■事業で多額の負債がある場合は

事業で多額の負債を抱えている場合は、そのままでは事業継承どころではありません。また、死亡した場合、遺族には多額の負債を残してしまうことになります。 そんな場合は民事再生手続きを経て、負債を整理してから事業継承を行う、という方法もあります。ただし、全ての場合に民事再生手続きが認められるとは限りません。その場合は、結果的に破産手続きに移行してしまいます。できるだけ「傷が浅い」うちに、手続きを申し立てることが必要です。


■「争続」を回避する準備も必要

上記に述べたように、事業継承は早期からの取り組みが必要です。また、相続財産をめぐって親族間で「争続」が起こらないように、対策を講じておきましょう。これを相続の「生前対策」と言います。

先ほど述べたような株式や不動産などの資産の処理を生前に進めておくとともに、「公正証書遺言」を作成しておくと間違いがありません。自筆の遺言書の体裁には様々な規定があって、折角書いた遺言書の効力が認められない場合もあるからです。その点、公正証書遺言は、作成の費用や手間がかかりますが、安心です。

もしも遺言書の作成に抵抗感があるのなら、まずは「エンディングノート」の作成をおすすめします。エンディングノートとは、万が一の時に備えて死後の際の自身の希望を書き留めておくノートで、書式は自由です。エンディングノートに法律的な効力はありませんが、財産分与の考え方について整理することができ、遺族に対して予め生前の思いを伝えることができます。そして、気持ちの整理がつけば、公正証書遺言を作成すればいいのです。

なお、平成27年には税法が改正され、相続税の課税対象の裾野が広がることも視野に置きながら、自身の相続財産を試算して、対策を講じておきましょう。


■事業の棚卸を、そして人生の棚卸を

人生における資産運用のありかたについて独自のシステムを構築し、提言する「日本マネーバランスFP協会」(http://www.jmbf.jp/kyoukainituite.html)の伊藤剛知会長は、「マネーバランスのバランスとは、バランスシート(貸借対照表)の意味合いもある」と述べ、家計における「決算」の重要性を述べています。中小企業の事業継承は、事業という公的な資産と、自身の個人資産を、どう後世に引き継ぐべきか、という重要な課題を孕んでいます。

そのため、事業継承にあたっては、会社のバランスシートと、人生のバランスシートを、いったん作成して見直す必要があるのです。つまり、自らが築いてきた事業の棚卸と、人生の棚卸が必要なのではないでしょうか。

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