中国は、デジタル人民元の発行に向けて着々と準備を進めている。早ければ2022年中に正式発行される予定で発行に向けた法改正の動きも表面化してきた。発行を控えて2021年9月には、仮想通貨の全面禁止も発表した中国。デジタル人民元の発行が経済に与えるインパクトとはどれほどのものなのだろうか。

目次

  1. 正式発行へ準備が進む「デジタル人民元」とは?
  2. 「デジタル人民元」の発行・流通の仕組みは?
    1. 第1階層
    2. 第2階層
    3. 第3階層
    4. 「仲介機関」が発行主体となる可能性も
  3. デジタル人民元発行の目的は?
    1. 管理コストや流通コストの削減
    2. 人民元の世界的な地位の向上
    3. お金の流れを把握するため?
  4. デジタル人民元発行の経済的インパクトは?
  5. 来る2022年北京オリンピックとの関連性は?
  6. 世界の主要国は戦々恐々

正式発行へ準備が進む「デジタル人民元」とは?

デジタル人民元は、中国の中央銀行に相当する「中国人民銀行」が管轄するデジタル通貨だ。2014年ごろにデジタル人民元のプロジェクトが始まり、すでに中国国内の複数の地域で試験運用が始まっている。中国人民銀行が2021年7月に公開した白書によれば試験運用においてデジタル人民元が使用可能な店舗は、2021年6月時点で約132万ヵ所ある。

また個人が開設した専用ウォレットの総数は、2,087万個に上る。試験運用におけるデジタル人民元の取引回数についても触れられており2019年末~2021年6月までに7,075万回、総取引金額は約345億元。1元=17.8円換算で約6,141億円だ。すでにこれだけの規模の運用実績があるため、正式発行が近づいていることにもうなずける。

「デジタル人民元」の発行・流通の仕組みは?

前述の通りデジタル人民元を発行するのは、中国人民銀行だ。消費者がデジタル人民元を利用する際には、市中銀行などが仲介機関として機能する。この点を3つの階層に分けてもう少し詳しく解説していこう。

第1階層

まず中国人民銀行が仲介機関に対してデジタル人民元を発行する。これがデジタル人民元の流通の第1階層だ。仲介機関は、中国人民銀行に対して発行を受けたデジタル人民元と同価値の「準備金」を渡す。ちなみに試験運用では「中国銀行」「中国建設銀行」「中国工商銀行」「中国農業銀行」の四大国有銀行などが仲介機関に選ばれている。

一方、デジタル人民元の正式発行後は、市中銀行のほか大手通信会社や大手IT企業も仲介機関に選ばれる見込みだ。

第2階層

仲介機関は、デジタル人民元を消費者に対して配布する役割を担う。消費者が仲介機関に入金した分のデジタル通貨が消費者のウォレットにチャージされる形だ。これが流通の第2階層となる。

第3階層

デジタル人民元を自らのウォレットにチャージした消費者は、デジタル人民元を使って店舗で商品を購入したりサービスを利用したりできるようになる。デジタル通貨で個人間送金もできるようになる見通しだ。

「仲介機関」が発行主体となる可能性も

2021年現在のところは、中国人民銀行がデジタル人民元の発行主体となる見通しだ。しかし仲介機関が発行主体となる可能性もある。その場合は、中国人民銀行が仲介機関に発行許可を出し仲介機関が消費者などに対して直接、デジタル人民元を発行する形となる。

デジタル人民元発行の目的は?

ここまでデジタル人民元について包括的に解説してきた。しかしそもそもなぜ中国では、デジタル人民元の発行を急いでいるのだろうか。以下の3つの視点から解説していく。

  • 管理コストや流通コストの削減
  • 人民元の世界的な地位の向上
  • お金の流れを把握するため?

