さて、ここで「7割評価」の導入について振り返ってみると、平成4年11月17日付各市町村あて当時自治大臣書簡では、「平成6年度評価替えにおいては、地価公示価格の7割程度を目標に土地の評価額の均衡化・適正化を図るもの」として、「今回の見直しは固定資産税にとっては抜本的な改正に等しいものだがこの見直しが、いやしくも増税目的で行うとの誤解を受けることがあれば大変なこととなる」としており、また、「今回の固定資産税の見直しは、土地評価の均衡化、適正化を図ることが目的であり、増税を目的とするものではない」と、当時は増税目的でないことが強調されている(7)。

しかし、バブル崩壊後の長期にわたる地価下落によって、土地のストック価格は平成6年度の約1,680兆円から平成25年には約928兆円と約45%も目減り(8)したのに対し、土地分からの税収は平成6年度の3.26兆円から平成11年度にはピークの3.8兆円に達し(図2)、その後の更なる地価下落と負担調整措置にも関わらず、平成27年度見通しでも3.36兆円を維持している。

この結果からすれば、「7割評価」は実質的な増税として機能し、それがなければ、デフレ期における地方財政はより悪化していたと言っても過言ではない。「7割評価」によって土地評価の適正化や均衡化はかなり促進されたと評価されるが、結果的には、失われた20数年の中で、大きな負担を不動産等の所有者に与え、結果として日本経済の長期にわたる土地資産デフレを助長してきたものと考えられる。

税収はいったん増加した上で確かに横ばい傾向をとったため、当初の増加分を除けば、平成4年の自治大臣の書簡のように増収=増税ではないという見方もできる。それならば、現状を維持し、今後は更なる固定資産税だけの増税と納税者=不動産等所有者の負担増につながる特例措置等の縮減や廃止はやめて、それらを本則化し、今後は経済成長に応じて自然に無理のない税収増が得られるような基盤を確立することが重要と考えられる。

これまでの地価下落や不良債権処理、特定街区や総合設計制度など土地利用に係る制度運用の推進、経済回復などを背景に土地の有効利用が促進(9)されたことや住宅の品質が徐々に改善されてきたなどから、家屋からの税収が平成14年度以降は土地分をほぼ上回ったことも地方財政にとっては大きい。

平成27年度見通し額では、家屋分の税収は3.66兆円に達し、土地分の3.36兆円を上回る。さらに平成27年地価公示(1月1日時点)や都道府県地価調査(7月1日時点)をみると、三大都市圏の地価は多くの地点で上昇に転じている。三大都市圏(10)だけで固定資産税収の約70%を占めていることから、経済成長の持続によって、今後は土地からの税収は増収基調をとるものと判断される。

固定資産税 図2

「7割評価」導入による負担を補う特例措置や新築2分の1課税などを、更なる税負担の均衡化や適正化、地方財政の充実のために、順次、取りやめたり、従前や本則に戻したりするのが総務省の意図と判断するが、未だに日本銀行による金融異次元緩和に支えられている日本経済において、安易に短期的な展望から既に市場化された特例を廃止し、不動産所有者に対する税負担を高めるならば、地方税収は一時的には増えても、負担増分だけ地価は直ちに下落に転じ、地方経済を含めた景気低迷とデフレを助長することになりかねない。

負担調整のために経過措置を導入したとしても、増税が予定されている以上、将来期待の縮減は直ちに始まり地価は下落する。結局、長い時間をかけて、増税分を補う不動産市場や経済の成長を待たなければならない。

地方財政の充実を課題とした場合、主要財源であり、企業とは異なり移動することのない土地や建物、設備を対象となる固定資産税収への課税強化は徴税者が第一に検討したい選択肢であろうが、果たして地方財政の建て直しを不動産等の所有者の担税力にこれ以上依存することは適切なのだろうか。