いざというときに脳を活性化させる

いや、それでもまだ信じがたい、という疑り深い方のためには、なぜこのように運動と脳の関係があるかのメカニズムを解説しましょう。それが、この連載のバックボーンである進化心理学……と言いたいところですが、今回はどちらかというと脳生理学。心のはたらきというソフトウェア的な側面よりも、脳そのものがどのように形成されたかというハードウェア的な観点から考えてみたいと思います。

ただし、進化心理学も脳生理学もその狙いはたった一つに収斂されて、それが「生き延びること」。

ご存じのとおり、人間は自然界の中では肉体的弱者です。とくに人類誕生の100万年前の原始時代は、牙や爪を持った猛獣に取り囲まれて生存の危機に直面したこともあったでしょう。でも、今では地球上を席巻するまでになっているのは、進化の過程で脳を発達させることが上手だったから。その生き延びる工夫をみることで、運動と脳のはたらきの秘密を解き明かしたいと思います。

ただ、生き延びるという観点では、実は脳はやっかいな器官らしいですね。というのは、やたらエネルギー効率が悪いから。

一説によると、人間が1日に使うエネルギーのうち20%も脳が使っているといわれています。食糧が豊富な現代ならともかく、かつかつのエネルギー摂取で生き延びなければならない原始時代には、これは厳しかったことでしょう。脳を使うために、体の他の部分にエネルギーを使えなくて飢え死にしてしまっては、本末転倒というものです。

そこで、脳の発達の過程で考えられた解決策が、普段は脳を「アイドリング状態」にしておくというもの。これによって脳が使うカロリーをできるだけ抑えて、その分を体の他の器官に回すことができます。結果として飢え死にのリスクを減らし、「生き延びること」という最大の目的が達成されました。ただし、「いざ」という時は別ですけれど。

たとえば原始時代の「いざ」といえば、危険な猛獣から逃げ出したり、獲物を狩してエネルギー消費量を抑えるという戦術を採った人類は、「いざ」という時には脳を活性化するというメカニズムも同時に獲得しました。生命の危機に直面した時には、脳にカロリーを送り込んで判断に間違いがないようにするのです。

その時のトリガーになるのが「運動」。獲物から逃げたり狩りをしたりという「運動」がきっかけとなって脳が活性化するのです。これが冒頭に紹介したネイパーヴィルの奇跡の正体。意外に思える「運動すると脳がクリアになる」というのは、人類が太古の時代から養ってきた生存のためのメカニズムに裏打ちされていたのです。


ポイントは有酸素運

ということで、読者のみなさまにおかれては株の取引の前にはぜひ運動をしてみて下さい。

ちなみに、運動といっても筋トレとかではダメ。有酸素運動がいいそうで、たとえばネイパーヴィルの高校では、最大心拍数の80~90%の強度の運動を10分間したそうです。ただ、これは運動でいうと「キツイ」とか「非常にキツイ」と感じるものだそうで、実際のところはここまででなくても大丈夫。1分間に100歩以上のペースの早足を3分間でも効果があるそうなので、まずは気軽に取り組み始めてはいかがでしょうか。

マネーカレッジ代表 木田知廣(きだ・ともひろ)
きだ・ともひろ。ラジオ出演や執筆で活躍する他、ストーリーを駆使して面白く投資を学ぶセミナーが人気を博している。(記事提供:投資家ネット『 ジャパニーズインベスター 』)

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