管理コストや流通コストの削減

デジタル人民元は、貨幣のデジタル化によって貨幣管理のコストや流通のコストを削減できることがメリットの一つである。このメリットを享受できるのは、中国人民銀行だけではなく一般消費者や企業、市中銀行においても同様だ。分かりやすい例を挙げれば商品を販売する店舗では、人民元がデジタル化されることで現金を手で勘定する必要がなくなるため、売上金などを確認する手間が減る。また、売上金を銀行に入金しにいく手間もかからない。

人民元の世界的な地位の向上

世界の基軸通貨といえば「米ドル」だが、2021年時点でデジタル化されていない。そのためこのタイミングで人民元をデジタル化して世界市場で流通させれば将来的に人民元がデジタル通貨の基軸通貨として認識されるようになる可能性がある。もしデジタル通貨の基軸通貨としてデジタル人民元が認識されるようになれば世界におけるビジネスの重心が、米国から中国に傾いていく可能性もある。

つまり反米姿勢を強める中国にとってデジタル人民元の発行は、対米対策の一環ともいえるのだ。

お金の流れを把握するため?

「お金の流れを把握するため?」とクエスチョンマークをつけた理由は、不透明な点が多いからだ。デジタル通貨の場合、利用者や利用金額の情報が匿名化されなければ発行主体が個人のお金の流れを把握することができる。中国人民銀行は、「匿名化を施す」としているが本当に匿名化の実効性があるのかプライバシーを懸念する声は少なくない。

お金の流れをつかめることは、中国政府にとっては都合が良い。なぜなら民間企業の資金の流れを事細かに把握できたり脱税行為も摘発しやすくなったりするからだ。とはいえ、いずれにしてもこういった不透明な点が存在する以上、まだしばらく動向を注視する必要があるだろう。

デジタル人民元発行の経済的インパクトは?

デジタル人民元が経済に与えるインパクトの一つしては、発行の目的としても紹介した「人民元の国際的な地位の向上」が挙げられる。ただでさえ中国のプレゼンスが世界的に高まる中、デジタル人民元の発行は、その流れをさらに加速させるだろう。ちなみに各国の中央銀行が発行するデジタル通貨のことを「CBDC」(Central Bank Digital Currency)と呼ぶ。

中国がCBDCでいち早く成功を収めることができれば他国に対して発行・運用のノウハウを「輸出」することができるかもしれない。東南アジアでは、カンボジアやラオスなどが親中国家として知られ将来的にこうした国がCBDCを発行する際、中国が舵取りをする可能性は相当高いといえる。また中国は、アフリカ諸国へのアプローチも強化しているため、こうした国でのCBDC発行を主導する可能性もあるだろう。

来る2022年北京オリンピックとの関連性は?

中国では、2022年2月から北京冬季オリンピックが開催される。中国政府は、オリンピックにおいてデジタル人民元を試験的に発行する計画を立てているようだ。具体的には、会場などでデジタル人民元を使用できるようにするものとみられる。ちなみに、東京オリンピックでは選手村に導入したトヨタの自動運転EV(電気自動車)「e-Palette」が世界から注目を浴びた。

北京冬季オリンピック向けにデジタル人民元が発行されれば「デジタル先進国」「フィンテック先進国」としての中国の存在感をより高められるだろう。「中国政府は北京冬季オリンピックまでにデジタル人民元の正式発行を目指している」という報道もあり、試験運用ではなく正式発行されたデジタル人民元が会場で使えるようになる可能性もある。

北京冬季オリンピックは、日本人選手の活躍だけではなくデジタル人民元についても注目したいところだ。

世界の主要国は戦々恐々

デジタル人民元の試験運用の行方を、世界の主要国は戦々恐々としながら注視している。2021年時点で中国は、法定通貨のデジタル化で最も進んでいる国家といえるだろう。そのためデジタル人民元発行による自国への悪影響を懸念している国も少なくないはずだ。ちなみにわが国では、2021年時点でCBDCを発行する計画はない。

しかし日本銀行では、2021年4月5日からすでにCBDCの実証実験(概念実証フェーズ1)を開始したことを公表されている。そのためまずは、実証実験の進捗に注目したいところだ。実証実験は、2022年3月までの予定である。世界的なCBDC発行の流れが加速すれば将来デジタル人民元に対抗すべく「デジタル円」が発行される日が訪れる可能性もあるだろう。

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