特に正社員は1倍未満。完全失業率は80、90年代が2~3%台と低かったが、増税後の98年以降上昇し00、10年代は4%台に悪化。
上記の人員不足を反映し、地方中小企業やパートの求人は多いが、人々は大企業・都市部や正社員の職を求めており、ミスマッチが続いて失業者が増えてきたといえよう。
雇用関連・現状判断DI(景気ウォッチャー調査、00年代以降)は50未満の不調で下落基調だったが、10年代は50を超えて反転。雇用環境の意識(消費動向調査)は、80年代以降50を下回りマイナスだったが、10年代はプラス転換。
つまり、雇用にまつわる人々のマインドは、上述の実態を反映して厳しかったが、ここ数年は改善しつつあるようだ。
このように、大多数である地方中小企業は慢性的な人手不足でパートの求人も多いが、多くの人々は大企業や都市部の正社員を目指し、ミスマッチが続いて雇用環境は改善されにくかった。
それでも近年の景気回復で失業者が減り、労働市場に関する人々のマインドも改善しつつある、というのが大きな流れだ。
消費増税の影響も軽微で雇用は改善傾向
次に足元の動きを見るために、主要データの13年以降の四半期平均を取ってみる。
雇用人員判断DIは13年Q3以降、従業員判断DIは14年Q1以降、人員不足感が強い状態が続く。消費増税の影響を受けた14年Q2と駆け込み需要反動減の15年Q1は一時的に悪化したが、人手不足に変わりはない。
つまり金融緩和開始以降、景気回復期待で人材確保需要が強まり、企業の規模や地域を問わず人員不足なのだ。
新規求人倍率は1倍台後半で、バブルの一時期に匹敵するほどだ。有効求人倍率も、長期的に1倍未満が多い中で1倍を超えておりよい水準にある。
そのため、就業者数が増えて失業者数が減り、完全失業率も3%台前半まで低下し、デフレ突入前の90年代後半のレベルに改善。少子化で労働力人口が伸び悩む中でも、景気回復で失業者が減りつつあり、いわば縮小均衡での改善である。
有効求人倍率はパートの方が高いが、正社員も伸びてはいる。就業者数も非正社員の増加率は低下し、足元では正社員の伸びも見えつつある。
労働市場の拡大過程では、まず雇用の総量が増え、その後非正社員から正社員へとシフトしていくのが通常であり、今はその転換期に入りつつあるのだろう。
雇用関連・現状判断DIも、足元では50を超えているが、増税以降マイナス時期も目立つ。その悪化が見られる点では雇用関連の意識も同じ。やはりマインドは実数と違い、増税の影響を受けやすいということだ。
長期的にはデフレと不況に加え、大企業・都市部や正社員への就職希望と地方中小企業や非正社員の求人増というミスマッチで、失業率が高まってきた。
ただ最近は金融緩和開始以降、全体的に人員不足感が強く、働く場所や雇用形態のミスマッチも解消に向かいつつある等、雇用は質量ともに改善してきている。
慢性的な人員不足とミスマッチの解消への期待
直近データを見ると、雇用のさらなる拡大につながる気配が見えている。雇用人員判断DIと従業員判断DIを見ても、全規模全地域で人手不足感が強いことに変わりはない。4月は求人倍率が新規・有効ともに伸び、そのため完全失業者数は減少。
各種マインドは若干低下しているが、ミスマッチが残るためであり、雇用自体が悪化しているわけではない。
失業率がかなりの低水準にあるため、雇用の総量がこれ以上大幅に増え続けるとは考えにくい。ただ増税の影響を脱して個人消費が戻れば、企業業績がより上向き、雇用の総量も緩やかに伸びる可能性はある。
その中で、人材確保のために雇用条件が引き上げられ、非正社員から正社員へのシフトも今より進むことも考えられる。このように、雇用が質量とも改善すれば、慢性的なミスマッチと人員不足の解消にもつながるだろうし、それが期待される。(ZUU online 編集部)
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