(写真=ホームページより)
世界の課題解決型Health-Techとイノベーターの群像
第4回 グローバルなクラウドソーシングで変わる遠隔医療
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2008年に米国シリコンバレーで創設された教育機関 シンギュラリティ・ユニバーシティ(SU)は、人工知能研究の世界的権威レイモンド・カーツワイル氏と有人宇宙飛行コンテストで知られるXプライズ財団のピーター・ディアマンディス氏が共同創設した超未来志向の大学であり、ヘルスケアスタートアップの人材供給源にもなっている。
世界的な医師不足に着目した遠隔医療サービス「Curely」
2015年7月7日、シンギュラリティ・ユニバーシティ卒業生が創設したキュアリー社が、世界的な医師不足に対応するモバイル遠隔医療アプリケーションサービス「Curely」を発表した。iOS、Androidそれぞれに対応したアプリケーションがダウンロード可能だ。
「Curely」は、離島・へき地といった対面診療が困難な地域や、医師不足が深刻な新興国市場を想定したもの。狭い帯域幅に対応したメッセージングプラットフォームを採用し、第3世代(3G)通信ネットワークが整備されていない環境でも利用できるようになっている。サービスの特徴を整理すると、下記の3点になる。
・国境を越えたクラウドソーシング:インターネット情報に頼って自己診断せざるを得ない消費者に対して、世界中の専門医師がオンラインで対応する。
・ダイナミックプライシング:クラウドソーシングに参加する医師が自分の空いている時間帯や料金を提示し、マーケットプレイスモデルで価格が決まる。
・オープンなコミュニケーション:やりとりの際には匿名性を維持し、消費者が率直な気持ちでコミュニケーションできるようにする。
キュアリー社のシードラウンドに関しては、ベンチャーキャピタルのエクスポネンシャルパートナーズが主導して200万米ドルを調達している。
シンギュラリティ卒業生の多国間・異業種間連携ネットワークが強み
キュアリー社を立ち上げたのは、医師のクリスチャン・アサド氏とポール・リー氏、メディア起業家のジョシュア・ホン氏を中心とするシンギュラリティ卒業生チームだ。
アサド氏は循環器専門医で、グーグルグラス(Google Glass)を利用した仮想現実(AR)技術の臨床医療研究(CPRGLASS)に関わり、シンギュラリティ・ユニバーシティのプログラムで教鞭をとった経験もある。科学と技術とポップカルチャーを組み合わせたシンプルなプラットフォームづくりが、彼の真骨頂だ。
リー氏は、英国オックスフォード大学で分子生物学を専攻し、韓国のカトリック大学校で医学を学び、公衆衛生実務を経てシンギュラリティ・ユニバーシティに進んだ経歴を持つ。キュアリー社以外に、獣医向けモバイルアプリケーションサービス「Kuddly」の共同創設者でもある。
ホン氏は、パデュー大学でインダストリアル・エンジニアリングを専攻し、シカゴ大学でMBAを取得した後、シンギュラリティ・ユニバーシティで学んでいる。アーサーアンダーセン社のコンサルティング業務、ドイツ銀行の投資銀行業務を経て、オンラインロールプレイングゲームのK2ネットワーク社(現リローディッドゲームス社)を立ち上げた経験を有するユニークな起業家だ。
日本発ヘルスケアスタートアップの鍵は「民」の役割
日本では、文部科学省や主要国公私立大学が中心となり、若い世代の「内向き志向」を克服した上で、国際的な産業競争力の向上し国と国の絆を強化する基盤として、グローバルな舞台に積極的に挑戦し活躍できる人材の育成を図っている。大学教育のグローバル化のため体制整備を推進する「スーパーグローバル大学等事業」を展開してきたのもその一環だ。
だが、伝統的な大学組織や教育カリキュラムの延長線上では、シンギュラリティ・ユニバーシティのように、多国間・異業種間連携ネットワーク構築の機会を継続的に提供することは難しい。まして、他学部との接点がもともと少ない医療系学部・研究科で学ぶ日本の学生や卒業生にとって、スタートアップに向けた人脈づくりは大きな課題となっている。
積極的な橋渡し役として「民」が動くことが、政府の掲げる健康・医療の成長戦略推進に不可欠だろう。
笹原英司(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身、千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B・B2C)および健康医療、介護福祉、ライフサイエンス業界のガバナンス・リスク管理関連調査研究・コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所などで、Health-Techスタートアップに対するメンタリング活動を行っている
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